ルシンドラ 進展
ドラゴンとの対話で様々な事柄を知った。
まさかの神神紛争や、獣人が改造人間だとか。
やはり金属の魔力含有量が年月によるものだとか「これは彼ら星の彼方から訪れた者の実証結果だ」と言う。
「この地に生まれれば、それが当然だから分かる訳もない」と言って笑っていた。
また、各種資源の採掘許可も取れた。面白そうだという理由で。
これまでは細々とやっていた。試験用に間に合う程度の量を。ただ、掘り出したのと同じ量の金属を持ってくることを条件に。どうせ200年もすれば金であろうが魔力は行き渡ると言ってくれた。
交換条件として、この地の科学力の底上げを頼まれた。どうも、魔法のおかげで科学分野が伸びず延々と同じ光景を見ているのが飽きたという。
かと言って魔法文明も伸び悩んでいるのだと。
「社会体制のせいでも有るがな、2000年の間。あまり進歩していない。出来ればそちらも動かせれば動かして良い」とまで言った。
「科学技術の発達には汚染が伴います」と聞くと。
「多少の環境汚染は許す」とも言われた。
「この地の人類が汚染に気付き対策を取るようになればそれが良い」と。
「何でもスライム頼りの浄化だから問題が有る。いくら神々の作った最高傑作スライムといえど限度は有る。限度を超えた時にどうするのかを見るのも一興」とまで言う。
「汚染が激しくなった時はどうするのですか」と聞くと
「我らが浄化をする。そのくらいの能力は有る。100年も有れば重金属汚染や放射能汚染、化学物質による汚染も浄化できる。あまりにも酷い場合は、最終的に焼いてしまえば良い」と恐ろしいことを言う。焼くというのはこの世界を焼くのだろう。
そして堂々と採掘と精錬を始めている。皆のレベルがさらに上がり、高度な応用も可能になってきた。
「真田技術少佐。こいつは面白いな」
「中本技術中佐。面白いでしょう。こいつは」
「俺は第3陣で来たのだが、お前達と第2陣の連中は相当レベルが高いな」
「そうです。レベルが高いほど自由度が上がります。人型戦闘機の活躍も見ることが出来るでしょう」
「カーボン系の素材は値打ちが下がるな」
「ええ、金属の時代再びですよ」
これまで機体構造に多く使われていた地球製カーボンナノチューブ系素材が、魔力との親和性が無いという理由で金属に置き換わるようになってきた。この置き換えも小数の兵器に限定されるだろうが、金属なら現場での加工も自由になる。継戦能力の向上に繋がるかも知れなかった。
カーボンナノチューブをルシンドラで採取された石油から作ってみても魔力との親和性は低かった。炭素は魔力との親和性が低いのではないかという予想も立てられた。
ドラゴンとの対話から1年後。新型試作機が完成した。魔力親和性の高い素材と魔道具をふんだんに使った機体だ。素材は魔物から取れた物も含めている。
目的の一つだった低コストは現地調達材料だけだがルシンドラの物価を適用という、問題しか無い適用で戦闘機4機分に収まっている。
試作機は20機作られている。
活動範囲が大気圏内主体の空力を重視した機体が10機。
大気圏内の戦闘を考えない宇宙空間専用と言える人型戦闘機が10機。
いずれも高度な魔法技術と魔法金属を応用し、従来機体と比べて性能で上回っただけでは無く人型戦闘機は随分と小型化している。
大気圏内主体の機体は不要とも思われたが、敵アルガレータ法国に乗り込んで地表を制圧しようと考えた場合、衛星軌道からの攻撃では威力過大でありもっと小回りのきく兵器が求められたからだ。
同時に地上戦闘車両も以前の資料を元に新規設計で制式兵器として装備されることになった。
「穂刈少佐。飛行試験は上手くいきました。運用がどうなることやら」
「住友技術大尉か。南部技術大佐が上手く立ち回ってくれるとは思うが」
「本気で衛星軌道以遠まで進出する気ですか」
「地表からでもブースターを付ければルシンドラの第2宇宙速度を超える。航続距離も衛星軌道を2周出来るくらいに伸びている。問題無い」
「素の状態で第1宇宙速度は越えるので推進剤のことを考えなければ衛星軌道上で活動可能ですからね」
「魔法金属のおかげで大気圏突入も問題無い。非常時に地表から衛星軌道まで上がる運用は可能だ」
「魔法金属。技術者としてはふざけるなと言いたいです」
「分からないでもない。戦闘機が風魔法で機動するなんてふざけるなと言いたいよ」
「最初にやった人がそれを言いますか」
「俺は良いんだ」
「は~」
「西大尉。派手な赤ですね」
「安室君の3色使いには負けるよ」
「なんでこんな色になったんでしょう」
「宇宙空間専用だ、有視界戦闘はほぼ無い。色など飾りだと言って開発の奴らがノリノリだったんだ」
「濃紺とか黒が目立たなくて良いと思います」
「奴らに言ったら、開発から追い出されたよ」
「既に言いましたか」
「ふたりとも派手ね」
「江間中尉は何というか、アレだ。気を落とすな」
「そうです。かわいい色ですよ」
「でも淡いミント色はないと思うの」
「女性の乗る機体と言うことで気を遣ったんですよ。まだ試作だし、実戦になればきっと目立たない色になります」
「そう。安室君ありがとう」
3人はあえて小林二曹の機体を見なかった。
何故って。ケンタウロスがいたからだ。
「僕なんて…」
小林二曹はアルテジオ補給基地防衛戦で人型戦闘機に乗せられ戦果を上げたが、戦闘機の操縦が上手い訳ではなかった。重機の操縦が上手かったからあの時は西中尉に無理矢理乗せされたのだ。彼はパイロット適性が無いほどではないが瞬間的な3次元機動が苦手だった。
そして通船のように乗れる機体としてケンタウロスが改造された。これは通船ベースでは戦闘衛星になってしまうから人型戦闘機開発とは言えなくなってしまう。ケンタウロス改造なら人型戦闘機開発の一環として認められる。
ケンタウロス宇宙仕様が出来上がったのはそんな理由からだった。
宇宙ケンタウロスは、通常足を折りたたみ胴体横に燃料タンクや各種物資を入れたコンテナを括り付けている。胴体内に有る従来の人員収容区画がエアロックを備えた気密区画に変わり、非常時には人員が収容できることになっている。武装は上半身の両手で扱える物が装備される。
また、長距離移動用に3機の人型戦闘機を接続できるようになっている。胴体左右と胴体上だ。左右には西機と安室機、上には江間機だ。これで3機の活動範囲が劇的に増加する。
ちなみに色は茶色だ。ケンタウロスなら茶色だろうという開発陣の決め付けによって。
次回更新 01月30日 05:00
次回「宇宙へ」
負けるな小林二曹。江間中尉のお馬さんだぞ。
>実戦になればきっと目立たない色に
なるかな?




