機動宇宙服 万久里で迷子
覚えられる訳も無く
機動要塞万久里は巨大だった。 もっとも、この機動要塞の目的の一つに前線補給基地の役割も有るのでこの大きさになった。
通常サイズの伊勢級宇宙戦艦が400メートル級とすれば、この全長5000メートルの宇宙要塞を機動させるのは馬鹿すぎる。本来は艦隊随伴型補給基地だった。計画当初は。誰かがこれでは艦隊に着いていけないと言ったのが始まりらしい。
日本連邦軍最大の大和級宇宙戦艦は550メートル級で、銀河連合でこれよりも大きい宇宙戦艦は少ない。
その大きさの宇宙戦艦でもオリエンテーリングをすれば必ず迷子になって1日が終わるらしい。気密区画が多すぎて指示された場所にたどり着けないのだ。
そして・・
「ここはどこだ。えーい、なんでこんなに広い」
「西大尉。文句を言わないで下さい。僕の直感がこちらだと言っています」
「安室君の直感はいつも壁を差しているな」
「壁が悪いんです」
機動宇宙服開発チームはいくつかの分隊に分かれてそれぞれ別の目標を指示されていた。
訓練であるから当然のように各員に支給されているパーソナルインテリジェンスシステムの艦内ナビゲーションシステムは切ってある。艦内の至る所に設置されている案内表示板を頼るしかない。その案内表示板も訓練の時は訓練チームには詳細アクセスが出来ないようにされていた。非常時は除くが。
固定のヒストグラムや案内看板を見るのだが、相次ぐ改装でたまに差し替えが間に合っていない場所も有り、混乱に拍車をかける。
「こちらに曲がれば良いのだ」
「いや、おらの記憶だとそっちは拙い」
「ではどちらに」
「俺はこっちに行くぜ」
「あ、おい。ジョー」
「こちらが機関室だから、この指示された場所なら設計上は機関室の上に有るはずだ」
「真田君。この船、いや機動要塞だな。普通の船と思うな。思ったら失敗するぞ」
「徳川機関長。こんなこともあろうかと艦内地図を写してあります」
だが真田が入手した地図は、数回行われた改装の最終段階の前の地図だったので閉鎖区画へ入ってしまった。
各チーム共絶賛迷子中。
結局、三日間程度で艦内配置を覚えられる訳もなく、せめて非常脱出口と非常用宇宙服のある場所は覚えるように言われた。
万久里艦内は通常時に乗員が作業する空間だけで全長最大3600メートル、幅1200メートル。上下は最大800メートルで最大100階層にもなる。しかも艦内の階層は用途によって部分的に容積が違っている。重層防御区画までいればさらに広い。気密区画は万単位だ。人間に覚えられる訳がない。
長さ700メートル幅200メートル高さ200メートルの大和級宇宙戦艦が入る気密ドック機能が4区画ある。機動宇宙服もこのドックに収容されている。このドックが有るせいで艦内移動は大変複雑になっている。船体強度上の問題と生存性を高めるために各ドックが独立しているのだ。ドック間の強度区画には修理工場や居住区も有り、複雑さに輪を掛けている。
万久里艦外郭には100メートル以上最大200メートルの重層防御区画が有り、そこの一部に各種倉庫と貯水曹と浄化設備を設けた区画が有る。戦闘機や各種艦載艇と船外作業用人型重機もこの区画に納められている。
各種倉庫と貯水曹と浄化設備は当然通常区画にも有る。重層防御区画に有るのは基本バックアップ用の予備だが、物資は先に消費すべくこちらが先に消費される。
原案
この時点では艦内ドックはない。外部に付けてある。ロケットエンジンも艦尾に8基付いている。これで艦隊巡航速度に着いていけるかどうかの推進力だった。
就役時の姿。
ドックを艦内に設置した。巡航エンジンを強化して4基に減らし、艦隊機動に着いていくための高加速エンジンを4基搭載した。
前線基地タイプ。
オプション装備として艦外ドックが付いている。さらに原案では固定だったが可動式になった。外部ドック可動角は190度。この装備を付けると運動性が犠牲になるが大和級宇宙戦艦を8隻同時収容が可能になる。
*********************************
パーソナルインテリジェンスシステム
ネット端末。頭文字をとってPISだがピーシステムと呼ばれる。民間の会話では通常ただのピー。Pとピーを混同しないために業務ではピーシステムと呼ぶ。60ミリ角の折りたたみが基本だが、業務用の大型機も有る。ディスプレイはピーシステム本体部分と空中投影が有るが、空中投影は背景が単色でないと見にくい。
次回更新 12月16日 05:00
次回「降下作戦」
横浜駅は怖かった