ロイド編(9)
謁見の間は異様な雰囲気に包まれていた。
王としての体裁をギリギリ保ちつつも、完全に面白がっている父。
息子の命の恩人であり、将来の義娘(仮)をキラキラとした瞳で見つめる母。
グレイス嬢に近づきたくてウズウズしている兄。
幻の一族の元長でありながら、グレイス嬢の番犬と化しているカイル。
眉間に谷よりも深い皺を寄せ、頭を痛そうにしている宰相。
非公式の場であるため、皆思い思いの態度を隠そうともしないな。
「では、カイル殿は元長でありながら、かの一族とは現在全く関わりがないということか?」
「自身の甘さによって生じた事態の責任を取り、完全に縁を切って里を出ております」
「今はグレイス嬢をお守りする為に存在する、一介の薬師とご認識下さい。恩人であるグレイス嬢に害なすものは、誰であろうと私の持てる全てを以て全力で排除いたします」
誰であろうと……
つまり国の権力者であろうとということか。
薬と毒は表裏一体。未知の毒薬を持っている可能性もある。
その上、武力も併せて持つとなると非常に厄介だな。
……全く。
なんて猛獣を手懐けているんだ。
「それは恐ろしいな。グレイス嬢に害なすつもりは毛頭ないが、いらぬ世話を焼きすぎて私も排除されぬように気をつけねばな。ハハハ」
「……陛下」
先ずは宰相に頭痛薬を調合してもらう必要がありそうだな。
「さて、グレイス嬢」
「薬師を探し出し、特効薬を民達に速やかに届けられたのはそなたのお陰だ。多くの命を助けたこと、礼を言う」
「して、幻の一族と言われるカイル殿の所在はどの様にして探し当てたのだ?」
「身に余るお言葉を頂き光栄でございます。ですが、全て女神様のお導きに従ったまでのこと。全ては女神様のお陰でございます」
「ふむ……そうか」
……そうか。で終わりなのか!?
父上は、グレイス嬢から詳細を聞き出す事を諦めたようだ。
我が国の最高権力者なのだから幾らでも方法はあるのだが、本人が望まないのなら触れずにおこうということらしい。
グレイス嬢を困らせるな。早く終わらせろという母上からの圧もグイグイ感じるな。
こうして、なし崩し的に謁見は終了した。
直後に開かれた極秘会議で、グレイス嬢を王城預かりとし、女神様の愛し子として地位を確立させることが決定した。勿論、兄上の婚約者としても内定済みである。
婚約者として確定するまでは、周囲を刺激しないよう兄上も俺も不用意にグレイス嬢に近づかないよう指示を受けた。
さてと……
「舞踏会でグレイス嬢がレオナルド殿下の婚約者に決定したら、次の標的は殿下ですね~」
「残る王子はあと一人。昔から殿下は人気が高いし、ご令嬢方が腹をすかせたハイエナの様に群がって来ますね!!」
「完全に他人事だな」
「大丈夫です!殿下にも運命の人が現れますって……たぶん」
打算と媚まみれの令嬢などうんざりするが、これも義務だ。
だが、俺も伴侶となる人間を愛することなどないだろうから同じ様なものだな。
◇ ◇ ◇ ◇
今日王城では、形式上の兄上の婚約者選定を兼ねた舞踏会が催されている。
兄上の婚約者候補と一部で言われていた筆頭公爵家令嬢だが、実際は同盟国と婚約を結ぶ話が進んでいる。本人は変わらず我が国の王妃になることに固執しているようだな。
「アレン」
「妙な動きがないか注視しておけ」
兄上とグレイス嬢が無事にダンスを踊り出したのを見届けて、俺は会場内に目を走らせた。
ふと、海よりも深いブルーの美しいドレスが目に留まった。
流行りのフリルやリボンなどのゴテゴテした装飾は一切なく、銀糸の繊細な刺繍と散りばめられた宝石が美しく輝きを放っている゙。
「あれは……レティス?」
美しいドレープを揺らしながら振り返った令嬢を一目見た途端、俺の足は頭で考えるよりも早く令嬢に向けて動き出していた。
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