人型戦闘機 撃破
戦闘機隊が奮戦ししている頃、艦隊もまた奮戦していた。直径2キロの敵球状移動体から敵艦が出てくるのだった。
「敵艦は、移動要塞では無くただの移動母船なのか」
「いえ、司令。ただの移動母艦を出してくるとも思えません。何か仕掛けが有ると思います」
「何だろうね、あいつを早く始末して火の鳥を見たいのだよ」
「そんなにですか」
「そんなにだ。戦闘は任す。艦長の好きにやって良い」
「言いましたな」
「任せる」
こちらの艦隊は数で押されている。敵戦闘機が戦闘機同士の戦闘に多く割かれ、艦隊戦で敵戦闘機の数が少ない。これは救いでもあった。戦闘機はこちらが優勢なようだ。MSF-38とVAS-1が少数で敵戦闘機を圧倒しているという情報も入ってきた。
「参謀長。万久里が前に出る。艦隊を下がらせろ」
「はっ。良いのですか」
「あの丸い奴を片付ける。アレを使うには前方を開けないと。味方艦を巻き込むといかん」
「アレですか。本艦前方より退避するよう命令します」
「頼む」
「では司令。使います」
「やってくれ」
「こちら艦長。艦内に告げる。アレを使う。発射態勢に入るのは5分後だ。総員、中央発射管より距離を取れ」
「発射電力蓄電中」
「弾体装填中」
「発射管内、異物無し」
「リニア軌道、異常なし」
「弾体固定良し」
「発射管前扉ロック解除」
「発射管前扉開放始め」
「1番発射管1番前扉開放」「1番発射管2番前扉開放」
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「各発射管艦内前扉開放良し」
「船体前扉開放用意」
「船体前扉開放用意良し」
「電力備蓄終了。備蓄量98%」
「照準良し。弾体にデータ転送開始」
「データ転送完了」
「各部発射準備良し」
「司令」
「うむ」
「船体前扉開放」
「船体前扉開放1番から4番まで解放確認」
「敵球体前面、高エネルギー反応」
「船体前扉閉鎖、発射管前扉閉鎖、急げ」
「機関長、推進停止」
「前方に拡散ガス放出開始」
「前方ガス弾発射中。続いて船体マスカー放出します」
「敵発射」
一瞬、強烈な明るさになった後外部モニターが消えた。光度が高すぎたのだろう。瞬断で目を守っていた。それでもチカチカする。同時に衝撃も襲ってきた。この船体を揺する衝撃だ。レーザー拡散ガスで減衰してもこれだ。並みの宇宙戦艦では一撃でやられていたかも知れない。
モニターが復帰する。
「ただいまの攻撃はレーザー」
「船体の損害確認、急げ」
「艦隊の被害確認、急げ」
レーザーは可視光でない限り視認は出来ない。レーダーや各種センサーでレーザーを見ながら弾着修正することも出来ない。大型レーザーであれば発射に時間も掛かる。外したら拙いのだ。なので長距離射撃の場合、可視光同軸レーザーで照準に狂いが無いか確認してから発射するのが普通だ。レーザーは光速だ。見てからでは避けられない。可視光レーザーが当たれば正しい照準で、だいたい本番も当たるのだ。大型レーザーは発射前に兆候があるので、1分程度しか無いが対応する時間が有るだけマシだ。
今回も20万キロという大遠距離射撃だったので、可視光は見えた。そしてちゃん10秒後に着弾した。
「司令。レーザーで良かったですな。これが大型荷電粒子砲や超大型レールガンだったらもっと損害は激しかったでしょう」
「うむ。拡散ガスとマスカーのおかげで助かった」
「司令。参謀長。本艦の損害ですが1番発射管船体前扉右上付近に被弾。船体表面装甲が広さ20メートル四方深さ30メートルまでやられました」
「宇宙戦艦ならひとたまりも無いか」
「小型の宇宙要塞でも拙いですね」
「艦長。装甲が分厚い事で助かったな」
「はい。しかし拙い損傷です。1番発射管船体前扉が開放出来ません」
「故障か」
「1番発射管の機構自体は問題有りません。船体外板が歪み開けないのです」
「司令。前扉投棄はダメですよ」
「参謀長。ダメか」
「もう1発喰らえばどうなりますか」
「分かった。1番は使用中止。用具納め。でいいな艦長」
「は」
「照準訂正完了」
「訂正照準データ転送完了」
「2番3番4番、発射準備完了」
「司令。撃ちます」
「よろしい」
「2番発射」
「2番撃っ」
「3番発射」
「3番撃っ」
万久里は敵が次弾発射をする前に撃とうと2番3番を発射した。4番は回避行動を見てからだ。
距離は18万キロ。万久里の全長2キロという長大レールガンでも、投射体である弾体が重く初速は1000km/秒までしか加速できない。180秒後に命中予定だが敵が移動すれば外れる。弾体側で軌道修正出来るがせいぜい100メートルだ。だが、その100メートルを動かせれば命中する可能性が上がる。たった100メートル、されど100メートル。その100メートル変針させるために莫大な開発費が掛かった。
リニア部全長2キロ、弾体直径4メートル弾体長さ30メートル弾体重量120トンのレールガンは巨大すぎて次弾発射まで200秒かかる。
「敵大型船に命中」
「おお。やりましたな、デルフィング大司教様」
「そうじゃの、クモノム司教。これも神の思し召しじゃろう」
「デルフィング大司教様。言いにくいのですが、敵は寸前にレーザー拡散ガスを散布しております。かなり減衰した可能性があります」
「何を言うか艦長」
「クモノム司教。艦長の言うことももっともじゃ。専門家に任せようではないか」
「はい、デルフィング大司教様」
それでも艦長をにらみつけるクモノム司教だった。
「艦長。敵大型船、加速再開しました。接近中」
「艦内ガスの放散はあるか」
「認められません」
「やはり威力が低下したか」
「艦長。どうしますか」
「次発発射準備だ。しかし敵は何故直進してくる?」
「射程が足りないのではないでしょうか」
「そうなると、レーザーでは無いな」
「荷電粒子砲やレールガンだと、拙いです」
艦長達が考えている。
「デルフィング大司教様」
クモノム司教が訴える。
「艦長、レーザーの発射を急ぐように」
「はい。デルフィング大司教様。あと3分お待ちください」
「よい」
「うん?なんだこれは」
「どれだ」
「敵前方に何かある」
「高速で・レールガンだ」
「艦長、敵はレールガンを発射」
「回避。左30度全速」
レールガンの弾体を探知された時には10万キロまで迫っていた。回避命令を出し船体が反応して動き始めるまで80秒掛かった。さらに巨大な船体はいくら最新技術でも急激な進路変更が出来ない。ましてや急転舵などできない。せいぜい30度の進路変更が限界だった。
「艦長、回避不能」
「総員対衝撃姿勢。急げ、何かに掴まれ」
命中は1発だった。しかし、毎秒1000キロで飛んでくる重量120トンの衝撃は凄まじい。
地球人類の開発したもっとも強靱な金属は敵艦の外郭が薄いこともあり衝突してもバラバラにならず少し破片になっただけで、その運動エネルギーで敵船の構造体を押しつぶし衝撃波で周囲を破壊しながら、直径50メートル以上の巨大な破孔を開け突き抜けた。
激しい衝撃で吹き飛ばされる乗組員もいた。
「損害確認急げ。機関全力維持だ」
「・・艦長。・なにが」
「大司教様。敵の攻撃です。次弾来ます。お覚悟を」
「覚悟じゃと。何を覚悟せよと・
進路変更を確認して発射された4番発射管の修正射は見事、中央付近に命中した。
それは敵艦の中央付近を衝撃で破壊しながら艦内を進んだ。突き抜けるまで後100メートルで急激なマイナス加速度を感知した弾体が自爆装置を起動。高性能液体炸薬5トンが大爆発を起こす。液体炸薬は2液混合で混合前なら安定した物質だ。通常の炸薬だと発射時の加速度で自己発火し爆発してしまう。だから混合炸薬だった。ただ混合から爆発まで30秒程掛かるので、通常の戦闘には使えない。この混合は発射後、加速度が急激なマイナスとなった時から始められる。
この爆発は敵艦の破壊もさることながら、敵艦内に金属以外の高度秘匿技術を残さないための爆発だった。
自爆装置が作動した弾体の爆発は、弾体が敵艦を貫通した後だった。
最初の命中弾は、真空中をかなり進んでから爆発している。
次回更新 02月11日 05:00
次回「防衛」
敵大型艦撃破と敵艦隊や敵戦闘機も撃破。
レールガン初弾は軌道修正して命中。船体の端っこに。軌道修正出来なければ外れのはず。
2キロ貫通出来るんでしょうか。貫通したということで。




