第52話 宝物庫
「わあ、すごい……!」
地下牢には入ったきたときと別の扉がいくつかあり、それぞれの先には違う色の通路が伸びていた。
私たちが意図もわからずただただついて回るなか、ルイスは片っ端から扉を開けていき、ついに黄色い通路につながる扉を見つけると、いたずらそうに笑ってからその通路を振り返りもせず進み始めたのだった。
黄色い通路を進むと、その先にはまた扉があった。
その扉をゆっくりと開けるルイスの横顔があまりにイキイキとしているので不思議に思って────扉の向こうに広がる光景を見た途端、私はおおいに納得しながら飛び跳ねたくなるような興奮を味わったのだった。
「レヴィン様見て! これって何に使うんでしょう?」
部屋の中には、所狭しと本やあらゆる道具、服飾品などが置かれていて、そのどれもがどことなく、ただならぬ代物であるような雰囲気を醸し出していると感じた。
「……懐かしい。これは季節外れの花を咲かせる魔道具だね」
「すごい。そんな魔法があるなんて、僕聞いたことなかったです」
「僕もないな。けどそんなすごい魔道具なら、なんでこんな倉庫みたいなところにあるんだろう?」
「これらがどんな価値のある魔道具なのか、誰にもわからなかったから……じゃないかな」
ルイスの言葉に、全員がああ……とうなずく。
たしかにどんなに優れた魔道具でも、用途がわからなければそれはガラクタになり下がるに違いない。
私たちとて、レヴィン様の知識がなければ、それらが一体どんな目的でつくられた道具なのか知る由もなかったはずなのだから。
「昔ラッセンと忍び込んだのはまさにこの宝物庫だった。ここで気づいたんだ。陛下でさえ使い方もわからない魔道具がこんなに大量にあるなんて……過去に絶対、隠されている何かがあったはずだとね」
「過去には本当に、こんな色んな魔道具が、存在してたのか……? 魔物と共生していたころは」
「魔道具だけじゃない。魔法も、かつてはもっと多様だった」
「ねえ、この本、手記かな?」
お兄様がめずらしく大きめの声を出したので、私たちはみんなしてそちらを振り返る。
その手にあったのは、とても分厚く、豪華な黒い皮革でていねいに装丁された本で、中にはびっしりと文字が書かれているようだった。
「これは、初代国王陛下……いや、正確には輝かしい歴史のなかで初代とされているロートリー陛下の手記だ」
そう言ってすさまじい勢いでページをめくっていくルイスが、ふと泣きそうに顔をゆがめ、ははは……と乾いた笑い声をあげた。
「すべて、本当に嘘だったのか。建国史以来、民を守ってきたと教えられていたこの尊ぶべき血脈が。そう信じていたのに、なんてことを…………」
「過去のことよ、ルイス。どんな血を引いていようが、あなたという人間はあなたが考え、行動してきたことでだけ定義される。そう教えてくれたのはルイスでしょう」
かつて、グアラ王国に行く途中の船で、ルイスがかけてくれた言葉。
私を救ってくれた言葉だから、私はこれからもずっと、その重みを忘れることはないだろう。
「…………それをいうなら私もお兄様も、ジレス様も……魔法使い狩りに貢献した血脈をついでいるということですから」
「なんか、吐き気がする……」
「僕もだ」
ジレス様とお兄様が少し顔色を悪くする横で、レヴィン様は何の表情もなくただそこに立っていて、それがなんだかとても印象的に思えた。
「僕が子供のころ、かなり探索したつもりだったんだけどな。こんな目立つ本にどうして気づかなかったんだろう? はやく知っていたかった……」
「…………その本だけでなく、あらゆる本が魔法で隠されていたようだね」
そう言ってレヴィン様が手をかざしたところに、それまでは見えなかった本棚が現れる。
本棚にはしっかりとした装丁の本が何冊もきれいに収まっていて、私たちは思わずほう、とため息を漏らした。
「最近になって、年月の経過にともなって隠ぺい魔法の効力が弱まり、亀裂ができて本が飛び出してきたんだろう。おそらく使役魔法もそうやって、王に気づかれたんだろうね」
「ということは、このあたりに……」
私が言いながらきょろきょろしていると、後ろであっ、とユアンお兄様の声が上がる。
「これ、魔法陣がたくさん載ってるよ」
「本当だ。戦術書……みたいだな」
ジレス様の言葉に、私やルイスも吸い寄せられるようにその本を見に近寄る。
たしかに本には戦時中の心理戦や兵法について詳細に書かれているようで、私たちはしばらく、使役魔法の魔法陣の話などすっかり忘れて夢中でページをめくり続けた。
「……魔法陣のことはもういいの?」
「あ。本当の目的を見失うところでしたわ」
「レヴィン様ありがとう。そうだね、この流れだとこのへんに……あるね」
ルイスの人差し指がさしたところに書かれた「使役魔法について」という項目を見て、ぞっとしながらも文字の上に目をすべらせる。
そこには確かに、いかにして魔法陣をかき、生贄を用意し、呪文を唱えて使役魔法を発動するのかや、使役魔法がなにをもたらすかなどが丁寧かつ若干の狂気をはらんで記されていた。
「本当に、こりゃ魔法じゃなく……呪いですね」
「うう、気持ち悪い……」
「お兄様はもう見ないでください! こんなものを見たら……見たら……」
「本当にそうだね。さあ、こんな本を……どこに隠そうか」
ルイスの言葉に、私たちは同時にうなった。
葬り去るにはあまりに惜しい本だけれど危険性が高いうえ、陛下に見つからないように保管しないといけない。
とはいえ、王家の所有物だし……。
「…………ルイス、責任を持てますか? この本をあなたの手元に置いてなお、使役魔法やこうした呪いのような魔法に手を出さないと」
私の言葉に、レヴィン様が横でふっと笑う。
ユアンお兄様やジレス様も息をのんで答えを待つ中、目の前のルイスはしばらく長い睫毛をふせた。
そして小さく息を吐き、ようやく、強い意志をともしたアメジストの瞳をこちらに向けて言った。
「この名に懸けて約束しよう。君の心を乱し、守るべき者を傷つけることは絶対にしないと」




