ルシンドラ 歩く
「おい、アラクネの次はこいつか」
「あの体重と身長で二足歩行は難しいんだよ。歩くだけならともかく、走らせると重心が高すぎて急制動や急旋回が掛けられないんだ。足の数が半分になっただけ良いだろう」
「ケンタウロスじゃないか」
「これでも移動速度はアラクネと変わらない」
「はっきりアラクネと言いやがった」
「みんなそう言うんだよ。正式には試製54式多脚歩兵戦闘車だ」
「じゃあ、こいつは」
「おう。試製55式多脚歩兵戦闘車だ」
「歩兵戦闘車って。装甲車だろ」
「装甲車よりも戦車寄りなんだよ」
「そういうことか」
「で、スペックだが
全高 10メートル
全長 12メートル
全幅 6メートル(肩幅)4メートル(胴体)
自重 58トン
戦闘時重量 78トン フル装備+完全装備歩兵12名乗車時
移動時78トン+10トンまで可能。
最高速度 80km/h 良路
武装 75ミリプラズマ熱砲 1門 砲弾250発
12.7ミリ機関銃 4丁 銃弾各3000発
短地対空ミサイル 20発
煙幕弾投射器 3連装4基 各種弾頭60発
10メートルランス 1丁
8トンメイス 1丁
6メートル高振動ブレード 1丁
4メートルシールド 1枚
操縦員 1名から3名 通常移動時は1名で可
搭乗人数 完全装備歩兵12名
だ」
「「だ」じゃねえ。何だよランスとかメイスとか高振動ブレードとか。重さと長さがおかしいだろ」
「おかしくはない。こいつの装備であって歩兵用では無いからな」
「え?こいつが振り回すのか」
「当然だろ」
「頭大丈夫?」
「吉村特務大尉は飛行機が一息ついたからこちらへ来たのだったな。しかし浪漫が分からん奴め。ケンタウロスと言えばランスチャージだろ。メイスや高振動ブレードはランスチャージでやれなかった時のためだ」
「どんな時だよやれなかったって」
「ドラゴンだ」
「………は?」
「ドラゴンだ。ドラゴンは3種類居て1種類は人類と仲が良い。1種類は人を喰う。1種類は当地の人達は確認していないだろうな。かなり離れている。知能は高いぞ。会話が可能だ。知性という意味では我々以上だろう。ぜひ秘密を知りたいが、行かせてくれない。そして俺たちはその人を喰う奴の相手をする」
「聞いてないぞ」
「最後のドラゴンは最重要機密に近い。向こうは秘密にしなくても良いと言っているが」
「会話したのか」
「会話したのはこの基地でも3人しか居ない。そしてそれが銀河連合内での全てだ」
「拙いこと聞かされちまった」
堀井技術大尉からいろいろ聞かされて嘆いている吉村特務大尉。
真田技術少佐は吉村特務機関大尉の肩をポンと叩いた。
「心配するな。もう逃げられん」
「何も安心できねえ」
「なんだ肝の小さい奴だのう」
「徳川機関少佐。肝の問題ではありません。ここから転属できない事にならないか不安なんです」
「大丈夫だ。定年まで務めろ」
「もっと非道い」
試製55式多脚歩兵戦闘車は小林二曹の操縦で試験を重ねる。小林二曹の操縦になったのは一番重機の操縦が上手かったからだ。
「小林二曹。足回りに負荷が掛かっても、どのくらい持つのか確認したい。目一杯振り回せ」
『本部。小林二曹。どのくらいまでやりますか』
「壊れるまで良いぞ」
『了解。ちょっと飛ばします』
試験場に選ばれたのは、様々な地形のある土地だった。
(いけね。左後ろのつま先が引っ掛かった。帰ったらもう少しプログラムをいじるか。まだ黄色ならいけるな)
全速走行だけでは無くジャンプしたり、急制動急旋回とやりたい放題に操縦する。そしていくつかの赤ランプが点灯した。
さらに動くと、警報と共に赤ランプが点滅し始める。
(拙いな。これ本部まで帰れるか?)
「小林二曹。本部だ。もう良いぞ。そろそろ厳しそうだ」
『本部。小林二曹。帰投します』
試製55式多脚歩兵戦闘車は本部手前2キロで関節が破損して動けなくなった。
「おい。あそこまで行って修理か?」
「当然だな。動かないんだから。トレーラーも無いし」
「なんてこった。まあ試験目的が耐久性試験だから仕方ないか」
「そういうことだ。どんな壊れ方をしたのか調べないとな」
試製55式多脚歩兵戦闘車、通称ケンタウロスの試験は続く。
次回更新 01月24日 05:00
次回「ドラゴン」
開発は順調に進んだはず。なので事態は進みます。




