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【完結】悪役流儀の世界の変え方  作者: はるしののみや
3章 14才 魔法学院
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第40話 疑惑①


「なんだあれは? 邪魔だな」

「ヴィンセント様って、すごく横暴でらっしゃいますよね。口も悪くてぶっきらぼうですし、時々びっくりしますわ」

「マリベル、私も今びっくりしたわ。あなたも言うようになったわね……」


 サルシム学院の授業は、大学のスタイルに近い。


 つまり、教室に先生が来るのではなく、生徒が移動して教師のいる部屋へ行き、授業を受ける形であるということなんだけど、これがなかなか大変なのだ。


 なにせ学院の敷地は広大なので、移動教室にはそれだけ時間もかかる。


 本来この学院では授業外で魔法を使うことが禁じられていることや、校内の馬車通行が禁じられていることもあって、どんな身分の者もひとしく徒歩で移動教室をすることになっている。


 ……といいながら、私は魔法の発動に詠唱や魔法陣がいらないおかげで、ばれずに何度か魔法で転移して遅刻を免れたことがあるけど。



 そんなわけで、今日も今日とてせっせと一緒に移動教室にいそしむ私たちは、もはやおなじみとなった三人組である私とヴィンセント様、そしてマリベルだ。


 そしてたわいもない話をしながら歩いていると、急にきれいな顔をゆがませて立ち止まったヴィンセント様がつぶやいた────のが、冒頭の言葉だ。



 たしかに目の前には廊下をふさぐように生徒が複数人集まっていて、私たちはいっせいに首を傾げた。


「何かあったのでしょうか? 私が先にみてまいりま……」

「あら、ふしだらなことをして婚約者を裏切った方にしては、お元気そうですねえ?」

「あまりに恥知らずで驚きますわあ。貴族とは思えないわね」

「生きているのが恥ずかしくありませんこと?」


 聞こえてきたいやなかんじのセリフと声に、私は思わず眉を寄せる。


 よく見ると、廊下にいたのはクスクスと嫌味に笑う令嬢たちと、その真ん中でじっと黙って立っているひとりの女生徒だった。


「あ、真ん中にいるのはシガール伯爵家のラピス令嬢ですね。侯爵家の長男であるゴードン様の婚約者だった……」

「婚約者だった、ってどういうこと?」


 マリベルの言葉に私が尋ねると、マリベルが苦々しい顔をしていった。


「少し前に、エルシー様の預言があったんです。ラピス令嬢は夫を裏切るから、婚約者を考え直したほうがいいと」

「そんなことがあったの?」

「はい、ゴードン様とラピス様がお二人並んで歩いてらっしゃるときに、突然現れたエルシー様が預言を残して倒れられました。それ以降、どうもお二人の仲がこじれてしまったようで」

「それで、あれは何なんだ? 寄ってたかって何をしてるんだ」


 そんなことはどうでもいいといわんばかりのヴィンセント様が、あごで前方を遮っている女生徒たちを指すと、気まずそうに声を潜めたマリベルが続けた。


「婚約破棄以降ラピス様への風当たりがつよく、社交界でも学院でも問題児扱いになっていると噂は聞きました。でも実際に目にしたのは初めてです……」

「問題児扱いですって? あらそう。わかったわ」


 犯してもない罪を勝手に着せられ、婚約破棄され、問題児扱いされていじめられてるってこと?


 それって、まったくもって理不尽な話だわ。


「……ちょっと、あなたたち。邪魔ですわ」


 女生徒たちにずかずかと近づき、あえて通る声で高圧的に言う。


 すると、廊下をふさいでいた令嬢たちが驚いて一斉にパッとこちらを向いた。


「シャ、シャーリーン・グリーナワ……様」

「さっきから聞こえていたけれど、みっともないのは貴方たちよ。婚約者を失った女の子を慰めこそすれ、その態度は貴族令嬢の風上にも置けないでしょうね。そうでしょうヴィンセント様?」

「は? ああ、邪魔だ、どいてくれ」

「穢れた公女らしく、この女の肩を持つのですか? かわいそうなゴードン様のことを想えば……」

「どうしてまだ犯してもいない罪の責任を取る必要があるの? ゴードン様はこの子に、現時点で、一体何をされたのかしら? 未来なんてだれにもわかりはしないわよ。預言というのは……」


 その時ふと頭に疑問がわいて、私は尋ねた。


「エルシー様はよくこうした預言をするのかしら?」

「え? ええ、そうですわ。まさか知らないんですの? だからこそ両陛下に大切にされてらっしゃるというのに……」

「貴方にまとわりつかれているルイス様がおかわいそうです。エルシー様のほうが婚約者としてお似合いですのに。両陛下もそう思って」

「おい、陛下のお考えを勝手にはかるな。不敬にもほどがあるぞ」


 黙って聞いていたヴィンセント様のうっとうしげな声が響き、令嬢たちがはっとしたように静まり返る。


 そうしてしばらくしてから、ヴィンセント様がやれやれとため息をついた。


「シャーリーン以外が兄上の婚約者になることはない。今のうちにケンカじゃなく媚を売っておいたほうがいいぞ」

「し、しかし……」

「そんなことより私の質問に答えなさい。エルシー嬢の預言についてよ」

「…………はい。いろいろご助言くださいます。先日は、ミーナ嬢には気をつけろと私たちにおっしゃって」

「ええ、ええ、あの時は助かりましたわね。どういうことかと思っていたら、先日我が家で開催したお茶会の際に、宝石を盗んでいたことがわかったんですの」

「そんなことするからリード侯爵家との縁談が破談になったのよ。自業自得ですわね」

「ええ! それに、アマンダ嬢もでしょう。エルシー様の言葉通り、婚約者がいるのに他の男と……!」

「エルシー様は、翌日の天気を見事に当てたこともございましたわ! 雨が降るから裾が濡れにくい服を着たほうがいいとアドバイスくださったり……」


 次々と出てくる令嬢たちの話に、私は頭が痛くなるのを感じながら耳を傾けた。


「なるほどね。そう、教えてくださってありがとう。それにしても、寄ってたかって一人を囲むなんて真似、まともな家系の殿方と結婚したい令嬢のすることじゃないわよ。そうでしょう、ヴィンセント様?」

「は? うん、目障りだから道の真ん中からどいてくれ」

「し、失礼いたしました……!」


 こそこそとこちらをうかがい見ながら去っていく女生徒たちを見送り、私がハアと息をつくと、マリベルが拍手しながら飛び跳ねた。


「さすがシャーリーン様! それに比べてヴィンセント様って、恋愛できるんでしょうか? シャーリーン様の求める受け答えを全然できないんですから!」

「なんだと? どういうことだ」


 マリベルの言葉に、私は苦笑しながらもラピス嬢に向き直る。



 そういえば入学以来、はじめは私を間引かれ損ないの穢れだのなんだのと陰口を言ってくる生徒も多くいたけれど、最近は少し目線が変わってきている気がする。


 理由のひとつは、学院のみんなに私の魔力が実はそこまで「大したことない」「強い魔女じゃない」と思わせるため、魔法実践の授業で平均くらいに見えるように魔力をコントロールしたり、みんなに倣って魔法陣や呪文を唱えたりしていること。


 ──────もちろん属性は、自属性(ということにしている)土魔法のみをつかっている。


 そしてもうひとつの理由は、マリヴェイユのモデルをして多くの女性から憧れの目線を向けられるようになったことだ……そう、こんなふうに。


「えーと。で、大丈夫かしら? あなた、ラピス嬢だったわね」

「…………はい、シャーリーン様。本当にありがとうございます。また、ヴィンセント第二王子殿下に、私、ラピス・シガールが拝謁します。お二方とその尊いご友人にお見苦しいところをお見せしてしまい、大変申し訳ございません」

「……あんな目にあってまで気丈にふるまう必要なんてないわ。ゆっくり休みなさい。次あんな目にあったら私に言ってくれたらシメるのを手伝うわ」

「……ありがとうございます」


 そう言ってさみしげに笑うラピス令嬢は、どこまでもおしとやかで悪意などかけらも感じさえない少女だ。


 私はその様子をじっと見てから、すこし控えめに尋ねた。


「婚約破棄の理由にはまったく心当たりがない、ですよね?」

「……お恥ずかしいことです。私がふがいないばかりに、相手を不安にさせてしまうような行動をとってしまったのでしょう」

「そんな! とても仲睦まじいカップルでしたのに……」


 マリベルが思わずといったふうに口をはさんだのを見て、ラピス令嬢は上品に笑った。


「そう信じていました。そんな私がおごっていたのかもしれませんね」


 そういって礼を改めて述べたラピス令嬢は、最後まで上品に会釈して立ち去った。


「……素敵なご令嬢ですわね」

「そうですよね! もちろんシャーリーン様が一番ですが、ラピス様は非常に男性からの人気も元々高く家門もよいですし」

「マリベル、そういえばさっきの令嬢たちが言ってた話だけど。最近婚約破棄した侯爵家令息が複数人いるのかしら? みんな今はどうしてるの」

「ゴードン様以外にお二人いますね。自分の未来を変えてくれたということで、皆さん非常にエルシー様をお慕いし、尽くしてらっしゃるようですが」

「そうなのね。宝石を盗んだ令嬢というのは、貧しい家門なのかしら?」

「いえ。少し前まで、侯爵家の婚約者にふさわしいご令嬢だと言われていましたし、盗みだなんて本当に気の迷いだったのでしょうね……」


 マリベルの言葉に、私はもやもやとした気持ちを抱えながらうなずいた。


「そう。ありがとう」

「そんなことより移動教室に遅れるんじゃないか? 俺の魔法で、教室に俺たちの影を飛ばしておくのはどうだろう? あとでそーっと入れ替わるんだ」

「面白いですわね。それやってみましょう」

「ちょっとお二人とも、それは校則違反で……また怒られますよ!」

「遅れても怒られるじゃない」

「遅刻のほうがましです! 前回校則違反がばれたとき、ヴィンセント様、王国史の書き写しを48時間ぶっつづけでさせられたじゃないですか……」

「あれ、実は私が手伝ってあげたのよ」


 魔法を使って、ヴィンセント様の筆跡に似せた書体で王国史の複製をつくっただけよ、実は10秒もかからず終わって残りは一緒に遊んでたわ。


 とは言えず、私は「マリベルも罰則を与えられたら私が手伝ってあげる」とだけ言って笑ったのだった。


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