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【完結】悪役流儀の世界の変え方  作者: はるしののみや
2章 10〜11才 旅の仲間
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第33話 湖の先②


 エルフの住むこの場所は、深い深い森の中に円形劇場のように広がっている。


 真ん中には小高い丘があり、そこに私たちが最初に辿り着いた神殿が鎮座している。


 そして、神殿のある丘の下には放射状に街が広がり、大陸中のエルフが皆ここで暮らしているらしい。


「エルフの文字は文字っていうより絵みたいなんだ。……やっぱり、まったく読めないな」


 エルフが敬っているドラゴン、しかもその王であるレヴィン様が同伴していたおかげなのか、私たちはエルフの森で十分にもてなされ、しばらくの滞在許可も得ることとなった。


 そして、レヴィン様といるかぎりは観光もOKとお墨付きをもらった私たちが最初に訪れたのは、図書館だった。



 静かな雰囲気はラートッハの王立図書館と共通しているけれど、置いている書物はまったく違うし、面白い光景も多く見られた。


 たとえば机に座って真剣に本を読んでるエルフたちの何人かは、本に書かれた文字を空中に浮き上がらせて読み上げてはモグモグと食べていて、テトラは驚きすぎてギャッと声を上げた。


 レヴィン様曰く「あれは記憶術の一つだよ」とのことで、試験前の学生なんかは覚えた文字を食べてしまうことで忘れないように自分を戒めるらしい。


 …………なんか前世で、紙の辞書で英単語覚えたページからむしゃむしゃ食べる勉強法をやってる子がいたとかいう都市伝説を聞いたことがあるけど、そんな感じなのかもしれない。


 あの本は文字がなくなって真っ白なページになっちゃわないのかしらと言うと、レヴィン様は「だから司書は復元魔法に特別長けているんだ」と笑っていた。



「ねえ、シャーリーンちゃん。これはなんて書いてるの?」


 装丁の美しい本を開いて象形文字のようなエルフの言語をなぞりながら、テトラが私に尋ねた。


「えーっと。ヒトは魔法の本質を知らず、魔法の扱いも下手なのに、大陸を支配したような気で……あ、これは辛口批評家の本みたいなので、みんながそう思っているわけではないかと思いますけれど」

「ここに来る間にも思ったけど、魔法が街のあちこちで当然のように見られるもんなあ。エルフは俺たちよりずっと魔法をうまく使えるってことか。魔物みたいに」

「……そうか。レヴィン様、魔物やエルフはもしかして、魔道具の製作にもかつて携わっていましたか?」

「魔物はあんまり。でもエルフは大好きだった。ものづくりが好きな種族だから」


 ルイスの問いにレヴィン様が答えると、ルイスは瞳をキラキラさせて、華やかな笑顔を浮かべた。


「王宮の宝物庫に、僕らでは使い道もわからない、明らかに高位魔法でつくられた魔道具がたくさん眠ってるんだ。昔からだれが作ったのか気になってたんだけど、彼らだったんだね」

「でも、なんでエルフたちは高度な魔道具を今じゃつくらなくなったんだろうな?」

「つくっていたのは遠い遠い昔、まだ我々が境界なく生きていた時のこと。……でも今も、彼らの能力はヒトの役に立っている。素晴らしい鍛冶屋として知られている者はほとんどが潜伏しているエルフだろう」

「エルフは、ヒトが嫌いなわけではないのですね?」


 私が尋ねると、レヴィン様はどうしてそう思うの、と首を傾げた。


「いくらものづくりが好きで誇りや矜持があったとしても……ヒトが大嫌いなら、今もヒトのためにいいものを作ってあげたりしないんじゃないかと」

「そうかもね」


 レヴィン様がくすりと笑う。


 そしてなんだか遠い目をしながら、穏やかに言った。


「彼らはプライドが高く高慢でありながら、寂しがりやでいつもヒトに興味津々だった。どうしようもなく惹かれてしまうんだろう……非合理的で打算的で、身の丈に合わない夢をみる生き物に」




 ◇◇◇




 図書館の中では、いろいろな発見があった。


 一番興味深かったのは、本のタイトルをみながら全ての棚を回っていると、医療や薬学に関する書物が多く保管されていることに気づいたことだ。



 この世界では医学や薬学は発展しておらず、魔法石にすべてを委ねている。


 とはいえ魔法石もけっして万能なわけではなく、過去にはある貴族家門で愛娘が病を患い、高いお金を出して魔法石を買い与えつづけたが結局治らずその娘は亡くなり、家門も魔法石購入のせいで貧しくなって没落した……なんていう話がいくつもあるらしい。


 つまりは、魔法石が効く病や怪我も確かにあるけれど、効かない場合も大いにある。


 けれど誰もがただ魔法石を無条件に信じている……というおかしな状況なのだ。


 ────それを是正していきたいというのが、まさに少し前、グアラ王国で私がルイスに進言したことなんだけど。



 ところがそんな人間界の状況とはちがい、エルフ語で書かれた書物には、細菌やウイルスの概念、そして外科手術についての記述があって、それは明らかに私たちよりも進歩した段階に彼らがいることを表していた。


 医療や薬学にこれだけ精通していながら、その知識はエルフの間のみにとどまっている。


 尋ねると、それは当然のことだとレヴィン様は言った。


「エルフは、ヒトはこの大陸から消えるべきだと唱えているからね」




 そうしてほとんど丸一日図書館で過ごした私たちは、まるで異世界に来たかのような不思議な感覚を改めて覚えながらエントランスホールへと戻った。


 エントランスホールは広々として、美しい装飾や絵画が壁全面を飾っている。


 ホール中央にはドーム型の屋根があり、その屋根を覆うフレスコ画には、自然を慈しむドラゴンやエルフの姿が描かれていた。


 まるで宗教画のようだと思いつつ、その絵画のあまりの美しさにじっと上を向いて眺めていると、横にやってきたルイスが一緒になって上を見上げ、ある一点を指さして言った。


「あそこにいるドラゴンの尻尾の先、花かんむり作りながら笑ってるのって、ヒトなんじゃないかな」

「……たしかに、耳が丸いですね」

「きれいな絵だね。これが、レヴィン様が言っていた()()()()()()()()()()なのかな? いつか本当に、こうしてみんな笑い合えたらいいのに」




 図書館に行った翌日には、博物館にも訪れた。


 これはなかなか刺激的で、なんと動物と一緒にヒトの生態や標本なんかも飾られていたりして、私はちょっとばかりゾッとしてしまったのだった。


 ちなみに説明文の中には「概念を解する知的生命体の中で最も短命で脆いが、歴史上最大数の殺戮を行っている」「種族内の微差で各々を区分し、所属意識から個の認知をはかる特徴がある。理性にかけ、自己中心的」「能力の低さを補ってあまりある想像力により、独自の発展を遂げてきた」なんて文言が書かれていて、思わず私はレヴィン様と顔を見合わせて苦笑したのだった。



 ほかには市井の様子もみたいということで、数日間マーケットや首都街のお店などにも通いつめた。


 ここでわかったことはというと、エルフはけっこうグルメな種族らしい。


 前世で私が旅した先で見たようなエスニック料理やヒトがあまり食べないような生き物も市場に並んでいて、テトラとラッセンさんはいちいちびっくりし、ルイスは毎回アメジストの瞳を輝かせて片っ端から買って食べていたので、私も半分ずつ分けてもらった。



 エルフはドラゴンをどうやら敬愛しているらしいというのは推測どおりだったようで、ドラゴンモチーフの置物とかアクセサリーもあちこちで売られていた。


 ────ドラゴンに対して、恩を仇で返すような仕打ちをしたヒトのことをエルフが厭うとしても、それはもはや仕方のないことかもしれないわね。



 けれど、もしエルフがレヴィン様の言ったように「実は寂しがりやでヒトに惹かれている」のであれば。


 それは彼らにとっても悲しいことだろうな、と私は考えたのだった。


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