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【完結】悪役流儀の世界の変え方  作者: はるしののみや
3章 14才 魔法学院
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第51話 王城③


 石造りの螺旋階段は妙に冷気で満ちていて、すぅと息を吸い込むと体の芯まで冷えるような感覚がする。


 男性陣の歩幅について歩きやすいように裸足で来たから、それも寒く感じる原因の一つかもしれなかった。



 あの後、長い長い会議を終えたルイスが、疲れを感じさせない飄々とした様子で部屋に戻ってきたとき、私たちは全員、思わず立ち上がって彼を出迎えた。


「どうでしたか、いったいどんな議題が……」

「うん、シャーリーン、大丈夫だよ。陛下の思い通りになるものは何ひとつない」


 ルイスが私の頭を優しくなで、ジレス様とお兄様にもにこりと微笑みを向けながら言う。


 その言葉が優しい表情に反してあまりに勇ましく、私たちは三人とも、ついついポカンとしてしまったのだった。 


「えーっと、つまり……」

「おおむね三人の言う通りだった。だけど計画は頓挫せざるを得なくなるはずだから不安に思うことはない。事前に聞いておいたおかげで僕も手を回せたよ、ありがとう」


 事前って、会議の五分前とかだけど……とは思いつつ、あまりに華麗かつ軽く言うルイスに私はかなわないな、と思ってへらりと笑ったのだった。



「ところでルイスはいつ知ったんですか? 地下の存在……」


 螺旋階段をおりながら私が訪ねると、ルイスはうーん、と少し考えてから言った。


「昔、ラッセンと行ったことがあるんだ。あれは偶然だったけど、そのあと何度か遊びに行ったかな。まあ、その時使えた通路は今はなくなってしまって、こうしてみんなの力をかりることになったけどね」



 陛下が動物を使役し、それを使ってほかの国を脅かそうとしていたことが確かになった今。


 また同じことを計画できないよう、使役されている動物たちを解放し、使役魔法に関する書物も陛下のもとから回収すべきでは、と言った私に、ルイスは言った。


「地下には隠し事がおおいよ。確率は高いと思う」

「王城に地下室ですか? 初めて聞きますね」

「陛下以外は本来、出入りできないからね」

「……どうやって行くかは、ルイス殿下はご存じなんですか?」

「いや、わからない。陛下の部屋からか、あるいは……。待って、地図をもってこよう」


 そうしてルイスが持ってきた王城の見取り図をみんなで囲んだかと思うと、ルイスとジレス様とお兄様は三人で地下へつながる道があるとすればここかここじゃないか、とかなんとか、いくつかの候補を出して議論し始めた。


 ……いやあ、三人ともほんと優秀なのね。すごいわ……。

 と思いながら、私は横でぼけっと見ていたのだけど。



 結論として、地下への入り口があるのは、陛下の寝室がある塔の書架だった。


 あまり人が行き来しない通路にあり、陛下の寝室からも隠し扉でつながっているらしい。



 大きな部屋ではなかったけれど、四人で手分けして地下へと続く道への手がかりを探し、最終的に、ある一冊の本を抜いたとたんに壁が大きく動いて地下への階段があらわになり、私たちは小声で歓声をあげたのだった。


「あ、扉じゃないか? あれ」


 深く進んだ先に、夜目が利くのかジレス様が真っ先に扉をみつけ、小さく声を上げる。


 この先にあるものを想像すると、見たいような見たくないような複雑な気持ちに襲われた。


 山で見たあのクマのように使役魔法をかけられた動物が、本当にいるのだとしたら……。


「迷ってる顔をしてる」


 ルイスが私を見て微笑んだ。


「見たくないなら、僕だけが行って、中のことをシャーリーンに教えることだってできるよ」

「……いいえ、行きます。自分の目で見たいもの」


 そう答えると、一番前にいたルイスは私の目をじっと見た後に、笑ってドアノブに手をかけた。




 ◇◇◇




「……想像以上ですね」



 扉の先は地下牢になっていた。


 とても広いスペースに、無機質に牢が並んでいるさまに少しぞっとする。


 なにより、その牢のなかには数えきれないほどの動物たちがうつろな目をしてとらわれていて、私たちは思わずしばらく絶句した。


「クマにゾウに……こんなのが集団で町を突然荒らしに来たら、なすすべもないだろうな」

「普段訓練してる騎士でも対処は厳しいよね……きっと」

「これだけの数に使役魔法をかけているということは、相当の人間が生贄になっているということですわ。一体……」


 私がつづく言葉を紡げずにいると、ジレス様が言った。


「カラスの仕業だろうな」

「カラスって……」

「生贄にされたのが他国の民か自国の民かまではわからないけど、いずれにせよ陛下が平民の数が減ることに何か懸念をもつとも思えないからな。どこかから連れてきて生贄にしたんだろう」

「……残念ながら同意だね」


 ルイスの言葉に、私はぐっとこぶしを握り締める。


 その手を、お兄様がぎゅっと握ってくれて、私は少し力が抜けるのを感じた。


「……彼らを解放しましょう。ねえレヴィン様、それでいいわよね?」

「もちろん」


 突然ここにいる四人とは別の声が聞こえ、お兄様たちが目をぱちくりとさせる。


 少しして、幻聴だったかと二人が首を傾げた瞬間、空中にポン、と現れたトカゲ(レヴィン様)が、みるみるうちに大きくなって人型へと変わりはじめた。


「……なんか、こうやって目の前にしても信じがたいな」

「不思議な光景だね……」


 少し前、レヴィン様のことや私が知る限りのこの世界のことをお兄様やジレス様には共有していたものの、レヴィン様の変身シーンを実際に見るのは彼らにとってなかなか刺激的なものだったらしい。


 私はそんな二人を横目に、虚空を見つめてじっとしているすさまじい数の動物たちの姿を見やり、きゅっと唇をひき結んだ。


「人の欲望に囚われた者たちに、安寧を」

「かわいそうな魂に、眠りを」


 静かに牢に歩み寄ったレヴィン様が優しい声で歌うように呟く。


 私はその横に立ち、ともに魔法を発動した──────動物の全身の血を抜いて殺してしまう、残酷な魔法を。



 けれど、使役された生き物を救う方法は、死しかない。


 彼らは術者に自死を命じられるか、全身の血を抜かれたときにしか、安寧を得ることはかなわないからだ。



 レヴィン様は当然、こんな魔法はひとりで発動することができる。


 けれど、ただでさえ心優しいこのドラゴンに、いくら安らかに眠らせるためとはいえ、動物に死を与えるという苦痛をひとりで味わってほしくなかった。



 だから私も一緒に背負う。


 悲しみを、ヒトの業を、これからの未来でこのようなことを起こさないという誓いをこめて。



「みんなおやすみ」



 レヴィン様の穏やかな声が地下牢に響く。

 そして、残ったものはあまたの動物の亡骸と、黒く染まった血だまりだけだった。



「壮大な計画は大貴族たちの猛反対にあい、大事に仕上げた動物たちは使役魔法が解けて頓挫……陛下もさすがにお怒りになるだろうかな」


 誰もがしばらく無言で突っ立っていた中、ジレス様が苦笑しながら言う。


 私は黙って床に残った血だまりを魔法ですべて蒸発させながら尋ねた。


「地下に、ほかの部屋もありそうでしたか? 陛下が持つ使役魔法に関する書物を回収しないと。もしかして執務室に? まあ、魔法陣形や呪文を陛下がすでに覚えていたら、本を回収したところでどうしようもないですが……」

「このレベルの魔法なら陣形も相当複雑じゃないか? おそらく本がないと発動できないだろう」

「機密性が高いからこそ、複写なんかもしてない可能性が高いしね。シャーリーンの言う通り、本をまず回収しよう。地下にはほかにも部屋があるけど、たくさんあって……何か手がかりはあるかな?」

「…………そういえばガラクタがどうだ、宝物庫がどうだと言ってたような気がするよね」


 ややあって、お兄様がそうつぶやくと、それを聞いたルイスがああ、とうなずいた。


「それなら、僕が案内できると思うよ」


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