人型戦闘機 宇宙へ
宇宙に帰った開発陣。
「1番発射台、穂刈機最終確認始め」
『発射台シャトル接続確認』
『推進剤配管接続良し』
『電装系配線良し』
『接合部確認良し』
『穂刈だ。機体側モニター異常無し』
「了解少佐。ブースター点火1分前」
『点火準備』
『点火30秒前』
『予備燃焼開始』
『予備燃焼開始。推進剤移送状態確認、良好』
『各部モニター異常なし』
「点火10秒前」
「5.4.3.2.1.点火」
『点火』
穂刈機が発射台から発進した。弾道軌道を取るべく上昇していく。
続けて3機が発進する。
衛星軌道で編隊を組む予定だ。
速さを競う気なのか、見物していたドラゴンの内数体が上昇していく。
「行ったな」
「我々も行く時間だ。西大尉」
「各員、揃っているな」
「点呼完了しております」
「真田技術少佐」
「うむ。では宇宙に向かう」
こちらは往還機2機に全ての機材を積み込んで離水した。こちらはのんびり上がるので競ってくるドラゴンは居なかった。
勿論ケンタウロスもこちらに搭載してある。
『こちら機長。本日は当機のご利用ありがとうございます。安全な運行に努めております。皆様もご協力をお願いします』
「この機長」
「民間のつもりか」
「将来退役したらなるのかもな」
『機長だ。先程上がっていったドラゴンは生物なのか?疑問になってきた。上昇でマッハ7まで出ている』
ざわつく機内。
『ついでに言うと、高度5万メートルまで上がった。本気になれば衛星軌道まで上がれそうだな』
嘘だろ。とんでもない。等声が上がる。
ルシンドラの衛星軌道に万久里が待機していた。勿論ルシンドラ住民からは見えない位置で。
万久里に戻った人型戦闘機開発チームは、本来の活動を開始した。ルシンドラでの活動はここに至るまでの準備だ。
「魔力が濃いのか」
「バンアレン帯ならぬ、魔力帯か」
ルシンドラにもバンアレン帯は有り、そこを抜ける時にかなりの魔力を感じたのだった。もしドラゴンたちが生存に酸素やその他物質を必要としない魔力依存の存在で在れば、この高魔力帯でどんな力を発揮するのか。恐ろしい考えでもあった。
「宇宙空間は魔力が多いのかも知れない。だが遮蔽された状態では魔力帯ほど感じない」
「肌を曝すような行為は認めないと思うよ」
「普通のガラス越しでは放射線が強すぎる。当然だ」
「魔力を測定できる機材が必要かも知れない」
「それには賛成だが。魔力って何だ?まずここからだな」
「人間に分析可能なのか」
「取り敢えず応用だけして、理論的なものは後回しだ」
そして訓練を繰り返す人型戦闘機。
『安室一曹。回避運動が遅いぞ』
「西大尉が早すぎるんです。人の3倍で動いていませんか」
『そう言いながらギリギリで避けるのは誰だ』
「当たるなと言ったのは貴方でしょう」
『空戦訓練だ。当然のことだよ』
『あのふたりはおかしいわ』
「西大尉の動きは脳が否定します」
『なんであんな機動をするのかしら』
「格闘戦は任せておいて、こちらの訓練をしましょう」
『そうね、小林二曹。レールガンの用意は』
「魔方陣への魔力供給は順調。発射魔道具も異常は認められません」
『こちらも各部異常無し』
「機体安定。動揺周期認められず」
『標的がちらついて照準が出来ないわ。もっと機体を安定させて』
「これで天体観測器レベルの安定です」
『もっと。出来るでしょ。できるだけ照準器のサーボに頼らずに大遠距離狙撃で命中させる訓練よ』
「西大尉並みの無理難題を言いますね」
『出来ると思うから言っているのです』
「了解」
小林二曹はケンタウロスの操縦席で意識を集中する。計器上は安定している。宇宙ステーションでもこれだけの安定は得られないだろうというくらいだ。位置情報の基準は万久里と衛星軌道上の衛星から出る電波を元にしている。これ以上は無理だな。しかし意識をさらに集中した。
(うん?微妙に動いているのか。これは振動?振動源は?マイクロ核融合炉の冷却システムか。こいつに載っているのはでかいからな。それとも何かと共振でもしているのだろうか。振動吸収性能を上げてもらうか。他には・・・)
『・・二曹。小林二曹。返事をしなさい』
「はっ?・江間中尉。なにか」
『どうしたの。1分くらい呼び出しに応えなかったわよ』
「申し訳ありません。意識を集中していました」
『意識を集中?何に』
「機体のブレについてです」
『そう。解ったの』
「マイクロ核融合炉の微振動らしいです。こいつのは強力ですから」
『そう。それではどうしようもないわね。でも、何故解るの』
「さあ?意識を手中したらなんとなく」
『なんとなくって。ひょっとしたら知覚のせいなの』
「知覚ですか。そうかも知れません」
『で、どうする気。マイクロ核融合炉は規定で訓練中の停止はできないわよ』
「いえ、停止させます。訓練といっても試験みたいなものですから問題にならないと考えます。再起動は5回可能です」
『それなら良いけれど。大丈夫?』
「やってみます」
5分後、かなり振動が小さくなった。これならいけるか。
レールガンは大型戦闘衛星の主砲で魔道具として改造されている。この魔導レールガンならケンタウロスの電力で発射も可能だ。ただ、まともに動作する事は少ない。サイズが大きくケンタウロスの手では保持できず、江間機と共同で保持している。照準は江間機が行っている。陸上用の試作機だったケンタウロスには宇宙空間で使用できる高度な照準器が付いていない。今度はどうなのか。
「江間中尉。どうですか」
『ええ、よく見えるわ。1分後に撃ちます』
「了解」
『撃』
『「え?」』
江間中尉の機体が発射と同時に姿勢を崩した。ケンタウロスの手も荷重を抑えきれずに少し動いた。
勿論命中する訳もない。
『反動質量が軽すぎたかしら』
「そうだと思います」
『いろいろ出てくるわね』
「こいつは大型戦闘衛星の主砲ですから」
『400トンなら問題無くても30トンの機体では無理と言う事ね』
「どうしますか」
『反動質量以外にも何か想定に抜けが有るのよ。訓練は中止。帰投して対策を考えます』
「了解」
各機が万久里に帰投した。
「よう、お疲れだな」
「穂刈少佐。疲れますが遣り甲斐は今まで以上に有ります。船外作業用人型重機に皮を被せただけの機体とは大幅に違います。いくら弄っても基本がアレでは」
「確かにそう思う。しかし小さいな。今までの機体は身長50メートルを超えた機体ばかりだった。とカタログに有るな」
「スペックはご存じでしょう」
「知っているが、西大尉の意見を聞きたい」
「使えるとだけ」
「ほう」
西大尉は赤い機体を見上げた。ここは万久里の艦内ドック。人型戦闘機開発チーム専用区画だ。
そこに居るのは試製57式人型戦闘機が10機。
西大尉専用機が赤。
江間中尉の機体が淡いミント色。
安室一曹の機体が白をベースに赤と青が多く一部黄色が混じっている。
他の7機は白い。魔力を使う人間に合わせたため、普通の戦闘機乗りや重機操縦員はまともに乗れなかった。せいぜいフェリーが関の山だった。
ある意味失敗作である。
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試製57式人型戦闘機 MSF38-T4
試作機なので各機で違う事もある
身長 24メートル
肩幅 11メートル
胴体厚 5メートル
乾燥重量 33トン
全備重量 48トン
動力 艦本式マイクロ核融合炉MR32
出力 9800kW 1基
核融合ロケット 推力 10トン 4基 脚部2基 背中2基
背中の2基は推力偏向可能
各部スラスター 14基
推進剤 水(凍結防止添加剤20%)搭載量8トン
外部増設可能
固定武装
12.7ミリ機関銃 2基 装弾数各1200発
超振動ブレード 1振り
楯 1枚 18メートル×6メートル
外接武装 基本
30ミリガトリング砲 1基 装弾数800発
空対空ミサイル 12発
各種武装を研究中
例 レールガン 対艦レーザー砲 対空パルスレーザー 荷電粒子砲
全て大型艦艇からの外し品(用廃品)
いずれも外部に巨大電源装置が必要
マイクロ核融合炉は推進用核融合ロケットの起動に使うために大出力。
機体を動かす電力は5000kW有れば十分。
推進剤は新開発の凍結防止剤を使用しマイナス210度でも凍結しない。これまでは化学合成推進剤だった。
機材故障時に凍結の心配があった水を使えることで運用コストが劇的に安くなる。
次回更新 02月01日 05:00
次回「制式化」
遂に人型戦闘機正式採用。
MSF38-T4
M ManType 人型
S space 宇宙
F Fireter 戦闘機
38 38番目
T4 Trial No.4 試作4号機
アルテジオ補給基地防衛戦で活躍した間に合わせはMSF37にされている。
R*-78とかA*-98とかのシリーズナンバーにはしませんでした。
穂刈少佐達の戦闘機もVFではありません。でも一部可変かな。
こんな武装が有ればという物が有れば教えて下さい。




