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「じゃあ、遊びに行ってくるね!」
雪音は勢いよく寒敷を履くと、外で待つ友達のもとへ駆けていった。
「雪音、あまり遅くならないうちに帰るんだよ!」
「はーい」
振り向かずにそう答える雪音の後ろ姿を見ながら、八雲はため息をつきながら微笑んだ。
すっかり人間との生活に馴染んだ雪音は、こうして毎日友達と遊びに出かけるようになった。
今では、八雲も雪音が雪女の娘ということを時々忘れそうになっていた。
いっそ、このまま忘れてしまえればいい。
心のどこかで、八雲はいつもそう願っていた。
「あれが例の娘かい?」
「ああ、信兵衛、来てたのか」
振り返ると、一人の男が雪音たちの後ろ姿を見ながら歩み寄って来ていた。
「うちの娘とも、仲良くしてもらってるようだね」
信兵衛は、微笑みながら子供たちの後ろ姿を目で追っていた。
「しかし、結婚もしていないお前にいつの間にか子供ができたって、村中が噂で持ちきりだぞ」
「ははは。まぁ、ちょっと訳があってね。身寄りの無い子なんだ」
「そうか。みなし子を育てるなんて、お前らしいな」
そう言いながら信兵衛はさらに一歩近付くと、八雲に耳打ちしてきた。
「誰にも言わないから教えてくれ。本当はどこで作った子なんだ?」
「おいおい、やめてくれよ」
「はっはっは。冗談だよ」
八雲も静かに笑いながら誤魔化した。
「僕はね、信兵衛。あの子を本当の娘だと思って育ててるんだ」
「そうだろうな。お前が義理や偽善で子供を預かるような奴じゃないことは知ってるよ」
「別に善人ぶってるわけじゃないさ。僕にはもう両親もいないし、お前と違って所帯もない。僕にとっても、あの子の存在はとても大切なものなんだよ」
「そうか。それなら好きにするがいいさ。あの子もきっと、お前を必要としてる」
「ああ」
「けれど、変な隠し事はするなよ。村長にでも目を付けられたら大変だぞ」
「村長に?」
「ああ。あのじいさん、俺たちが犬っころ一匹飼うのだって目を光らせてるからな。捨て子を育てるなんて、きっといい顔はしてないさ。それに、村長が引き連れてる取り巻きの連中に何か変な誤解でもされようもんなら、たちまち余計な騒ぎに巻き込まれることになりかねない」
「ああ。気を付けるよ」
八雲は、信兵衛との会話の最後まで、雪音の素性を話してしまおうか決めかねていた。
信兵衛とは、幼い頃からいっしょに育った信頼できる友人だ。
彼にならば、真実を打ち明けてしまってもいいのではないだろうか。
そう思っていた。
しかし、八雲は結局最後までそのことを話すことは無かった。
もしかしたら、雪音が雪女の娘というのは、自分の思い過ごしなんじゃないだろうか。
そう信じたかったからなのかもしれない。
けれど、その願いとは裏腹に、雪音の運命は再び冷たい吹雪の中に連れ戻されそうになっていたことに、八雲はまだ、気付いてはいなかった。