ロイド編(12)
「私は自分で抵抗もできず痛い思いをして殺されるなんて、真っ平御免です。天国にすんなり辿り着けるとも限りませんし!!」
グレイス嬢。後半のセリフに随分と力が入っていたが、女神様の遣いであったとしても天国への道のりは過酷なのか?
普通の人間はどうなるんだ……
本人は発言に気付いていないが、女神信仰のど真ん中に風穴を開ける威力だな。
「ですから、自分の身は自分で守れるようにと、レティス様から護身術を習い始めたところなのです」
「ね?レティス様!」
「ええ。グレイス様のお力になれて光栄ですわ」
「実は、大陸の東方では女性騎士が活躍している国も多いのですよ?ロイド殿下、我が国の女性のためにぜひ指南役をお願いいたします」
「皆様には優秀な護衛騎士が付いているとは思うけれど、女性が強くあることには賛成ね。ロイドも勿論そう思うでしょう?」
母上まで加勢してきたか。
はなから俺に選択肢はない案件だな……
「我が国を美しく彩る女性達の身を守るための一助となれれば幸いです」
望み通りの言葉を口にすると、我が国の三強女性がにこやかに頷き、周囲の令嬢達の俺を見る目つきが一気にギラついた。
俺の身こそが危険に晒されているんだが。
「では、カイル殿にも協力を頼んだらどうだろうか」
「かの一族の長は、一族内の最も強い女性と婚姻する習わしだそうだ。幼い頃から性別問わず皆が訓練を受けていると聞いたぞ」
「ロイド殿下、素晴らしいお考えですね!早速カイルに聞いてみますね」
「まぁ!ロイド殿下にカイル様まで!?」
「私、講習会に必ずや志願いたしますわ!」
「お二人が手取り足取り教えてくださるのかしら」
俺がカイル道連れ案を口にすると、令嬢達のざわめきが広がった。
ふっ。
グレイス嬢の頼みなら、カイルが断わる筈がない。
カイルのグレイス嬢信奉は有名だが、恋愛絡みではないのは周知の事実だ。
公爵にも頭を下げさせるだけの価値を持つカイルの妻の座を狙う令嬢も多いと聞くし、これで二分されるな。
こうして、即座に話はまとまり講習会は月に一度開催されることとなった。
今日が初日であり、カイルも勿論同席している。
日頃研究室にこもり、社交の場でも令嬢と関わることはほぼないカイルと間近に接する事ができるとあって、多くの令嬢が鍛錬場に集まっている。
教えるのは短剣の扱い方と護身術なのだが、カイルの周辺にはやけに熱心な令嬢もチラホラいる。
確かに一族の長は強い女性と結婚するが、残念ながら……カイルは元長で結婚願望は皆無だ。
『結婚など私にとっては足枷にしかなりませんね。この国がグレイス様にとって害になるようなことがあれば、殿下方がいくら止めようとも私が即刻国外にお連れいたしますので』
いつぞやカイルに脅された言葉が頭をよぎる。
カイルとの結婚など幻想であることを、誰かが気付くのだろうか。
「ロイド殿下は強い女性のことをどう思われますか?」
不意に、俺が指導している令嬢が尋ねてきた。
周囲の令嬢も、俺の反応を伺っているな。
「戦闘的な強さ自体に思うことはないが、諦めずに訓練を積み重ねたその努力や姿勢は尊敬に値するし……好ましいと思う」
俺はレティスが幼い頃、体格が上の我々に向かって諦めず幾度も挑み続けてきた姿を、あの眼を思い出しながら答えた。
俺の発言以降、令嬢達がより真剣に取り組む様になった一方、レティスにはゴミのような目で見られた。
決して令嬢達を操作するために、上辺だけで言った訳ではないのだが。
翌朝の鍛錬で、いつもとは段違いの鋭く執拗な攻めをしてくるレティスの相手をしつつ、俺は王子という立場の理不尽さを嘆いたのだった。
最後までお読み下さり、ありがとうございました!
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