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最強の霊媒師⑥-パペットマスター-

「うっ…うっ…」


夜、ベッドに横たわり、うなされている若い男性


男性はしばらくもがいた後、「ハッ」と目が覚める


息を荒くして、汗でぐしゃぐしゃになった布団を見ながら男性は呟く


「まただ……」



霊媒師

「まただ……」


霊媒師は汗でぐしゃぐしゃになった手を見ながら呟く


霊媒師

「リーチはかかってたはずだ、一体何処でしくじった…?」


パチンコ台を見つめながら

霊媒師はひどく落胆する


霊媒師

「あぁ!クソッ!!」


霊媒師は思わず台を叩く


霊媒師

「あ、やべっ……!!」


パチンコ台からブザーが鳴り響き、霊媒師は慌てて店の外へ出る


ーーー


霊媒師

「あ〜あぁ、たったこんだけ…」


小銭を手でチャカチャカさせながら歩く霊媒師


「あの機種ぜってーなんかやってるな」


霊媒師は愚痴を吐きながらまっすぐ家へ向かう


霊媒師

「……まぁ、稼いだ金はまだあるし

明日またトライすればいいか、人生はまだまだ長いからな」


前向きになる霊媒師にぶつかる男性

拍子にお金が散らばる


男性

「あ、す、すみません!」


男性は慌てて小銭を拾う


霊媒師

「いいよいいよ別に、端金だし」


拾い上げたお金を手渡す男性に

霊媒師は何かを感じ取る


霊媒師

「お?君、何か憑いてるな」


男性

「え?」



会話しながら歩く霊媒師と男性


霊媒師

「悪いな、別にそういうつもりじゃなかったのに」


お札の両端をつまみながら霊媒師が申し訳なさそうにそう言う


男性

「いえ、僕も結構悩んでて……」


霊媒師

「でもよく信じたな、普通もっと警戒すると思うけど」


男性

「ビデオを見たんです……モザイクかかって顔はよくわからなかったけど格好が同じだったので……」


霊媒師

「霊媒師が呪いを除去するみたいなタイトルだっけか、あんなインチキ臭いものでよく俺を頼ったな?」


男性

「もう本当に、どうしようもなくて……」


男性は疲れた声でそう漏らす


霊媒師

「君、学生?」


霊媒師の問いかけに男性は「はい」と答える


霊媒師

「一人暮らし、大変だな」


霊媒師は男性の悩みについて詳しく話を聞く


男性

「毎晩変な夢を見るんです

ぬいぐるみが、ベッドの周りをうろうろと…

すごくリアルで」


霊媒師

「まぁ現実っぽい夢は結構見るときあるけどな

夢から覚めたと思ってたら実はまだ夢の中でした、みたいな」


霊媒師

「俺もたまに見るよ

頼んでもないのに依頼を持って来る

学生の霊が出る夢を、やたらリアルなんだよなぁ……」


霊媒師は男性に同情する


男性

「祓わないんですか?」


霊媒師

「夢に取り憑いた奴ってのは

そう簡単に祓えるもんじゃないんだ

宿主と完全に一体化した状態だからな」


男性

「夢に取り憑く……」


男性の自宅に到着する霊媒師


霊媒師

「うーん……」


男性

「ど……どうですか……?」


外から家を眺める霊媒師


霊媒師

「そうだな、まぁ、へぇーって感じだな」


男性

「へぇー…?」


霊媒師

「うん、まぁ、ちょっと今の状態だと無理だなこれは、持ち合わせが悪いわ、ちょっと俺ン家きて」


男性

「?」


男性は言われた通り、霊媒師の家までついていく事に


ーー


霊媒師

「ちょっと待っててくれ

除霊道具取って来るから」


自分の家に到着した霊媒師は

男性を外に待たせ家に入っていく



サエコ

「先生!今日の依頼ですが…」


霊媒師

「また今度な、先生今日忙しいの。」


サエコ

「?」


当たり前のように家に居座るサエコを退かせ

霊媒師はパイプレンチと除霊道具を持ち出し

男性の元へと引き返す


霊媒師

「お待たせ、行こうか」


霊媒師は再び男性の自宅へと向かう



男性

「やっぱり僕の思い過ごしでしょうか……」


霊媒師

「そんなはずはない

最初の頃はすげぇ当たり引いてたんだ

ある頃を境に急に引きが悪くなったんだよ

絶対なんか細工してやがる」


男性

「え…いや、何の話ですか?」


話を交わしながら男性の自宅に到着した霊媒師は

早速家の中へ入って霊視をする事に


霊媒師

「〜」


男性

「……」


霊媒師は目を瞑り

部屋に手をかざしながらお経を唱える


男性

「ど…どうでしょうか?」


霊媒師は目を開く


霊媒師

「うん、まぁ……いるね」


男性はその一言に「えぇ!?」っと驚く


霊媒師

「まぁまぁ、そう慌てる事はない

普段は何もできないからな

呪いにもタイミングはあるから」


男性

「呪い……?呪われてるんですか?」


霊媒師は冷静に「あぁ」と答える


霊媒師

「その板だ、そっからすげーの感じるわ」


霊媒師は床下収納を見てそう語る


霊媒師

「ちょ、開けるな?」


男性

「あ、はい…」


収納扉をゆっくり開くと中から

ちょっと汚れた"クマのぬいぐるみ"が出て来る


男性

「それって…?」


霊媒師

「前の持ち主のかな??心当たりない??」


霊媒師は男性に問いかける


男性

「い、いえ…」


霊媒師はぬいぐるみをしばらく見た後

おもむろに背中のチャックを開く



男性

「う、うわぁあ!」


ぬいぐるみの背中には

髪の毛がゴッソリ詰まっていた


霊媒師

「あ〜あぁ」


霊媒師は呆れながら言う


霊媒師

「いるんだよ、こういう事する奴

呪いってな、持ち主の気持ちが強ければ強いほどその力は増幅するからさ〜」


霊媒師が語ってると部屋が急にバッと暗くなる


男性

「先生!これは…?」


霊媒師

「ブレーカー落ちたかな?」


男性

「先生…!センセ…ッッ!!」


霊媒師の姿が消える


男性

「せ、先生!どこですか!?」


男性の見つめる先には何やら大きな影が浮かんでいる


男性

「!!」


よく見るとそれは巨大な市松人形の頭部だった


男性は身を凍らせた



霊媒師

「ハァッッ!!」


霊媒師の張り上げた声と同時に市松人形の頭部が粉々に消滅する


男性

「せ、先生……!!」


霊媒師

「悪い悪い、急だったからな」


男性

「ど、どうなってるんですか?!僕ら

さっきまで狭い家にいたのに……」


急に青くて広い空間に出て混乱する男性


霊媒師は冷静に答える


霊媒師

「夢だ、ここは、君の」


男性

「夢……?」


ーーー


現実世界、横たわる男性の隣でお経を唱え続ける霊媒師


霊媒師

「お経を唱えてる間だけ相手の夢の中に入る事ができる呪術だ」


「まさかここまで侵食が酷いとはな

こりゃあ厄介だな、時間かかるぞ」


霊媒師は気だるそうに語る


霊媒師

「あ、パイプレンチ忘れた

ちょっと待ってろ」


男性

「!!」


霊媒師の姿が消え、しばらくしてまた姿を表す


「よし、行こうか」


パイプレンチを持って進む霊媒師

その後を追いかけるように進む男性



逆さ階段、螺旋階段と

色んな階段を登っていく


霊媒師

「気持ち悪いな」


男性

「落ちないですかね……?」


やがて扉がたくさんある広間に出る二人


男性

「なんですか…これ…?」


複数ある扉の中から

霊媒師は適当に好きな扉を開ける


男性

「え!?」


霊媒師

「開けないと進めないと思うし多分」


男性は心配そうに霊媒師の後をついていく



しばらく進むと突然

パンパンッと銃声のようなものが辺りに響き渡る


男性

「!?」


霊媒師

「なんだ?」


アナウンス

『さぁやってまいりました!次の走者はこの二人!!優勝を目指し…頑張ってもらいます!!』


少しノイズ混じりの古いアナウンスが流れてくる


霊媒師/男性

「おっ!?」「ひっ!?」


男性と霊媒師の腕に手錠がかけられ、

繋がれる二人


霊媒師

「優勝って何だ…?」


男性

「先生!アレ…!!」


後方に巨大な市松人形の首が降って来る

口を開閉しながら近づいて来る首


前方にはゴールテープが設置されている


霊媒師

「ふん、子供騙しだな」


霊媒師は呪文を唱え「ハァッッ!」と叫ぶ


粉々になる首、しかし首は一度消滅してもまたすぐに復活する


霊媒師

「おおっと……?」


男性

「先生!どうしましょう…!?」


霊媒師

「まぁ…走るしかないな、全力で」


霊媒師と男性はゴールテープまで走る事にした


しかし、いくら走ってもゴールに近寄れず

体がフワフワした状態になる


男性

「先生…!これって…!?」


霊媒師

「夢特有のヤツだな、全然目標に辿り着けないの」


冷静に答える霊媒師

迫る市松人形


霊媒師

「ゴールさせる気ないなコレ」


男性

「まずいです……!このままじゃ……!!」


霊媒師

「こう言う時こそ一休さんだ」


霊媒師はトンチを利かせる


霊媒師

「これだ…!掴まれ」


男性

「え?あ、あーーっ!!」


男性と霊媒師は異次元に消える


ーーー


霊媒師

「次元移動だ、その場所とその場所を繋ぐところなら好きに移動できる」


男性

「はぁはぁ…ゔっ、、オェッっ」


嘔吐する男性


霊媒師

「生身だとかなり応えるから、生きてる奴にはあんま使わない方がいいけど」


二人が辺りを見渡すと

奥に手錠の鍵が飾られているのを見つける



ガチャガチャッと手錠を外す二人


霊媒師

「ふぅ…」


手首をクルクルと回す霊媒師


男性

「…ッ!」


男性が何かを見つける


霊媒師

「ん?あれは…女か?」


広間の中心に女性がポツンと佇む


恨めしそうに見つめる女性に

男性は見覚えがあった


男性

「カナだ……」


霊媒師

「カナ?」


男性

「昔別れた恋人です、何で彼女が…?」


戸惑う男性に霊媒師は提案


霊媒師

「直接聞いてみたらわかるんじゃないか?」



男性はカナに近づき、声をかける


男性

「カナ…だよな?」


男性

「お前が悪さしてるのか??」


カナは返事をせず、ただひたすら男性を睨み続ける


男性

「カナ!こんな事はもうやめてくれ!」


その時、カナは大きな悲鳴をあげる


カナ

「キィァァァァァァァァ!!」


男性

「!!」


悲鳴が止み、カナはゆっくり男性の方を見つめる


男性

「カナ…」


カナは静かに口を開く



カナ

「あなたが悪いの」


男性

「え…?」


カナ

「あなたが私を捨てたから」


男性

「なんでだ…??約束しただろ?!

"もうこれ以上関係を持つのはやめよう"

お互い話し合ってそう決めたじゃないか!

なぜまだつきまとう…?!」


カナ

「あなたが悪いの」


男性

「え…?」


カナ

「私を裏切って他の女と」


カナの言葉に

男性は少し口を濁しながら答える


男性

「そ、それはお前が他の男といたから…」


カナ

「違うわ、あなたが私を構ってくれなかったからよ、私はあなたに構って欲しくて」


カナ

「他の男と付き合えばあなたは私の事を気にかけるだろう…そう期待して

好きでもない男と付き合ったのに

あなたは私なんてそっちのけで…」


カナは悲しそうな目で続ける


カナ

「私はあなたの全てを愛してた

でもあなたは上辺だけで

本当の私を見てくれなかった」


カナ

「あなたが見てたのは結局体だけ

初めて付き合った時からそう…

あなたに私の全部を見て欲しくて…

今はまだ無理でも、いつかはきっと

あなたも心から私を好きになってくれるって

そう信じてたのに…結局あなたは私を裏切って

別の女と」


男性

「そんなの…言われないとわからないだろ

それにいくら構って欲しかったからって

そんなやり方、認められるはずが…」


カナ

「信じてくれてると思ってた

私はそんなことする女じゃない

止めてくれると思った…!」


男性は歯を噛み締める


霊媒師

「めんどくさ」


女が霊媒師の方を睨む


霊媒師

「あ、なんでもないよ

続けてどうぞ」


男性

「…あのぬいぐるみはお前のか?」


カナ

「私の大切なもの、小さい時に親から貰ったの。私の思い出…あなたはそれすらも理解しなかった、あの(ぬいぐるみ)も寂しがってたよ?」


辺りが激しく揺れ始める


霊媒師

「おぉ〜っとと…」


バランスを崩す霊媒師


男性

「カナ!やめろ!!」


叫ぶ男性を制止する霊媒師


霊媒師

「ちょマズイ、今はひとまず撤退だ」


崩れる世界を走る二人


ーーー


女から逃げ延び、話し合う二人


霊媒師

「説得は失敗か、上手くいけば未練が解けてここから出られたんだがな。あの性格じゃ厳しいか」


男性はグッと拳を握りしめる


霊媒師

「お前もハズレを引いたな

いや、引かされたのか」


男性に同情する霊媒師


男性

「あいつは聞く耳を持たない…

先生…!もういいです!

降りてください!僕はここに留まります!」


男性は霊媒師に仕事から降りるよう促す

しかし霊媒師はその要求を拒否する


霊媒師

「馬鹿言っちゃダメだ

俺は仮にも霊媒師だぞ?

ここで降りたら、その名が廃る

俺にもプライドはあるからな」


男性

「でも、先生をこれ以上巻き込むわけには…」


霊媒師

「大丈夫だ、必ずお前を助け出してやる」


そう言うと霊媒師は男性を安全な場所へ待機させ、女の元へと走っていった


ーーー


霊媒師

「(夢に侵食された状態で物体剥離を使うと

宿主の肉体は夢と分離され出てこれなくなる)」


「(説得が上手くいけば、未練が解けて

解放される確率が高いが、あの女の性格じゃそれも無理だ)」


霊媒師

「やっぱり除霊(これ)しかないか」


霊媒師はパイプレンチを取り出す


霊媒師

「(夢と同化した霊を除霊すると

宿主にも影響が出て、危険だが

もはや選んでる余裕はない

せめてもの処置はしといたほうがいいな)」


霊媒師は寝ている男性を魔法陣で囲み、除霊の影響を受けさせないようにする


霊媒師

「(気休めだが、コレで何とかなってほしいもんだ)」


霊媒師は準備を整え、女の元へ向かった



広間へ到着、中央には女がまだ佇んでいた


女は悪霊化しており

三つの赤い目をぎろりと光らせている


霊媒師

「ふん、もっともらしく御託並べやがってこのわがまま女、これ以上あいつに迷惑をかけるな!大人しくお縄につけいッッ!!」


パイプレンチを構える霊媒師


女が手のひらを向けると

霊媒師は網目状に切れてバラバラになる


霊媒師

「……ふん、それがどうした?」


すぐに復活し、服を手で払う霊媒師


女は不機嫌そうに霊媒師を睨みつける



霊媒師

「一応夢だからな、見てろ

バトル漫画みてーな動きしてやる!」


霊媒師は左右に軽快なステップを踏む


女が再び手のひらを向ける


霊媒師は助走をつけて走り、高くジャンプ

そのまま女を飛び越える


霊媒師

「はぁーーいッッ」


霊媒師は着地した後、水平に飛んで女に近づき

パイプレンチで女の頭部を殴りつける


カナ

「ぐっ…!!」


霊媒師は女の背後に着地し、ふり向いて叫ぶ


霊媒師

「トドメだ!はぁーーッッ!!」


手を合わせ、力む霊媒師


霊媒師

「波○拳ッッ!!」


手のひらを向けたと同時に

パイプレンチが波動に乗って飛んでいく


カナ

「!!」


勢いよく回転しながら飛ぶパイプレンチが女に接触


カナ

「キャアアッッ……!!」


女は悲鳴を上げながら消滅


霊媒師は「ユーウィン!!」と叫んだ


ーー


-数日後-


男性は静かに家を出る


男性

「あれからぬいぐるみの夢は見なくなった

カナもあれ以来大人しくなったらしい」


男性

「霊媒師さんに出会わなかったら

きっと俺は彼女に飲み込まれ

この世にはいなかったと思う…」


男性は空を見上げる


男性

「ありがとう、先生…!あなたは本当に

最強の…いや、最高の霊媒師だ!」


男性は霊媒師に深く感謝した



おしまい



息を飲みながら祈る霊媒師


「頼むぞ〜、ユキチィィ…!!」


パチンコ台を真剣な顔で眺める


霊媒師

「いける、いけるぞ!お前ならやれる!!」


だがまたしてもハズレを引いてしまい

霊媒師は思わず台を叩く


「あ、やべっ……!」


パチンコ台からブザーが鳴り響き

霊媒師は慌てて店の外へ出る



最強の霊媒師⑥(完)

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