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リーンの森の冬は厳しく、期間も長い。
森の中の猛獣ですら毎年冬を越せずに寒さと飢えで死ぬものが多い。
山小屋の外は冬の嵐がはじまり、吹雪で薄暗く極寒の地となっている。
風も刃のようになり、ひとたび外に出れば風に混じって凍った雪が刃物のように襲いかかる。
吹雪が止まるまでは外には出られない。
山小屋の中で冬の時期の日課になっている保存食の確認を終えて火鉢で暖をとっていたレイの耳に「トン、トン、トン」と小屋の扉を叩く音が聞こえた。
聞き間違いかと思ったが、耳をすますと今度はしっかりと聞こえる。
リーンの森には今まで゛人゛が来たことはない。
老婆がいた時からだ。
゛人゛はリーンの森の外でしか見たことはない。
危険な猛獣や毒草がたくさんある森に近づく物好きな人はいない。
それに、今は真冬の嵐の時期なのだから尚更だ。
警戒しつつ、扉に近づくと、弱々しい震える男の声で、「助けてください、どうかお願いいたします。」
レイは放っておくこともできたが、何故か聞き返していた。
「何者だ!ここに何のようだ」とレイが問いかけると、
「森の中で迷ってしまった者です。彷徨い歩きこちらの山小屋にたどりつきました。どうかお願いします。助けてください」と震える声でしっかりと返事があった。
レイがどうするかと考えていると、
「お願いします。どうかお嬢様だけでも中に入れてくれませんか?昨日から高熱で苦しんでいるのです。森から出られず、医者にかかることもできてません。このままではお嬢様は…」
必死に声を出している男に対してレイは目の前の扉をじっと見つめ、「ふたりだけか?」と聞いた。
「はい!お嬢様と私だけです」
迷いながらもレイは扉の鍵に手をかけた。
左手に腰から短剣を抜き取り手に握りしめ、いつでも動けるよう体勢を整え扉を開けた。