人型戦闘機 実戦
運用試験の機会は比較的早く訪れた。
万久里が択捉星系に入ってから3ヶ月後。4番惑星から3光分の位置に設置してある探査衛星が緊急信号発信後、通信途絶。
緊急信号にはレーダー探知結果、光学映像、赤外線から紫外線までのセンサー等各種センサーのデータが含まれており、解析の結果アルガレータ法国の奴らがこりもせず現れたことが明らかになった。
択捉星系は戦闘体制となる。
「ようやく来たか」
「来なくても良いのに…」
「安室君、実戦テストだ。気楽にいけ」
「いけが逝けに聞こえたような気がします」
「気のせいだ。誰も死んでこい等と言わない。生き残ってこそ全てだ。生存を第一に考えろ。生きて帰れば次がある」
「兵器としての運用試験では?」
「生き残り性能という結果を残せ。それも運用試験だ」
「はい」
「負ける気はせんがな」
「自信ありますね」
「あの時、あの状況で生き延びたのだ。自信を持て」
「はっ」
「加賀三曹、落ち着け。交戦までは最低でも10日以上の時間はある」
「しかし、小林一曹。この後付けシステムが安定しないと」
「気にするな。なんとかなる」
「なんとかって…」
「アルテジオ補給基地防衛戦ではなんとかなった。今回もなんとかなる」
加賀三曹はケンタウロスが改造しすぎで、さすがに小林一曹(昇進した)だけでは全力戦闘出来ないため復座になったケンタウロスの火器管制要員として赴任してきた。乗っているのは小林一曹の横では無く、拡張された本体気密室だ。
「忍法、火の鳥」
『おいおい。ほんとかよ』
『何であんなことやろうと思ったのかしら』
『アホだな』
『アニキ』
南部チームは新戦術の開発にいそしんでいる。そこには青白い炎を纏ったMSF38がいた。
「面白いだろ。宇宙空間は魔力が多い。魔法金属は魔力伝達性が良いと聞く。なら宇宙でも魔法が成功する可能性は有ると思ってな」
『意味あるのか』
『待て。表面温度2000度だと』
『ミスリルでも溶けるわよ』
『アニキ、中はどうなのさ』
「操縦席の温度は25度だ。機体表面温度は100度だな」
『訳分からん』
『外は見えるのかしら』
「外か?さすがに赤外線センサーはダメだな。カメラは使える。レーダーも使える」
『それで飛べているのがおかしすぎる』
「あ、なんかみなぎってきた。全力で飛んでみる」
『気をつけろよ』
「分かっている」
その炎を纏った大高機は炎の尾を引き炎のかけらを飛び散らせながら飛んでいる。
「どうだ」
『すっごい綺麗』
『かっこいいぜ』
『みんな、それより速度だ。MSF38の仕様を超えている』
『『『「はあ?」』』』
『大高。自分で分からないのか』
「気持ちよくて」
『変態』
「い、いっ、いい、いや、ち、違うから」
『なあ。そいつの変態さは置いといて「置いとくな!」全員でやらないか』
『『『「は?何にやるんだ。竜田二曹」』』』
『俺にケンタウロス改があてがわれただろう。アレも魔法金属の塊だ。MSF38の3倍は使っている』
「聞いた話だと、凄い手間と金が掛かっているそうだな」
『そうだな。原型の奴はもっと掛かっているそうだ。試作機なんてそんなものだ。で、みんなでひっついて移動できるようになっている』
『それはそういう用途だからな。お・お前まさか』
『鷲野二曹は気がついたか』
『何する気なの。まさか5人で火の鳥を?』
『出来そうな気がする』
『出来たらかっこいい』
『燕は俺の補助だから、お前の機体は俺の腹の下な』
『酷いです』
「なんだ。お前ら出来るとでも『面白いことを考えたな』思って・」
『『『『「南部司令!」』』』』
『許可するから、どんどんやれ。あと1週間は時間が有るはずだ』
『『『『「ありがとうございます」』』』』
『速度の向上はモニターで確認したが30%の向上か。全員ならもっと出せる可能性も有るな』
『『『『「頑張ります」』』』』
『頑張りすぎて気持ちよくなるなよ』
「司令…」
「あいつら面白いことやっているな」
「そうですね。穂刈少佐」
「お前、面白くないのか。一条」
「面白そうですけど、実戦で役に立つのでしょうか」
「昨日は、表面温度3000度を超えたと言っていたぞ」
「3000・・ですか」
「宇宙船の外装が溶ける・いや、蒸発する温度だ」
「そんなのに取り付かれたら」
「戦闘機など一瞬だな」
「あの人達その気なんでしょうか」
「遊んでいるだけのようにも見えるが、南部司令から物にしろと言われているそうだ」
「実戦で役立つようにですか」
「そうだな。まあ、俺たちの風魔法は宇宙空間では役に立つとも思えん」
「真空では風とか無いですものね」
「ストライクパック等のオプションをどう使うか戦術研究でもするさ」
「アレですか。機体が重くなるので回避がしにくいです」
「あの夫婦は自在に飛んでるぞ」
「あの夫婦がおかしいんです。僕は普通です」
「じゃあ、お前もおかしくなれ。そうすれば生き残り確率は上がる」
アルガレータ法国の侵攻部隊だが意外なことに動きが遅い。戦闘開始まで2週間は無いと考えていたが、2ヶ月程度有りそうだ。
その原因がようやく分かった。最初は多数集結してから動くと思われていた。こちらを圧倒できる数で。
しかし、そうではなかった。
「巨大衛星だと?」
「はい。直径2キロほどの人工構造物です。衛星としか思えません」
「万久里みたいな奴だろうか」
「いえ、速度が遅いので通常の衛星を少し弄っただけかと」
「戦艦でも相手に出来ない重防御戦闘衛星の可能性も有るか」
「それが一番の不安です」
「分かった。択捉星系駐留艦隊では相手に出来るものではない。万久里にやってもらう。万久里司令には私の方から迎撃要請を出しておく。監視を途切らせないように」
「了解です」
『万久里司令。南部技術大佐。話があるのだが今よろしいか』
「お聞きしましょう。択捉星系駐留艦隊司令。室津大佐」
『早速ですが、敵の衛星を見ましたか』
「見ました。厄介ですね。艦隊が相手をするのは困難でしょう」
『分かりますか』
「万久里は最前線での戦闘も考慮されています。大和級宇宙戦艦10隻から包囲攻撃を受けてもしばらく耐久できるだけの能力と反撃能力もあります。敵も同等としたら厄介極まりますな」
『ここには大和級宇宙戦艦は居ない。伊勢級宇宙戦艦が2隻では、攻撃に向かうと返り討ちになる。増援が来るまで持久を選ぶよ』
「それが良いでしょう。しかし、あいつの相手は万久里がします。それが本題でしょう」
『理解してくれて嬉しいよ。万久里が居てくれて運が良かった』
「万久里の真価を発揮させます。択捉星系駐留艦隊は逃げ出す奴の始末をお願いします」
・・・・・・・・・
・・・
『うむ。それでいいか。頼りにしている』
「では4日後に発動で」
4日後
「敵一部、突出してきます。規模、巡航艦4隻、駆逐艦12隻。他小型機50機から80機程度」
「先手を打ってきたか」
「南部司令。どうされますか」
「まだアレの射程に入らないな」
「後10光秒です」
「あのくらいなら万久里護衛艦隊でやれるだろう」
「戦闘機が厄介です。本艦の戦闘機隊も出しましょう」
「そうだな。ではあいつらも出すか」
「試験部隊ですか」
「良い状況だ。結果を見たい」
「火の鳥を見たいだけですね」
「いいじゃないか。燃えるな」
『指定の戦闘機隊は発艦せよ。繰り返す。指定の戦闘機隊は発艦せよ』
「出すのか?」
「何か疑問でも。西大尉」
「江間中尉か。もう少し近づいてからだと思っていた」
「お馬さんに乗っていけば良いですし」
「出撃だ」
「燃えるぜ」
「文字通りな」
「訓練の成果を見せる時ね」
「巡航艦に取り付けないかな」
「近接防御を抜ければな」
「俺たちの魔力が10分も持たないことが問題なだけだ」
「各機、巡航艦の相手はするな。戦闘機のみに絞れ。万久里戦闘機隊の意地を見せろ」
「「「「おう」」」」
「穂刈少佐。羽里二曹です。本機のストライク装備なら駆逐艦を相手に出来ます」
「まだVSFは運用試験中だ。無理はするな。それに万久里護衛艦隊の仕事も残しておいてやれ」
「了解」
『西大尉。発艦準備完了。いつでもどうぞ』
「ありがとう。西大尉、出る」
格好付けて発艦したが、すぐにお馬さんにしがみつくのだった。相手まで届かないし。
万久里戦闘機隊も戦闘衛星に運んでもらっている。
敵突出部隊との距離が3光秒となった。
『穂刈だ。全機散開。2分後に規定の戦術で攻撃開始。それまでは慣性で移動せよ』
『散開』
『穂刈だ。全機突撃せよ』
『『『『『おお』』』』』
2分後。各機ともロケットを全開にして敵に向かった。
次回更新 02月07日 05:00
次回「戦闘」
火の鳥は出るのか。




