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ロイド編(1)

ロイド編を書き始めました。

ハッピーエンドになりますので、皆様に楽しいひと時をお届けできたら嬉しいです。

※R15は念のためです。

「ロイド殿下!」


「至急のご報告がございます! レオナルド殿下が薬に盛られた毒で、倒れられました…!!」


その日、全く楽しくもない狩猟に付き合わされ心底退屈していた俺はー

澄んだ青空を見上げながら「こんな日は兄上も気分良く過ごされているだろうか。」

だなんて、呑気に考えていたんだ。


そこへ、強張った顔の従者が密かに駆け寄り恐ろしい言葉を告げた。


…なに?

…今、なんと言った?


一瞬で全身の血が凍りつき、視界が暗くなった。


「殿下!」


従者の声で、はっと我に返った。


「ここは任せた。直ぐに帰城する!」


王城からほど近い、狩猟用に保護された森を馬で一気に抜ける。

「ハァ…ハァ…」


耳鳴りがして、自分の荒い息遣いとドクドクとした鼓動の音がこだまする。


城に戻ったとき、俺は酷い顔をしていたのだろう。その場にいた者達は僅かに驚いた表情を覗かせたが、直ぐにいつも通りの態度で俺を迎えた。


「お帰りなさいませ。」

「狩猟会は昼までと伺っておりましたが…?」


この様子を見るに、兄の事を知っているのは極一部の者だけのようだ。


俺は一瞬で王子の仮面を顔と心に貼り付け、平静を装った。


「少し体調が悪くてな。早めに切り上げることにした。」

「医者は不要だ。自室で暫く休むから、誰も入らせるな。」


そう言うと、王族の居住スペースへと不自然に見えないよう意識しながら急ぎ向かった。


そのまま兄の部屋の方へと歩を進める。


物音一つせず、静まり返った廊下を初めて不気味に感じた。


コンコンッ。

兄の部屋から寝室に向かうと、泣き腫らした顔の母上が居た。


「…っ」

俺は母上に言葉をかけることも出来ず、ベッド上の兄上に視線を移した。


ー兄上は


生きているのか、もうこの世に存在していないのか。

顔は生者のそれとは思えない程に青白く、ただそこに横たわっていた。


「兄…上…」


「兄上!ロイドが参りました!!」


「兄上…!!目を覚ましてください!!」


俺は、震える手で僅かに温かい兄上の手を握りしめ、懇願した。


医師が側に控えてはいるが、何の処置も施していないところを見ると最早出来る事は何もないのだろう。


俺は己の無力感を感じながら、ひたすら誰か兄上を助けてくれと奇跡を願い続けた。


出来ることなら全てを放り出して、兄上を慕う一人の弟として傍にずっと居たかった。


だが、第二王子としての立場がそれを許す筈もない。


俺の右腕である側近が、気遣いつつも容赦なく、俺を日常の業務へと引き戻しにきた。


「毒を盛った医師は直後に服毒自殺をしており、詳細は未だ不明です。背後にいる者達の目星はついておりますが、現時点では証拠不十分です。陛下の指示で極秘裏に調査を行っておりますので、殿下に置かれましては冷静なご対応をお願いします。」


「…分かっている。至って冷静だから安心しろ。」

「何としても証拠を見つけ出し、俺自らが八つ裂きにしてやる…!!」


「殿下!」

「全く冷静さに欠けてるじゃないですか…」


今日は隣国の特使と、貿易を得意とする我が国のヒューレイ伯爵一派とともに夕食会の予定がある。


兄上の事件が伏せられている以上、隣国の特使との公務を勝手にキャンセルする訳にもいかず、俺は広間へと足を運んだ。


兄を亡き者にしようとしたのは、十中八九ヒューレイ伯爵の手の者だろう。


「待たせたな。」


俺を出迎えたヒューレイ伯爵は、にやつくのを抑えきれないような表情で恭しく挨拶をしてきた。


「これはロイド殿下。随分とお疲れのご様子ですが、如何いたしましたかな。」


その瞬間、俺は傍に控える騎士の剣を奪い、伯爵の首元に突き付けてやりたい衝動に駆られた。


テーブルの下で爪が食い込むほど拳を握り、それと分からぬよう歯を噛み締めて堪える。

口中に鉄の嫌な味が広がっていった。


「あぁ。王家の大事な鷹の体調が酷く悪くてな。」


「周りの環境が悪いのではないかと思うのだが、どうやったら塵一つ残らず一掃出来るか悩んでいるところだ。」


「それはそれは。殿下は愛情深くいらっしゃいますなぁ。」


鷹は我が王家の象徴だ。この狸爺はいつものように飄々とした態度を崩さずに答え、余計に俺を苛つかせる。


同席している特使は…

今回の件に関わっているのかいないのか、相変わらず食えない表情でこちらのやり取りを眺めていた。


隣国のガルシア王国は最近王が代替わりしており、新王は好戦的で領土拡大を目論んでいると秘密裏に情報を掴んでいた。


我が国とは長年協定を結んでいるが、それは他国から攻められたときに限定されており、侵略時の援軍については一切触れられていない。


ガルシア王国としては援軍の確約が欲しいのだろうが、父である陛下も兄上も、侵略戦争には全く価値を置かない人種なのだ。


あの人達は、優秀な頭脳とそれを余すことなく使いこなすセンスがずば抜けていて、自国民の血を流す不毛な戦いよりも国内の経済を増強すること常に考えている。


そこでガルシア国王はヒューレイ伯爵と手を組んで、次代の王を俺にしようと画策しているのだ。


ちなみに俺は、幼い頃から座学よりも体を動かす方が好きだし得意だった。


『兄上!絶対に次は兄上から一本取ってみせます!!』

退屈な授業を抜け出して、4歳年上の兄上の後を追いかけ回しては、剣の勝負を挑んでいた気がする。


兄上が体調を崩しがちになり、剣の鍛錬場に姿を見せなくなってからはより一層努力し、今では騎士団長と互角に戦えるようになった。


俺が剣の腕を鍛え続けるのは全て、兄上が王になった時に兄上を守るため、兄上が治めるこの国を守るためだ。


それなのに、こいつらは俺が心の奥底では戦場での活躍を求めている筈だなどと勝手な理由を付けて正当化し、健康面で不安要素がある兄上を排除しにかかっている。


俺としてはこの場の人間を全て抹殺し、未来永劫断交したいのだが。


援軍ついての正式な打診もなく、水面下の画策を表立って処罰出来る程の証拠もない状態では特使を追い返すことも出来ない。


地獄の様な夕食会を終え、俺は足早に兄上の寝室へと向かった。


兄上の状態は変わらなかったが、刻一刻とその時が近づいているのが肌で感じられた。


「兄上…」


「いつか、国中を一緒に見て回り、飢えや争いのない素晴らしい国を共に造ろうと約束してくれましたよね。」


「俺には兄上のような素晴らしい才能も、人の上に立つ器もありません。兄上の居られないこの国など、俺にとって何の価値も…」


兄上の手を握りしめて、溢れる涙を隠すように俯きながら語り続ける。


だが、次の瞬間。


温かさを失いつつあった兄の手が、急に温度を取り戻し力強く握り返してきた。


反射的に顔を上げると−


見たこともないほど血色が良く、健康的とも言える顔色をした兄が目を覚ましていた。


「ロイド…か?」


「ここは…? 俺は夢を見ていたのか…?」


兄は少し混乱している様子だったが、何と言うか、以前とは別人のように元気そうに見えた。


慌てて医者を寄び診察を終えると、医者は信じられないといった様子で口を開いた。


「長期的な診察が必要ではありますが…毒の後遺症が全く見当たりません。それどころか、以前よりも御身体の具合は格段に良くなっておられます。」


「レオナルド殿下、ご気分はいかがでしょうか。」


「ああ。」


「自分の体じゃないかのように体が軽く、生まれ変わったのだと言われても信じてしまいそうなほど調子が良いな。」


「父上、母上。」

「ご心配をお掛けしました。」

そう言って、背筋を正した兄上は深々と頭を下げた。


「ロイド。」

一切の迷いを断ち切ったような強い光を放つ金色の瞳が、俺を正面から捉えた。


「長年お前一人に重荷を背負わせてきて、すまなかった。」

「小さかった頃に2人でした約束を覚えているか?これからは国中の民が幸せになれるよう、俺の力の及ぶ限りの事をするつもりだ。」

「不甲斐ない兄だが、俺に付いてきて欲しい。」


「兄上…」

「兄上のお力になれるよう、我が身が果てるまで力を尽くします…!」


涙でぼやけた視界の中で……

まだ幼い俺の事を気にして振り返り、遅れぬよういつも手を差し伸べてくれていた兄上の姿が重なり合った。

最後までお読み下さり、ありがとうございました!

小説超初心者ですので、【まだまだだな】【面白かった】など教えて頂けると大変参考になります。

宜しくお願いします!!

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