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教育係

私は衝撃のあまり、足が震えて動けなくなった。


小説か絵本の影響で、ちょっとリアルな夢を視ているのかもしれない。頭ではそう思っていても、明らかに夢とは思えない鮮やかな感覚。


いつものように、なんだ夢かと目覚めた時の、あの突きつける冷めた現実のような。でも目の前は非現実的な景色。


「…ちょっと、大丈夫?」

「あ、えっと、」

「まぁ、元人間だし無理もないか。仕方ない、謁見の前に簡単に説明してあげる。そこ座って。」


女性に促されるまま私はベッドに腰掛ける。

すると目の前の空間が陽炎のように歪んだ。驚く間もなく、その陽炎らしきものに映し出されたのは1人の少女。


真っ直ぐな黒髪、薄い青緑色の瞳の愛らしい顔立ち。

こんな顔になれたら、とお化粧や自分磨きを頑張っていたっけな、と懐かしい気分になった。


「あの、この方はどなた……は?!!」


女性に尋ねようと横を向いた時、その少女も横を向いた…ように横目で見えた。少女に視線を戻すと、大きな目をこれでもかと見開いてこちらを見つめている。私が手を振ると少女は手を振り返し、頬をつねると少女も頬をつねる。


今まで生きてきて、これほどまでにはてなマークを浮かべたことはなかった。


「これが、神々の遊び…というやつですか…?」

「は?いやそれあなたよ。」

「そんなわけ……あるんですか……?」

「ある。」


はっきりと断言されたが、私はますます混乱し口に出す文章を頭で形成することが出来ない。混乱しすぎると黙るしかなくなるんだ、と嫌なタイミングで新しい自分を発見した。


(……なんか怪しい。こんな上手い話ある?)


「自己紹介がまだだったわね。…名乗るとかいつぶりかしら。私はプシュケー。心の女神。一応、生まれは人間。」

「あ、えと、女神様にご挨拶申し上げま、」

「あなたも女神でしょうが。あなたは私の後任。新米女神としてこれから私が教育するの。」


(やっぱり怪しい。こんな都合のいい話あるわけない。全て信じ込んだ後に、ウソでした〜神様になんて簡単になれるわけないでしょ…とか…?)


そんな私を構う気配はなく、プシュケーと名乗る女性は続ける。


「当たり前だけど人間のような寿命や老いといった概念はないし、あなたが罰を受けるようなことをしない限り、約束された永遠がここにある。」

「永遠…」

「…私は超〜優しいから親切心で言っとくけど、人間が思ってるほど不老不死って素晴らしいものじゃないから。期待しない方が身のためだよ。」


そう言ったプシュケーさんの瞳が何だか寂しそうで、この話題に関してはあまり深く掘り下げない方が良さそうと思った。


「ちょっと、返事は?」

「はっ、はい!」


(…と、いうかそもそも私のようなパッとしない人間が突然神さまになれるだなんて、そんなことあるわけない。有り得ない。私が神さまになれるなら、今頃人間は全員神さまになってると思う。)


…うん、色んな意味で期待しないほうが良さそうだ。この全てが幻でも傷つかないようにしないといけない。後で辛いのは他でもない自分。散々学んだはずだ。


「はい、じゃあついて来て。新入りはここの主神ゼウス様に謁見することが決まりなの。」

「…なるほど〜」

「ちょっと!ちゃんと聞いてる?あなたの態度が悪いと私まで面倒なことになるの。しっかりしてよね。」

「…はい。分かりました。」


(これは茶番…ならまだいいんだけど、もし変な宗教とかだったらどうしよう…寝てる間に連れ去られたとか…。特に私が美少女になってるくだりとか…幻覚を見せられたんだよ、絶対そう。)


先程とは一転して、非常に足取りが重い。私は一体、何に付き合わされているんだ。もっとマシな嘘はないのか。神さまをここまでダシにするのは色々と不敬すぎる。


(なんか、だんだん怒りが湧いてきたな…。感情の上下が激しすぎて自分でもよく分からなくなってきた…。)


しかし、謁見の間に着いた瞬間、私のこの疑いこそが不敬そのものだと感じることになる。

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