ロイド編(5)
ようやくグレイス登場です。
兄上から、美しいヴァイオレットサファイアの瞳を持つ女神様の遣いの話を聞いてここまでやって来たが……
思いの外、平凡だな。
俺は、神々しいというか、何か常人とは違うオーラを放っているんじゃないかと勝手に期待していた自分に気が付いた。
勿論、瞳だけは見たことがない程美しいのは確かだが。
……やはり別人なのか?
まぁ、それを判断するのは俺じゃない。
王子スマイルをべったりと貼り付けたまま、俺は叔母上の体調不良を理由にグレイス嬢の侯爵家滞在を打診した。
「不敬を承知で申し上げますが……私の祈りでケンブリッジ侯爵夫人のお体を回復させることは難しいかと存じます」
二つ返事で飛び付くかと思ったが、求められる結果を明確化させてきたな。
面白いじゃないか。
そして、結果は問わないこと、養護院への支援金を餌にすることで、グレイス嬢を釣り上げることに成功した。
それにしても、王族を眼の前にしても萎縮する様子が微塵もないな。
環境を考えると、今まで高位者と接する機会があったとも思えないんだが?
常人離れした、神経の図太さなのか……!?
「では、侯爵婦人の病状の変化に関して一切責任を問わないと、今ここでロイド殿下の直筆サインと日付け入りで、書面に記載をお願いいたします。万一悪化したとしてもです」
グレイス嬢が真顔のまま、さらに付け加えてきた。
いや、こんな要求明らかにただの令嬢じゃないだろ。
女神様の遣いとやらではないかもしれんが、正直言って俺の部下に欲しい。
俺は子供の頃に感じた面白い玩具を見つけたときのような高揚感を胸に、帰路についた。
◇ ◇ ◇
グレイス嬢が無事ケンブリッジ侯爵家に到着した数日後に、俺は再び叔母上のところを訪れていた。
暇な訳では無い。
兄上は緊急の案件がたて込んでいて、まだグレイス嬢に会えそうにないと死にそうな顔で嘆いていた。
そこで俺が、連れてきた責任もあり様子を見に行くことになったのだ。
「ロイドちゃんたら、そんなに心配しなくてもグレイスちゃんを虐めたりなんてしてないわよ?」
「素直でとっても素敵なお嬢さんじゃない。私すっかり気に入っちゃったわ」
…………それは良かった。
末娘が嫁入りしてから気落ちしていたのは確かだからな。
案の定、グレイス嬢は叔母上達に玩具の人形にされていたようだ。
以前会った時よりも明らかに上等な服を着せられ、髪も肌も完璧に仕上げられており、高位貴族の令嬢と化していた。
勿論、黙っていればだが。
無表情のグレイス嬢から事務的な口調で近況報告を受けているんだが……興味が無いどころか若干睨まれているような気さえするな。
急に可笑しさが込み上げてきた俺はつい
「ぶふっ」
と吹き出してしまった。
王子である俺がわざわざ様子を見に来ているんだ。
明らかに特別な待遇を受けているというのに……本当に予想外の反応しかしない女だな。
「こんなにも俺に興味を持たない令嬢は初めてだな。」
「何でそんなに事務連絡なんだよ…くくくっ。」
幼い頃から訓練を重ねている王族として在るまじきことだが、つい本音が出てしまった。
……残念な目で見るのはやめろ。
自意識過剰じゃないからな!?
「あらあら。ロイドは随分とグレイスちゃんを気に入っているのねぇ」
叔母上、冗談でも絶対に止めてくれ。
万一兄上の耳に入ったらどうしてくれるんだ。
グレイス嬢に引いた目で見られ、叔母上には茶化され、散々だな。
だが、令嬢に対して辟易していた俺がー
グレイス嬢の眼の前で素の自分を晒してしまったことに、俺自身が内心酷く驚いていた。
最後までお読み下さり、ありがとうございました!
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