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【完結】悪役流儀の世界の変え方  作者: はるしののみや
2章 10〜11才 旅の仲間
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第31話 ロンギア湖


「すごい、大きいんだね……!」

「おお、これがロンギア湖か」


 湖面が太陽光を反射し、キラキラときらめく。


 大きな声で感嘆の叫びをあげたラッセンさんとテトラが、水面と同じくらい瞳を輝かせて湖へ駆け寄る。


 そうして二人一緒に湖のそばへ駆け寄って、同時に見えない何かに弾かれた。


「わあ……本当に結界があるんだね」

「いやあ、面白い! ずっと来てみたかったんだ。なかなか機会がなくってさ。ルイスとシャーリーンもやってみろよ!」


 嬉しそうにブンブン手を振っているラッセンさんに、思わずルイスの口元も緩んでいるのが見えた。



 アーシラ王国で干ばつ対策を行うにあたって、長らく城で来賓として留まっていた私たち四人は、ついにアーシラを出て帰国の途を辿ることになった。


 理由はなんてことはない、以前にルイスから言われていた通り、ルイスとラッセンさんの就学の時期がせまっているからだ。


 もちろん、干ばつや降雨の理論や対策案の意図がしっかりと伝わり、事業の型もでき、あとは現地にいる者で回せるようになったことも理由の一つではあるけれど、いずれにせよ私たちはアーシラで今できることをやりとげ、ついに長い家出も終盤を迎えていたのだった。


 そんなある日、帰路について話し合っていた時に、ラッセンさんが「ロンギア湖へ寄ってから帰りたい」と呟いた。


「ロンギア湖ですか? 確かにとってもきれいな湖ですよね」

「まさかシャーリーン、行ったことあるのか? 湖には近寄れないって本当か? 湖の真ん中に巨大な島があるってのは? あと、ロンギア湖周辺には美人がいっぱいいるっていうのは?」

「ええと、美人は見ませんでしたわよ。……まあ、不美人も見ませんでしたが」

「女は女に対して厳しい評価をしがちだからな。 シャーリーン、お前も十分かわいいんだから、人のことを不美人じゃないなんてそんな捻くれた褒め方するなよ!」

「いやそうじゃなく、誰も見かけていないという意味で……はあ、まあ、いいですわ」


 ルイスは来たことがあるとのことだったけれど、キャリック兄弟はロンギア湖について口伝えの話でしか聞いたことがなく、その神秘的な噂のある湖にちょっとした憧れを持っていたらしい。


 というわけで、私たちはロンギア湖のほとりへと足を運んでいたのだった。


「……そういえばレヴィン様も、ロンギア湖には入れないんですか?」


 結界ではねかえされてキャッキャと喜んでいる男性陣を見ながら、私は肩の上で寝そべっているレヴィン様に尋ねた。


「いや、僕を拒むことはないはずだ」


 そう言ったレヴィン様が、バサリと翼を広げて地面に降りる。


 そういえば、以前ロンギア湖に落ちたときに私を拾ってくれたメイリンさんも、そんなようなことを言ってたかもしれない。


 そう思い返しながら、私はふむ、と頷いた。


「以前、拒まれなかったのなら……君もまた拒まれないのだろうね、シャーリーン。おいで」


 トカゲ姿からみるみるうちに美しい青年へと姿を変えたレヴィン様が、私の方に手を差し出す。


 私がその手を掴むと、レヴィン様はそのまま足を湖面に向かって踏み出した。


「ええっ、レヴィン様、そっちは水…………あれ?」


 ふと気づくと、私の足は文字通り湖の上にあった。


 そう、つまりは湖面をまるで地面かのように踏み締めて歩けたということ。


「あ、あれ? なんで?」

「どうなってるんだ? すごいじゃないか、魔物と人間の違いか?!」

「兄さん、そうだとしたらシャーリーンちゃんが弾かれないのは……」

「たしかに。そうだシャーリーン、いっかいレヴィン様と手を離してみろ」

「手ですか? は……ぎゃあ! あ……ふう、助かりました。ありがとうございます」


 レヴィン様と手を離した途端、足元が急に柔らかくなって水の中へ落っこちそうになった私を、横にいたレヴィン様が支えた。


 なるほど、どうしてこんなふうに湖面に立てるのに、前回はロンギア湖に溺れたのかと思ったけど……やっぱりレヴィン様が特別ってことなのね。


「ははっ、なんてこった。レヴィン様はさすがだけど、シャーリーンだって少なくとも、結界には弾かれないってことだろ。すごいじゃないか」


 ラッセンさんが興奮気味に言い、テトラが怖がりながらも好奇心を抑えられずに頬を染める。


 そんな私たちの様子をじっと見ていたルイスが、しばらくして口を開いた。


「シャーリーン、レヴィン様。僕とも手を繋いでくれますか?」

「え? あ、はい……」


 そうして私とレヴィン様がそれぞれ手のひらを湖の外側に差し出すと、ルイスはそれらを掴み、そのまま足を踏み出した。


「……ああ。手を繋いでいたら、僕も湖を渡れるみたいだ」

「おいおいおい、なんだよ面白いなあ! じゃあ俺も手を繋いでくれ!」

「ぼ、僕も!」




 ◇◇◇




「わあ……!」

「湖に浮かぶ島についての物語も色々聞いてたけどさ。実際は想像より……きれいだな」


 湖を歩いて渡った先にあったのは、深い深い神秘的な森だった。


 高い高い巨木がはるか上空に葉を茂らせ、足元にはほかの植物が育っていない。


 澄んだ空気と、まるで別世界におりたったような静寂さに、私たちは皆、思わず息を飲んだ。



 歩みを進めると、美しい霧のような雨が降り注ぎ、柔らかく視界を覆う。


 いつのまに雨が降り出したんだろうか。


 私が首をかしげると、レヴィン様が言った。


「この木は地中の水分を吸って、葉からその水分を放出する。だからこの森には神秘的な霧雨が降る……こんな風に」

「こんな景色初めてみたよ。夢の中にいるみたいだね」


 誰もが眼前に広がる美しい光景に目を奪われているなか、レヴィン様が霧雨を仰ぐ目がどうにも感慨深げに見えて、私はしばらく押し黙っていた。



 しばらくして、レヴィン様が優しい瞳のままで静かにつぶやいた。


「昔は、ここはレッドウッドの森と呼ばれていた」

「ああ。たしかにこの木はレッド……」


 レヴィン様の言葉に反応しかけた私はふと、なぜか急に、かつてティファニー先生に言われた「ヒミツのおまじない」を思い出した。


 ────Knock on Wood(幸運がおとずれますように)。言いながら二回木を叩くのよ。あっ、それとラッキーカラーはセクシーな(レッド)


「どうしたの? シャーリーン」


 ぐるりとあたりを見渡すと、広い広い森の中にもかかわらず、不思議なくらいひときわ目立つレッドウッドの巨木があるのがわかった。


 その巨木に駆け寄って、私はじっと前を見据える。

 そうしてその幹をゆっくりと、二度叩いた。


「どうしたの? シャーリー……ちゃん、なに? これ……」


 テトラがまんまるな目をさらに丸くして空を見上げる。


 無理もない。

 そこには突然、先程まではなかったはずの、美しい装飾が施された大きな門が現れていたのだから。


 ギギギ、と音が鳴って大きな門がひとりでに開く。


 そうして門が開いた時に私たちが見たものは、美しい神殿と、驚くほどの美男美女たちがレヴィン様に向かって頭を垂れる姿だった。


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