人型戦闘機 活躍
万久里が敵球状移動物体と対峙していた頃、MSF-38とVSF-1も戦場を駆け巡っていた。
『南部チームです。加藤中尉。こちらはどうしますか』
「速度的にアレを使えないと苦しいだろ。君らも監視衛星の直掩だ。ただ、機会があればアレをやってもいい」
『良いのですか』
「南部司令は実戦で使われるのを見たいだろうな」
『機会があれば実行します』
「各機。あくまでも監視衛星の援護が最優先だ。忘れるな。では頼む」
『『『『了解』』』』
「南部チーム、良いか。3機では敵機集団を完全に阻止できない。かなりの機数が向かうだろう。その中でもまとまった数の集団がいれば、そいつらを相手にしてくれ。アレの使い方は分からないから戦術行動は任せる」
『いいのですか』
「タイミングは慎重にな。推進剤の残量は大丈夫か」
『ここまで来るのにかなり減りました。アレを披露するのは5分くらいにしないと危険水準まで減ります』
「今どのくらいだ」
「6割です」
『そんなに使用量が多いのか』
『速度50%増しは伊達ではありません』
「開発の奴らは何考えてたんだ」
『面白がっていましたよ』
「あいつら」
『加藤中尉の編隊と目視圏内に接近しました。速度同調しますか』
「いや、先行して監視衛星の援護に回ってくれ」
『南部チーム了解。先行します』
「頼む」
「竜田だ。聞いたな」
「聞いた。自由にやっていいのか」
「鷲野。タイミングを忘れるなよ」
「そう言うが、大高こそ飛び出すだろう」
「うるさいな。機を見るのに敏感なだけだ」
「止めなさい。貴方達が指揮を任されないのはそういうところがあるからでしょう」
「「悪かったよ」」
南部チームが監視衛星の掩護位置に付き古代中尉と一条二曹が合流した頃、加藤中尉達は迎撃を開始していた。
「凄いな奴ら。40機相手に3機で突っ込んでいった。そして、混乱させている」
「3名ともエース級です」
「エース級でも上澄みの連中だな。バラバラに動いているようでお互いに支援している」
「分かるのですか艇長」
「これでも監視衛星で戦況を見つめてきたからな。特に2機が凄い動きだ」
「夫婦です」
「「「は?」」」
「ですから夫婦です」
「へー。と、いかん。20機ほど分かれてきた。次は南部チームだな」
「加藤中尉はそう指示しています」
「南部チーム。こちら監視衛星艇長武田大尉だ。20機ほど接近してくる。迎撃は可能か」
『武田大尉。南部チームにお任せください』
「良し。頼む。タイミングは任せる」
『ありがとうございます』
「ちょっと機数が多いな。もう少し減らしてくれてもいいのに」
『こちら羽里二曹。加藤中尉。別れていく奴らがいます』
「お願いを聞いてくれたか」
『加藤中尉』
加藤中尉達3機は既に4機を戦闘不能にしているが、敵が多すぎて攻撃に専念できなかった。
『これで、楽になります』
「楽になるなんて言うのはお前くらいだ。満久二曹。残り14機だ。やれるな」
『『はい』』
3機は敵機を上回る速度と機動性で次々と行動不能にしていく。中には爆散する敵機もあった。
「大高、鷲野。いいか」
「「いつでも」」
「白鳥と燕は」
「大丈夫」
「良し。目標敵中央。行くぞ」
ケンタウロス改が凄まじい加速で敵に回り込んでいく。相対速度が凄まじい。正面から突き抜けると旋回しても追いつけない。回り込んで行くしかない。
「敵5機。こちらに速度合わせてくる」
「5機か。燕。短ミサイル11番から20番発射」
「短ミサイル11番から20番照準完了。発射」
「敵、散開します」
「隙間が空いた。全速で残りに追いつく。行くぞ」
「「「「おお」」」」
「忍法「「「「火の鳥」」」」」
その速度をさらに上げ、火を纏い高速で敵機集団に近づく南部チーム。彼らも理屈は分からない。見ている方はもっと理解不能だ。それが火の鳥の魔法だった。
敵編隊はパニックに陥る。理解不能なモノが高速で迫ってくるのだ。
「何だ、ありゃ」
「忍法火の鳥…らしいです」
早瀬中尉は恥ずかしいので小声で言う。
「アレが火の鳥か。与太話だと思っていたが」
「凄いものを見ている」
「攻撃力はあるのか?」
「表面温度が3000度超えるかも知れないと」
「「はあ?」」
「速度が50%増しになるようです」
「「「はあぁ~?」」」
「ハ?おい見ろ。敵機を撃破したぞ」
思わず太田曹長が素で喋った。
「「へ?」」
武田大尉と水島少尉も、思わず素で反応した。
ディスプレイには逃げ惑う敵機と追いかける火の鳥が表示されている。
そして始めに迎撃に向かった5機が再加速してこちらに迫っているのも。
「こちら武田大尉だ。古代中尉応答せよ」
『は。古代中尉です』
「5機迫ってくる。一条二曹と共に迎撃せよ。敵方位は送る。2機程度なら自衛できるから無理に全機墜とそうとするな」
『了解。古代中尉、一条二曹は、敵5機の迎撃に向かいます。方位受け取りました』
「頼む」
『はっ、微力を尽くします』
『穂刈少佐。こちら先任戦術衛星、木村少佐。応答せよ』
「穂刈だ。木村どうした」
『先発した各機。推進剤残量が危険水準に近い。交代で補給する方が良いと考える』
「補給艇が来ているのだろ。中隊ごとに交代で補給させろ。その間、俺たちで支える」
『良いのか』
「交代で補給する間くらいは保たせる」
『頼むぞ』
「任せろ」
『2中隊は補給艇まで後退。推進剤を補給せよ。8中隊は1中隊の掩護に向かえ』
『2中隊了解』
『8中隊了解』
戦術衛星から次々と指示が出る。空戦宙域は、双方500機程度の戦闘機が飛び交っている。相手が増えたが、こちらも増えている。先程、穂刈のVSF-1と西達MSF-38は弾薬の補給をケンタウロスでしている。
「西大尉。穂刈だ。各機推進剤残量が危険水準になりそうだから交代で補給させる。その間戦線を支えるぞ。ケンタウロスも前進させる」
『西大尉、了解』
VSF-1はともかくMSF-38は目立っている。VSF-1も白地に黒い縁取りで目立っているが、カラフルなMSF-38はさらに目立っていた。また人型という事もあり、今までの常識なら与し易いと群がってこいられていた。
『西大尉。おかしいです。なんで群がられるんですか。色ですか人型からですか』
「江間中尉。私もおかしいと思っている」
『宇宙空間では色で識別できるほど近距離での戦闘は無いはずなんですよね』
「私もそう理解している」
『特に江間中尉の色が戦場を馬鹿にしていると思われてるんじゃないのですか』
『誰よ!私の機体をこんな色にしたのー』
そう言いながら、35ミリガトリング砲で敵機を撃破している。
「八つ当たりだな」
『でも頼りになります』
『安室、そっち3機行った』
『わかった。迎撃する』
『西大尉。木村少佐だ。敵戦術衛星を確認。4基も出てきている。そいつで遠距離狙撃が出来るのだろう。やってくれ。座標は送る』
『木村少佐。西大尉です。これだけ動く中では初めてですがやってみます』
『おう。頼んだぞ』
「江間中尉。ケンタウロスまで下がれ。狙撃準備だ」
『了解。江間下がります』
「安室君。2機になった。大変だぞ」
『西大尉、気楽すぎます』
「君なら出来るだろう」
『おだてても調子に乗りませんよ』
西大尉と安室曹長は2機で阻止線を張る。
次回更新 02月15日 05:00
次回「江間 狙撃」
MSF-38のオプション装備で狙撃します。
圧倒的とまでは行かないけれど敵を上回る速度と機動力で翻弄する。VSF-1とMSF-38。




