機動宇宙服 ハ?
ファンタジー金属に屁理屈で迫る
「説明しよう」
「またですか」
「何を言う。今度は君たちの駆る機動宇宙服についての説明よ」
「まあ聞きましょう。安室一曹」
「はあ」
「では」
スクリーンが画像を映し出す。
惑星のようだ。
「これが、アレの発見された惑星ルシンドラ。ルシンドラは人類全般に信仰されている神の名ね」
「え?絶対神とか唯一神なんですか。いやですよ」
「まあ、自滅紛争の原因はそいつらだったし、アルガレータ法国の奴らもそうだから分かるわ。けれどもこの星ではその下にたくさんの神々というか精霊というかがいて、それぞれ信仰の対象になっているの。だから地球の絶対神や唯一神とは違う。ここまではよいかしら」
「緩そうですね」
「特に信仰していなくても宗教側からバチを当てられないそうよ」
「それは良いな」
「続けるわよ。調査隊がこの惑星で情報収集する時に現地住民に混ざり込んだ部隊がいたの。現地住民も特に問題としなかったようね。自分たちに害をなさないからだろうという憶測は立っているわ。その混じり込んだのが冒険者という立場だったの。分かる?」
「は?冒険者…」
「そうね。小林二曹。君の好きなファンタジーよ」
「何故、知っている…」
「HI・MI・TSU♡」
「大尉。泣いて良いですか」
「それは困るな。稲州技官、研究員から技官になったのだからもう少しおとなしくしてくれ。小林二曹は繊細なのだ」
「繊細なの?そう。いじるのは止めるわ」
「そうしてくれ」
「大尉。泣きます」
「・済まん」
「では、改めて」
「お願いする。各員傾注せよ」
「この惑星で有用と思われたのは、ファンタジー金属とその運用方法。特に魔石というわけの分からない性質を持つ物質との併用で想像を超える性能を持つようになる。小林二曹、ファンタジー金属とは?」
「僕なの…はい。ミスリル、アダマンタイト、オリハルコンのような既知に無い金属の総称です」
「よろしい。概ね正解よ。そしてこの星では主にその3金属が使用されている」
「「まさか」」
「事実なのよ。だから極秘になる」
「技官。その金属で我々の装備が飛躍的に性能向上するというのか」
「その通り。さすが」
「しかし技官。元素周期律表から言うと既知に無い金属はものすごく重いのでは」
「江間中尉。既知に無い金属と言うのは性質のことで、原子構造などは既知の金属と等しい」
「・・は?」
「そうだろうね。私も聞いた時はそう思った」
「では何が違うのですか」
「まず電気的性質も機械的性質も加工前の状態だとほぼ等しい。おかしいでしょう」
「技官がおかしいという物を我々が理解できるとも?」
「そうだった。専門教育を受けている分野が違ったね。謝罪しよう」
「改めて。小林二曹。ミスリル、アダマンタイト、オリハルコンだが、既知の金属から何を想像する」
「また…そうですね。ミスリルは軽いと表記されることが多いのでアルミですか。アダマンタイトはタングステン。オリハルコンは貴重さから言って金を想像します」
「ミスリルはアルミというのは正しい。信じられないことに純アルミでは無くジュラルミンなのだが。融点も電気伝導性も同じ。比重も同じ。加工前だと機械的性質もほぼ同じ。アダマンタイトは残念ながらタングステンでは無い。オリハルコンも残念ながら金では無かった」
「金ではないのですか」
「考えてみたまえ。タングステンや金は重いのだよ。鉄の2倍以上の重さがある。そんなもの武器として振り回せるかしら」
「振り回されるわね」
「そう。アダマンタイトの正体はクロムモリブデン鋼よ。オリハルコンはなんと真鍮に金メッキをしたものだった」
「うっそ…」
「で、違いなのだが、こちらが用意した同じ系統のジュラルミンとクロモリ綱と真鍮に金メッキを施したものを彼らに加工してもらった事が有るの。彼らというのは現地の鍛冶士よ。ところがジュラルミンは元のジュラルミンでミスリルにならなかったの。クロモリ綱もアダマンタイトにならなかった。真鍮に金メッキではメッキが剥がれて終わったらしいわ。おかしいでしょう。小林二曹」
「なんで僕…」
「ファンタジーに造詣が深いのは君しかいないのよ。私たちのチームには」
「想像するに魔素とか魔石が関係しそうです」
「ピンポン。大正解。後で晩ご飯を一緒してあげよう」
「遠慮します」
「何故なの?」
みんなの視線がきついと言えない小林二曹だった。こいつは自分が美人だと自覚しているがどれだけの影響力かは自覚しいていない。それなのに美人を自覚して人をからかう困ったちゃんだ。勘弁して欲しかった。
「では格納庫へ行きましょう。新しい機体が待っているわ」
次回更新 12月15日 05:00
次回「増える仲間」
酷いファンタジー金属もあったもんだ。誰のせいだ。