ルシンドラ 暴走
おおよその傾向が分かってから各人とも能力の強化に余念がない。
その中で一番困っているというか悩まされているのがこのふたりだ。
ミサとユキ。
「聖女様、怪我をしました。お願いします」
「こいつ、薬草だけど汚れているので水で洗って欲しいな」
ミサは簡易医療機械として、ユキは洗浄機として、皆から頼りにされている。
鬱憤もたまろうというもの。それを感じた何人かは簡単に頼もうとしなくなったが、感じない人間もいる。
「ユキ、こいつ洗ってくれ」
「なんで古代君はいつもそうなの」 ぷんぷん
「え?いや、だって……」
「あそこにシュテン隊長と私がためた水タンクがあるから。そこで自分でやってね」
「なんで…」
「もー!」 スタスタ
「何だよ、あいつ」
「ミサさん。怪我をしました。お願いします」
「ヒカル。こんなの絆創膏貼ってしまえば綺麗に治るわよ」
「そこを治癒でおね「甘えないで」…」
「ミサ。ごめん。ちょっと血が止まらない」
「ファリーナ。今すぐやるね。ヒカルはあっち行って」
「む、お邪魔だったか」
「ヒカルは邪魔。ファリーナは、そこ座って」
「ありがとう」
「あのふたりの機嫌が悪い」
「おい古代じゃないススム。お前が悪い」
「ヒカルも悪い」
「「俺たち?」」
「「「「「「そうだ」」」」」」
「「え~」」
「とにかく機嫌を良くさせろ。ヒカルは治癒に頼るな。ススムも自分で薬草くらい洗え。いいな」
「「は~い」」
「ん?」
「「は!」」
一応は前ほど機嫌の悪くないふたりを見て、やはり正しかったかと思う一同。
板バネとエアークッションの量産も軌道に乗り、そろそろ一段階レベルを上げるべく奥地に行くことになった。都市周辺では上げる速度が知れている。
遠征準備をして都市を離れた。
「シュテン。行く所は君たちがレベル上げをした場所か」
「そうだ。船で行くから地元の連中がこれない場所だ。安心して暴れていい」
「と言うことはだ、基地があるのか」
「基地ほどではないな。前線指揮所程度だ」
「それでも有り難い。サウナもいいが、やはり風呂だ」
「日本人として譲れないからな。いい奴があるぞ」
「全員で大丈夫なのか」
「100人収容可能だ」
「お世話になります」
「任せとけ」
以前乗ってきた帆船とはまた違う船で離れた島に渡った。
「「「「「「おお~」」」」」」
「おう。まあ初日はゆっくりしろ。女湯は向こうな。男湯はあそこだ」
「「「「「「うおー!!!」」」」」」
翌日からチームごとにシュテン部隊から3人付き、周辺1キロでこの辺りのことを学ぶ。
4日後。奥に入ることになった。
「ウウォー!!無理無理無理!!!」
「キャー!近寄らないで。近寄らないでったら。近寄るな~~~!!」
「科学忍法、チャッカマン」
「外しただと?」
「科学忍法、促成栽培。見たか、この障壁を。え?破るの」
至る所で阿鼻叫喚と技の披露に謎の自信。
「ワハハ。ま、ここはこんなものだろう」
「おい、もう少し説明してくれても良かったのではないのか」
「ユキムラよ。事前の説明がなければ行動できないのは問題だと思わんか」
「そう言われれば、返事のしようもない。確かにそうだ。臨機応変に対処するとしよう」
「おい、科学技術はダメだぞ」
(チッ)
とんでもない速度でレベルが上がる一行。シュテン達も更なるレベル上げに励む。
「シュテン隊長。緊急事態発生。ゴブリンスタンピードです。西の森からこちらに向かってきます」
「なに?。訓練中止。訓練中止。至急指揮所に集合だ。ピーも使って良し」
「了解」
「ドローン飛ばせ」
「発進させます」
全員に緊急コールが出され、指揮所集合が指示された。
全員が集まる。
「集合したか」
「大江部隊、欠員無し」
「万久里部隊、欠員無し」
「よろしい。呼び集めたのは緊急事態が発生したからだ。西の森でゴブリンスタンピードが発生した。距離は40キロほどあるが、ここへの到着は明日、黎明時と推定される。いい機会だから、奴らを殲滅する。何か質問は」
「真田技術少佐だ。武器使用の条件は?」
「どうしてもダメだと言う時までは、現代兵器は禁止。ピーもだ。判断は俺が出すが、次席として穂刈少佐、次が真田技術少佐」
「厳しいな」
「そのくらいでないと腕は上がらないぞ」
「了解だ」
「穂刈少佐だ。ここで得た能力を使う分には科学知識を取り入れてもいいのだな」
「勿論だ。ここに居る部隊はそれを目的としている」
「了解した。良かったな、南部チーム」
「何か策があるのか。住友技術大尉」
「まあ、有ります。訓練まで行かない練習程度はしましたが大丈夫でしょう。ただ実戦で大規模にやるのは初めてです」
「期待して良いか」
「お任せを」
「それとピーだが、緊急時のコールは良いぞ。危なくなったらコールしろ」
「「「「「「了解」」」」」」
「大江隊長。ゴブリンの数増えつつあり。熱反応増加。大型個体も混ざっています」
「赤外線画像出せるか」
「赤外線ですが。奴ら赤外線に反応する種類もありますよ。暗視装置は森の中と曇り空で光源が弱くよく見えません」
「そうだった。奴らの知能レベルが分からんから赤外線照射は中止。照明を点ける訳にもいかん。熱反応から個体の割り出し出来るか」
「まだデータ不足で正確な割り出しは出来ません、それで良ければ」
「やってくれ」
「実行します」
「隊長。大型個体ですが、オークまたはゴブリンキング相当と思われます」
「オークはともかくゴブリンキングだと拙いな」
「ギルドの資料だとゴブリンキングの方が厄介となっていました」
「どうするか」
「航空攻撃は」
「それだとレベル上げにならん」
「こいつら相手にレベル上げですか」
「当然だ。だが、日下と佐藤は攻撃ドローンの準備。最悪の事態に備えろ。基地と上にも状況により介入を求める」
「基地はともかく上ですか。ここと基地にある機材で十分だと思いますが」
「アレで全部かな」
「キングですか」
「キングならギルド資料だとまだ出てくる。弾切れの可能性もある」
「協力要請しますか」
「状況は報告してある。準備もしていると言っている。弾薬消費量5割で奴らを3割も減らせなかったら要請する」
「了解です。戦術コンピューターに条件入力します」
「こんなものだろう。交代で休憩だ」
各員休養後、配置に就く。
夜明け頃、奴らの先頭が見えた。
次回更新 01月12日 05:00
次回「殲滅」
技炸裂。




