プロローグ
ちんちんがスースーする。
ちんちんがすっごくスースーする。
というかちんちん以外も全身がスースーする。
さっきまで暖かで、優しくて、微睡みの中で幸せに揺蕩っていたのに、酷く冷たい現実に引きずり出されたかのようだった。
そう感じた時にはもう私は泣いていた。
閻魔族がロクなビジョンも無く何となくで革命を起こそうとした時も、取引先の無茶振りでアリスタル星系から蜻蛉返りした時も、冒険者とかいうのが刃物や火で攻撃してきた時も、こんなに泣いたことは無かった。
ん?なんだこれは……俺の覚えの無い記憶、だけど確かに『私』が経験した記憶。 私はさっきまで書類の山に埋もれていたはずだ……いや、《カルファス》が不時着するためのシークエンスをこなしていたところだったか?それとも腹が減りすぎて食べられもしない草を食ったのが最後だったか……?
分からない。私じゃない『僕』と『我』がいる。
そして手足も満足に動かない。
光は感じるのに目も見えない。
まるで自分が自分じゃ無くなったようだ。
泣く、泣く、泣き叫ぶ。そんな私をふわりと包み抱きかかえる感覚に包まれた。
「奥様、元気な男の子ですよ。さあ、抱いてあげてください」
聞いたことの無い声、聞いたことの無い言葉、なのに意味がわかった。
温もりから温もりへ。状況は全く分からないが、何となく『母の腕の中にいるのだ』と自然と感じた。
目も開かないし、身体の自由も利かない。温かいのに泣くことしかできない。それでもきっと私は────
「貴様ァ!覚悟しておけよ!」
────えっ。
そんな美しい声による暴言を聞きながら、私の意識は闇に落ちていった。