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【完結】悪役流儀の世界の変え方  作者: はるしののみや
3章 14才 魔法学院
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第46話 夏休み


 夏休みになった。


 サルシム学院も、前世の頃と同じように夏には大型のお休みがある。


 ここの生徒たちはたいてい貴族のご子息ご令嬢だからか、多くのは別荘に行ったり旅行に行ったりしてこの期間をのんびり過ごすらしかった。



 皆どことなくふわふわした様子の教室の中で、「リゾートアイランドへ行くの」と言って皆から羨望のまなざしを向けられている生徒がいるのを見たときは思わずちょっとにやけた。


 もうずいぶん経つけど、みんな元気にしてるかしら?



 グリーナワ家も例に漏れず、休みの間中は、避暑地の別邸にうつってのんびり過ごす予定らしい。


 朝食の時、乗馬がどうとかアフタヌーンティーの予約がどうとか楽しそうに話しているお母様を見て、皿の上をころころ転がるマスカットと格闘しながら私は言った。


「夏休み、楽しみですわね!」

「……あらシャーリーン、まさか聞いていなかったなんて言わないわよね」

「え?」

「あなたは居残りで家でずうっと、お勉強よ」

「え?」

「お母様、シャーリーンは真面目にやってこれなんですよ。どうか許してあげてください」

「人には生来の得手不得手というのがあるからな」

「まあ! 男二人してシャーリーンを甘やかすのですか?」

「そんな。私、ちゃんと頑張ってそれっぽくしてますわ!」

「そういうところがだめなのよシャーリーン」


 じとりとお母様ににらまれ、私はしゅんとした。


 期末試験でいい成績をとれなかったので、それ以来お母様はずっと私への風当たりが強いのだ。



 お母様はもう、もっと小さいころから私には裁縫の才能がないことに気づいていたし、既に諦めの境地に達していたはずなのだ。


 けれど最近、社交界に出ると私のかわりにエルシーを殿下たちの婚約者にすべきだとかなんだとか、それをダシにしてグリーナワ家を貶めようとする貴族も増えているらしく、そういう人たちのつけ入る「スキ」をつくってしまった私に、母はお怒りらしかった。


 ……これはもう反省というか、私が悪いわよね……。うん。


 だけど!


「お母様……どうか御慈悲を! さもなくばお母様がいない間にものすごく変な恰好で貴族街を練り歩きますわよ! ネオンピンクの全身タイツか、カーテンの切れ端でつくったワンピース!」

「ああ! 親を脅すだなんて! アラン様なんとか言ってください」

「……シャーリーン。お前は、私たちが別荘に行っている間王都に残りなさい」

「そんな! 殺生な!」

「その間」


 お父様の真剣な顔に、私はごくりと唾をのむ。


 そして続けて聞こえてきたお父様のセリフに、私は思わずぽかんとしたのだった。


「王城に住み込んで勉強しろ。夏のあいだ、ティファニーが王妃教育をしてくださるそうだ」

「え?! ティファニー先生が?! あはは、ご冗談を!」

「ティファニーは今の王妃殿下の教育も担当していたが?」

「…………え、あのティファニー先生ですよね?」


 ムキムキマッチョでピンク髪の、あのエルフのティファニー先生が、王妃教育?


「というか、どうして城に行ってまで王妃教育なんてしないといけないんですか? 私とルイスは別に」

「シャーリーン? あなたって子は、本当にお馬鹿ね」


 私の言葉を遮り、お母様が口元に美しい弧を描く。


「エルシー・ローグと一緒に教育するんですって。どちらがふさわしいか、陛下は比べたいそうよ? 外の国の少女と、グリーナワ公爵家の大事な娘が比較されている、その屈辱があなたにわかるかしら? 比べるまでもない圧倒的な力を誇示していたなら、こんなことにはならなかったのよ?」

「あ、あの……すみません」

「わかったらおとなしく王城で朝から晩まで教育を受けなさい。ティファニーに、あなたこそが王妃の器だとはっきり言わせるのよ」

「…………お母さまは、私が王妃になることをお望みなのですか?」


 私が少し遠慮がちに問うと、お母さまはまた、社交界で令嬢たちをぶちのめスマイルを浮かべて言った。


「シャーリーン。王妃とかそんなことはどうでもいいの。ただ、私の娘が誰かと天秤にかけられてたら、あなたがナンバーワンだと堂々と言いたいのよ。私の娘ともあろうものが、社交界でその辺のマダムやご令嬢に好き勝手言われてんじゃないわよ、って言ってるの。わかる?」

「……ハイ」

「けどそんなあなたに一つ、プレゼントがあるわ」

「なんでしょうか……」

「ユアンが王都に残って、時々あなたの面倒を見に行ってくれるそうよ」

「ヤッターーーーーーーーーーーー!!」




 ◇◇◇




 そういえば、王宮の中にまで入り込むのは初めてかもしれない。


 庭までは以前、国王陛下のお祝いパーティーで行ったことがあったっけ。


 そしてあの日初めて、自分がごくごく普通に、ありのままで生きていくことができない存在なのだと思い知ったのだ。


 あの時は色々と思い悩んだけれど、今となっては秘密とともにたくましく生きるのが当然になってしまったから……なんだか随分遠い昔のことに思える。


「お城の中、とてつもなくゴージャスですね」

「そうだね。うちも相当すごいけど……ね」


 さすが国王陛下らが住む場所というだけあって、城の中はこの世のきれいなものや高価なものや珍しいものを全部集めた内観をしている。


 貴重な絵画や美しいツボやシャンデリアとなめらかで美しい絨毯。

 ああ、あれ倒したらどれだけの借金を負うことになるのかしら……。


 こんな中で物心もつかない幼い頃からうろうろしてるなんて、ルイスやヴィンセント様は道理で鋼の心臓なわけだわ。


「もし壊してしまったら、やはり弁償ですかね?」

「どうだろう。でも普通に歩いてる分には、そういうことは起こらないんじゃないかな?」

「もし走りたい衝動に駆られたら、待ち受けるのは労働漬けの日々……か」

「だから僕が手をつないでるよ」


 困ったようにつぶやいたお兄様を見て、私はにっと笑った。



 王妃教育という名の、王城軟禁生活初日。


 私のことを心配して一緒に登城してくれることになったお兄様が尊すぎて、私は天を仰ぐ。


 ……はあ、お兄様がいなければボイコットしてるとこだったわ。


 いや、実際のところ、お母さまが怖いからそんなことできるわけないけど……。


 とはいえ嬉しいことは、しばらくの城内生活においては私も来賓として扱われるらしく、すてきなお部屋とおいしい食事が出るらしい。


 海辺の別荘も行きたかったけど、まあこれはこれでありと思うことにしよう。



 そう考えながらお兄様と歩いていると、向こうから同じくらいの背丈の女の子が近づいてくるのが見えた。


「……あら、シャーリーン様にユアン様」

「こんにちは、エルシーさん」

「シャーリーン様は、これからしばらく、よろしくお願いしますね?」


 ヒロインが、ヒロインらしくにっこりと華やかにほほ笑む。


 私もぐっと口角を上げ、背筋を伸ばして答えた。


「ええ。よろしくね?」


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