機動宇宙服 降下作戦
さあ冒険の始まりだ。
「新たな情報が入ったわ。頭痛がしそう」
「稲州技官が頭痛だと?」
「なあ、安室。この船沈まないか」
「失礼な。理解不能な情報に理性が拒否反応を起こしているだけよ」
「あの星ですか」
「そう。察しが良いわね、小林二曹」
「まさか調査部隊が魔法を使えるようになったとか」
「なんで…分かるの」
「理解不能な情報と言えばそのくらいしか思いつきません」
「そうね。そうよね。しかも、ファンタジー金属がさらに効果を増すという情報も」
「稲州技官。我々に魔法を取得しろなんていう命令は出ていないだろうな」
「ウフフフフフ…」
「・出たのか」
その日から惑星ルシンドラの勉強が始まった。勿論通常の勤務時間内に。
惑星ルシンドラはその特異性から保護星系の中でも、極秘のベールに包まれていた。マスコミや学界からも文句が出るが日本連邦政府は無視している。
「うう……言語が」
「言語はなんとかなったけれど、この腕のうずきを抑えられるか自信がないの」
「江間中尉はモフモフ大好きですね」
江間中尉と安室一曹が話している。
そう。惑星ルシンドラには夢の獣人がいた。それも顔が獣タイプではなく人間に近いタイプの。
言語は調査部隊が苦労して集めたデータを基に教育機械で詰め込むが、微妙な言い回しやイントネーションはどうしても実際に使わないと習得は出来ない。
その傍らでは西大尉と小林二曹が。
「これ、使いこなせるんでしょうか」
「言語か。なかなか難しいな」
「西大尉でもですか」
「私はそんなに優秀ではないぞ」
「そんな事言われたら僕なんて…」
「小林二曹には今回の任務で力になって貰わないと困る」
「そうなんですか」
「もちろんだ。ファンタジーに詳しいのは小林二曹だ。私達が今読んだところで理解度は付け焼き刃だ。どうしても理解が深い人間が必要になる」
「なんだか、励ましてくれているのかからかわれているのか」
「勿論励ましている。それに江間中尉を押さえてくれる人間は多い方がいい」
「突撃しそうですか」
「中尉が非番になると高確率でふれあいコーナーに居るとの情報もある」
「愛玩動物ではなく意思を持った人類ですよ」
「それは関係ないな。見た目モフモフなら突撃すると思う」
「拙いですね」
「ああ。私がいつも一緒にいる事も無理だしな」
「押さえられるでしょうか」
「押さえて欲しいな」
「頑張ってみますが」
「有り難い」
現地言語を学び始めて3ヶ月後。一応使い物になる程度までになった事で現地入りの予定と行動計画が組まれた。
これがまた酷い。
現地には調査部隊がいるのでシャトル降下で合流する。
その後、現地になじむようにレクチャー(OJT)を受け、冒険者登録をする。
ここまでは良い。OJTはマニュアルさえ無い事柄だけにどうしようも無い。
その後の計画が杜撰というか行き当たりばったりというか、初めての事で計画を立てるにも立てられないという事情が良く分かる。計画というよりも指示だった。
1.魔法を使えるようになること
出来れば全員が望ましい
2.魔法とファンタジー金属の関係を見定めること
特にパイロットと開発技術者は扱えるようになること
3.現地経済を混乱させないため活動資金は基本的に現地調達
特に資金が必要な場合は持ち込んだ金塊の使用を許可する
4.1と2を成功させるまでの期間は特に設けず
1と2は良い。当然だろう。しかし3と4が酷い。ひょっとして、出すのは初期資金だけで後は自分たちやれとでもいうのか。4も期間設定が無いということは出来るまで続けろということになる。または上が失敗と判断するまでだ。現状、上の力の入り方からいうと出来るようになるまでだろうな。
俸給には未確認地出張手当・危険手当などが加算され支給額が倍になっている。なっているが、ここに派遣されている間は使い道すら無いらしい。調査部隊に聞いた。正直やっていられない。
幸い派遣チームには少佐が3人も居る。責任は押し付けることが出来そうだ。特に穂刈少佐は60機撃墜のエースとして知られている。普段の言動はアレだが面倒見の良い指揮官として人望がある。
西大尉はそう思った。
ウロウロしている間に作戦開始時間が迫ってきていた。
チームは4個に分かれ
1.新型チーム@元凶
西大尉、稲州技官、江間中尉、安室一曹、小林二曹
2.南部チーム
大高二曹、鷲野二曹、竜田二曹、白鳥三曹、燕上等兵、住友技術大尉
3.イスカチーム
真田技術少佐、徳川機関少佐、森主計中尉、加藤中尉、古代中尉
4.万久里チーム
穂刈少佐、早瀬中尉、一条二曹、満久二曹、羽里二曹
これは調査部隊から4名から6名編成が初期には良いと言われていると報告があったからだ。
南部チームの住友技術大尉はお目付役。チームに士官がいないため放り込まれた。
万久里チームはどこからか情報を聞きつけ参加してきた。早瀬中尉以外はパイロットだ。
編成されてから万久里陸戦隊に地上戦とサバイバル技術の教育を受け、惑星大館でサバイバル訓練と実戦さながらの戦闘訓練を受けた。唯一軍事教育を受けていない稲州技官はかなりつらかったようである。
一行は惑星ルシンドラへ降下した。
次回更新 12月18日 05:00
次回「自滅紛争」
次から3話説明回です。
14話から冒険は始まるのですよ。今回は前触れです。




