人型戦闘機 防衛成功
「レールガン命中を確認。弾体の爆発も確認。爆発はいずれも真空中」
「貫通したのか?2キロだぞ」
「最初の命中弾は端っこで貫通した層も少ないのでしょうが、2発目は中央部でした」
「こちらの予想よりも装甲や構造材が薄いのか」
「敵戦艦の装甲サンプルからすると、あの規模の艦なら5メートルくらいの厚みの装甲が二層は有っても良いと思いますが」
「そうだな。本艦の装甲板が6メートル厚で、クラッシャブルゾ-ンを兼ねた8メートルの装甲保持構造の合計14メートルの空間装甲を5枚だ」
「本艦のレールガンに貫通されないためですが」
「古来、自艦主砲に抗堪性能を持たせるものだよ。そうだろう。艦長」
「もっともですが、それがこの艦のとんでもない建造費の一因ですな」
「敵のまさかの巨大レーザーに耐えたから成功だよ。これで2番艦3番艦が続くと良いな」
「艦長。命中しなかった弾体に自爆指令を出します」
「周辺に味方はいないな」
「確認済みです」
「良し。爆破だ」
「自爆指令信号発信します」
「艦長、もったいないな」
「高価ですからな。4発有れば駆逐艦が作れるほどです。しかし、毎秒1000キロには追いつきません」
「あいつに駆逐艦2隻をぶつけたと思うか」
南部司令が、司令室のディスプレイに映し出される大破した球体を見ながら言う。あの後、さらに3発叩き込んで、機能停止したと思われている。
「駆逐艦2隻分であいつを撃破です。安いと思わなくては」
「あいつは拿捕できそうか?」
「どうでしょうか。これまでも多数アルガレータ法国の艦を捕獲しようとしましたが、今まではほとんど自爆しております」
「容易に陸戦隊を送り込めないか」
「機会を待っているとすれば、陸戦隊が乗り込んだ瞬間でしょう」
「困ったものだ」
択捉星系の戦闘は既にこちらの勝利で固まっている。今は択捉星系駐留艦隊が敵残存戦力を刈り取っている状態だ。
「南部司令。択捉星系駐留艦隊の室津司令からです」
「繋いでくれ」
「南部司令か。室津だ。ちょっと良いかな」
「極秘ならここでは、少し」
「いや、極秘ではない。急いだ方が良いかも知れないのでな」
「何でしょうか」
「どうもあの球体は自爆しそうにない」
「え?何故」
「奴らの偉いさんが乗っているという情報が得られた」
「偉いさんですと?」
「大司教だと。上から3番目だな。教皇、枢機卿で大司教だ。敵の捕虜から入手した情報だ」
「捕らえたいですな」
「そう考えるが、自爆の可能性も無い訳ではない」
「それで、しそうにないなどと」
「そういうことだ。ひょっとしたら今にも死にそうなのかも知れない。それを我々で判断しなくてはいけない。上級司令部である第3管区司令部までの往復通信時間が2時間と向こうの判断時間がどれだけ掛かるかがわからん」
「陸戦隊の命と、大司教と情報か。判断は難しい」
「統合参謀本部や情報部なら、情報と大司教を取るだろうな」
「困りますな」
「俺も困っている。だが知ってしまった以上はな」
「やりましょう。ただ乗員で陸戦が出来るのが400名ほどしかいない」
「そちらは400名か。こちらは各艦から引き抜いても200名だ。到底あの規模を制圧するには足りない」
「家の連中で魔法が使えるのが50名います。かなりの戦力でしょう」
「だが良いのか。レポートを見たが育成には時間が掛かるし、適性も持っていないといけないのだろう。自爆すれば失われるぞ」
「彼らも軍人です。覚悟は有るでしょう」
「行けと言った我々はあの世に逝ってから詫びるしかない」
「そうですな」
「それではな」
「帰ってきたら、また行けか」
「命令です。命令」
「それは分かるが、少しは休憩もしたい」
「愚痴言っていないで…って。もう準備できたんですか。西大尉」
「君だって、もう出来るだろ。江間中尉」
「早いつもりだったのに」
「男は装備を付けるのに楽なんだ。早いのは当たり前さ」
「なんかずるい」
万久里帰投後、すぐに陸戦隊への参加が命じられた人型戦闘機開発チームの面々である。だいたい右往左往している中でこのふたりは早かった。姿は、宇宙空間用白兵戦装備にルシンドラで使っていた武器を持っている。
そして、10分後。突撃艇に乗り込んだ。
既に、万久里陸戦隊は敵球体に乗り込んでいる。択捉星系駐留艦隊陸戦隊もだ。万久里陸戦隊には特別装備としてミスリル楯が新規装備となった。余剰のミスリル楯を択捉星系駐留艦隊陸戦隊にも渡した。
この楯はカーボンナノチューブ製の楯よりも同じ強度で軽く評判は良かった。
『こちら陸戦隊太田大尉。万久里応答せよ』
「こちら万久里。太田隊何か」
『こちら太田。内部は気密が保たれていない箇所多数。重力装置の動いていない場所もある。さらに気密隔壁が閉鎖され、歪んで動かない隔壁もある。内部調査に時間が掛かる。また生存者も確認。投降した生存者の収容を願いたし』
「こちら万久里。太田大尉。生存者の収容に輸送艇を出す。突入した破孔に着ける」
こんな遣り取りが択捉星系駐留艦隊陸戦隊と艦隊の間でも行われていた。
「南部司令。通信室です。第3管区司令長官長沢中将より返信です」
「ようやくか。開封指定はどうなっている」
「一部を除き機密指定無し。一部は司令部参謀と艦長権限所有者以上が閲覧資格。他は閲覧制限無し。艦橋で開封可能です」
「良し。出せる部分はメインスクリーンに出せ」
「よろしいのですか」
「指定レベルが艦橋で開封可能だろ。かまわん。でかい画面の方がわかりやすいだろう」
「解凍してメインスクリーンに出します」
そこには、全体の戦況とこちらでの対処に関することが書かれていた。戦況が細かく記載され圧縮が必要になったらしい。
ざわつく艦橋。そこには目の前で機能停止したと思われている球体が複数の戦闘状態星系に出現。大型要塞なら耐えられたが、小型の要塞と艦隊しかいない星系では酷い損害を受けたのでその球体の情報を必ず取得せよと。
「情報参謀。戦況は取り敢えず後だ。こちらの部分をピーに出せ」
「了解」
「何だと?」
そして機密指定部分には、
「損害は無視しても良い。欠片の一片、生存者のひとりまで、なんとしても入手すること」回りくどく書いてあったが、要約すれば40文字程度の内容。
「困ったな。この機密指定部分は見せられん」
「返答が8時間も遅れたのは、このためですか」
「参謀長。択捉星系駐留艦隊と調整したい。都合を付けてくれ」
「了解しました」
星系間通信は、ワープ可能宙域に設置してある通信衛星を中継してトンネル通信で行われる。その衛星まで電波到達時間がだいたい5分前後の星系が多い。通信衛星から星系の往復だけで20分程度掛かる。トンネル通信の時間も距離に比例して長い時間が必要になる。択捉恒星系から第3管区までだと合計2時間といったところ。
こちらからの通信を受信してから4時間程度でまとめ上げたのだろう。混乱している最中にかなり短い時間での応答だった。
『これは、困ったな。南部司令。参謀達に行動要領を作らせたら員数がな』
「そちらは人員不足でしょう。室津司令」
『まったくだよ。こちらは惑星に居る人員など知れている。総人数ならそちらと変わらないくらいだ』
「直接の戦闘員だとこちらの方が多いですな」
『うちの地上に居る連中は支援要員がほとんどだからな。鉄砲の撃ち方も忘れていそうだし、宇宙船内部での活動にも慣れていない』
「こちらは増援を出せますが」
『巡洋艦を1隻か2隻、係留状態にして人員を回すしかなさそうだ』
「苦労しますな」
『本当にな。第3管区から応援を寄越すそうだが戦闘終了後になるらしいから、いつになるやら』
『「はぁ~」』
次回更新 02月13日 05:00
次回「人型戦闘機の活躍」
戦闘中の出来事を。
星系間通信方法がかなり迂遠な方法です。即時性はありません。現場指揮官の判断が大きな比重を占めます。その分、権限と責任も大きいです。




