最強の霊媒師②-ポルターガイスト-
机に足を乗せ、爪を切る霊媒師
サエコ
「お願いします!その子を助けてください!」
前回呪いを解いてもらった少女が
霊媒師の家に押し入り、必死に頼み事をしていた
霊媒師
「人ン家に無断でズカズカ入ってきて、いきなり頼み事とはどういう了見だ、しかも土足で
お前はまず人に物を頼む前に一般常識を身につけてこい」
サエコ
「その子ずっと悩まされてて
どこに行っても音が止まず…」
サエコは話を続ける
サエコ
「毎晩うなされて夜も眠れてないみたいで…
日に日にヤツれて弱っていく彼女の姿をこれ以上見るのは耐えられない…!
私、彼女と約束したんです
先生の力で彼女の呪いを解いてあげるって」
サエコ(回想)
『私に任せて!すごい霊媒師がいるの!』
霊媒師
「勝手に約束すんなよ」
サエコ
「お願いです!私、彼女を救いたいんです!」
霊媒師
「俺はもう引退した身だ、ほか当たれ」
サエコ
「先生しか頼れる人はいないんです!!
お願いです先生!前みたいに
霊能力でその子を助けてください!!
私を救ってくれたみたいに!!」
霊媒師
「あれはお前が可哀想で仕方なくだな」
サエコ
「そうですか…。わかりました」
サエコは懐からある物を取り出す
「センセ〜」
霊媒師
「しつこいぞ…」
「ッッ!!」
霊媒師の目に飛び込んだのは
財布からこちらを覗く諭吉だった
サエコ
「センセェ、おねが〜い
大事な友達のためなの〜、ほら、ほら。」
霊媒師
「ゆ、諭吉……」
諭吉を財布から出し入れするサエコ
霊媒師はゴクッと唾を飲み込むーーー
霊媒師
「で、なんだ?ラップ音?」
サエコ
「…はい、音だけじゃなく
物があちこち飛んだり、動いたりする
いわゆるポルターガイストというやつです」
霊媒師
「ふぅーん」
友人の家に向かって歩く2人
霊媒師
「ポルターガイストは通常、家に憑くもんだろ
引っ越せば解決しねーの?」
サエコ
「それが…彼女が言うには
その現象はどこに行っても止むことがないそうなんです…2回くらい引っ越したらしいのですが
収まる気配はなく、むしろどんどん悪化しているような」
霊媒師
「なるほどな、となるとそいつ自身に
なんか憑いてるって事か」
サエコ
「おそらくは…」
友人の家に到着し、インターホンを鳴らすサエコ
サエコ
「アキちゃーん、サエだよ。開けて、連れてきたよ」
しばらく返答なし
霊媒師とサエコが静かに様子を見ていると
玄関からガチャっと音が鳴り、ドアが開いた
「サエ…?」
ドアを開けたのはサエコの友人、アキだった
サエコ
「この人が前話した凄腕の霊媒師だよ」
アキ
「……どうも」
2人はアキに案内され、室内に入る
廊下を歩いてる途中、アキがサエコに声をかける
アキ
「ねぇ…サエちゃん、この人…」
サエコ
「うん?怖がらなくていいよ」
アキ
「幽霊って聞いたんだけど、足あるよ…?」
サエコ
「うん、すごい努力して実体化したらしいんだ♪」
アキ
「……」
アキは難しい顔をしながらサエコを見つめた
アキ
「お茶とお菓子持ってきます…」
2人はソファに座り、アキを待ってる間
異変がないか辺りを見渡す
サエコ
「ど…どうですか?先生、何か感じますか…?」
霊媒師
「うーん、別に?」
霊媒師は特に何も感じ取れず
しばらくするとアキがお茶とお菓子を持って戻ってくる
霊媒師
「まぁ、詳しい話はこいつから聞いたけど
とりあえずもっかい、詳しく聞かせてくれ」
アキ
「……」
サエコ
「大丈夫だよアキ、先生はすごく頼りになるから
安心して相談して!」
アキは霊媒師の方を見た後、静かに語り出す
(アキの体験談)
「一人暮らしを始めてしばらく、それは起こりはじめました、最初は気のせいだと思っていたのですがだんだんと音が激しくなっていって…」
サエコ
「先生、アキから何か感じますか?」
霊媒師
「いいや?何も」
アキの話を聞いた後、霊媒師とサエコは
何か怪しい物がないか室内を捜査する事に
サエコ
「先生曰く、どこかに霊の通る入り口を作る道具があるらしい、霊障でしたっけ?」
霊媒師
「オーパーツだな、いわゆる」
アキは2人が何を言ってるのかさっぱりわからず
とりあえず、調べてもらう事にした
サエコ
「これは…なんだろう?」
ベッドの下から茶色い箱が出て来る
アキ
「あ、ダメ!それは…ダメなやつなの」
アキが焦ったようにそう言うと
霊媒師が箱に手をかざす
霊媒師
「霊障は隙あらばどこにでも忍び込むもんだ
こいつも調べさせてもらう、いいな?」
アキは「う、うん…」と内心嫌々ながら
仕方なく許可する
パカッと中を見るとそれはアキの私物だった
サエコ
「おっと!これはダメだ、先生!」
霊媒師
「じゃあ調べるぞ」
サエコ
「ちょ、デリカシー!?」
霊媒師はお構いなく私物を調べる
アキは顔を真っ赤に染めて、早く終わらないか見守る
霊媒師
「気にするな、人間欲あればそう言うのに興味を持つのは普通の事だ、男が男と抱き合ってるのは初めて見たが」
サエコ
「先生!次行きましょう!」
異常がないのを確認して次の部屋へ
ーーー台所に集まる3人
身の安全のため、散らばらず
固まって捜査する2人
食器を洗いながら考え事をするアキ
霊媒師とサエコが話し合いをしていると
突如、灯りが点灯する
霊媒師がそれに気づいた瞬間
パリンッとアキの持っていたコップが割れる
アキ
「痛ッ…!」
サエコ
「!!アキちゃん!?大丈夫!?」
サエコと霊媒師がアキに駆け寄る
霊媒師
「救急箱持ってこい」
親指と人差し指の間の溝から血が垂れる
サエコ
「救急箱!救急箱!」
棚から救急箱を探すサエコ
その頭上でガタガタと音を立てる置物
霊媒師
「座ってろ」
アキをソファに一旦座らせ、サエコの元へ向かう霊媒師
サエコ
「あった!」
サエコは救急箱を発見する
霊媒師
「おい遅いぞ、何やってる」
サエコ
「先生!ありました!救急ばーー」
棚からサエコの頭めがけて落下する置物
霊媒師
「!!」
サエコ
「…え?」
ーーー
アキが必死に手を押さえながら痛みに耐えていると物音が聞こえてきて、バッと目を見開く
アキ
「はぁ…はぁ…」
アキは恐怖で呼吸が乱れていく
地面に突き刺さる置物
サエコ
「……」
霊媒師
「……」
霊媒師はサエコをギリギリで助けていた
サエコ
「センセ…これ…」
霊媒師
「静かに、じっとしてろ」
霊媒師はそう言うとゆっくりと顔を上にあげる
遠くから窓が大きく割れる音と同時に
パイプが高速で飛んできて霊媒師の頭を突き刺す
霊媒師は勢いで後ろに吹き飛び、そのまま死亡する
サエコはその状況にしばらく無言になる
サエコ
「…先生、これって…」
霊媒師
「あぁ、意図した妨害行為だな
どうやら俺の存在が気に食わないらしい」
すぐに復活した霊媒師はそう語る
ーーー
即興で魔法陣を描き、サエコをそこに立たせる霊媒師
霊媒師
「いいか、絶対そこから動くなよ」
サエコはコクっと頷き
霊媒師はアキの元へ足速と向かう
アキの元へ戻るとそこは異様な光景になっていた
空中浮遊する机や椅子
近くには配線コードでソファに
巻き付けられたアキの姿が
霊媒師
「アキッッ!!」
アキ
「せ…せんせーー」
言い終わる前に、ソファごと地中へと吸い込まれるアキ
霊媒師がすぐに追おうとするが
浮遊する机や椅子がそれを妨害する
霊媒師
「くそっ!」
穴が塞がれる
霊媒師は急いでサエコの元へ向かう
サエコは霊媒師の焦った顔に戸惑う
霊媒師
「アキが食われた、地下へ行くぞ」
サエコ
「食われ…え?!」
霊媒師はサエコを連れて地下へと向かうーーー
アキ
「う…ん…」
暗闇で目を覚ますアキ、呼吸を乱し辺りを見渡す
アキ
「はぁ…はぁ…」
静かな空間に不気味な唸り声が響く
アキは目を凝らし、声のする方を恐る恐る見つめる
そこには逆さまでアキを見つめる不気味な顔があった
その顔はこの世のものとは思えない怒りの形相を
していたーーー
霊媒師とサエコが地下を散策していると
遠くから悲鳴が聞こえて来る
サエコ
「アキちゃんだ!」
霊媒師
「行くぞ」
懐中電灯を照らしながら急いで悲鳴の聞こえた方へ向かう2人
息を吐きながらアキへ迫る顔
口を大きく開き、アキを食べようとした瞬間
霊媒師
「オイ、バケモン!」
霊媒師の声に反応して顔を上げる顔
顔
「ぐうぉおああッッ」
霊媒師
「どうだ、効いただろ」
霊媒師は顔に対してある物を飛ばしていた
霊媒師
「呪物その5、魔除けの塩」
うめき、のたうち回る顔
霊媒師は「今だ!」とアキに駆け寄り、コードを外した後、サエコの元へと引き返す
顔
「うぐぁぁぁぁ!!」
サエコ
「ひぇっ!何あれ!?」
霊媒師
「さがってろ!」
霊媒師はアキをサエコに任せ、パイプレンチを構えて顔と対峙する
ーーー
アキの怪我を治療するサエコ
サエコ
「はい、終わり。ごめんね遅れて」
包帯が巻かれた手をさすり、ううんと首を横に振るアキ
アキ
「あの人は大丈夫かな…?」
サエコ
「心配ないよ、先生はとっても強いからね!」
ーーーパイプレンチで顔を殴り飛ばす霊媒師
顔
「んごぉぉぉ…!」
霊媒師
「ちっ」
霊媒師はいくら殴っても一向に消えない顔に苛立ちを覚える
顔は霊媒師に迫り、巨大な口で霊媒師の首から上を食いちぎる
顔
「バリッバリッ…!ムシャムシャ…」
霊媒師
「くそっ、どうなってる!」
すぐに復活する霊媒師
顔と霊媒師の無限のサイクルが続く
ーーー地下から這い出るアキとサエコ
アキ
「サエちゃん、私嘘つきだったの
クラスで浮いてて地味だから
みんなに注目されるために
たくさん嘘をついた…
でもまさか、こんな事になるなんて思わなくて…」
サエコ
「アキちゃん…?」
顔と格闘する霊媒師
電話がかかる
霊媒師
「どうした!」
電話相手はサエコ
霊媒師にアキの話を伝える
霊媒師
「嘘が具現化した…?」
霊媒師は顔から距離を取る
霊媒師
「なるほどな、通りで何も感じないはずだ
実態のない呪い、いやそこに存在はするが
決して触れることのできないもの」
「本人が幻覚だと自覚できれば
これは自然に消滅する
だが、それはあくまで気休め
本人の中にそれが眠るかぎり
いつでも実体化してしまうだろう」
「ならやることは一つだ」
霊媒師はバッと両手を前に出して叫ぶ
「物体剥離!!」
【物体剥離】
物体と物体をつなぐ線を断ち切る呪術
「これでアキとこの呪いを結ぶ物は無くなったはずだ!あとはこのレンチで…!」
霊媒師は顔に接近して、大きくジャンプし
パイプレンチを力一杯振り下ろす
霊媒師
「除霊!完了!!」
顔
「うぐぁぁぁぁぁぁ!!」
顔は叫びながら消滅した
ーーー
アキ
「お世話になりました」
アキの家の前で別れの挨拶をするサエコと霊媒師
霊媒師
「もうポルターガイストは起きない
物体剥離で処理したからな
お前との因果も解消された
これからは静かに過ごせるはずだ
嘘だと思うならーーー」
アキ
「ううん、信じます、先生が言うのなら」
アキは健やかな笑顔でそう返す
霊媒師
「そうか」
アキ
「あの、先生…今度またウチに遊びに来てください、その、まだお礼をし足りない部分もありますし…」
アキは顔を赤らめてモジモジしながら
霊媒師にそう言う
サエコ
「?」
霊媒師
「まぁ、そのうちな」
霊媒師は無表情でそう返し、アキの家を後にした
アキ
「(サエちゃん、あなたの言う通りだった
彼は本物の霊媒師、凄腕…ううん、最強。
最強のそして素敵な霊媒師だ。先生…ありがとう)」
アキは心の底から2人に感謝して部屋へと戻っていった。
おしまい
・
・
・
霊媒師
「それにしてもお前よくこんな大金手に入れたな
前は学生だから(5万は)払えないって言ってたのに」
サエコ
「親切なおじさまがくれたんです
(ご飯をご一緒したら)」
霊媒師
「福澤諭吉なんて普通に生きてりゃ
そうそうお目にかかる物じゃねー
さてはそいつ、すげー金持ちだな」
サエコ
「…?そうかな?」
霊媒師
「俺も親切なおじさまとご馳走行ったら
(一万)貰えるかな?」
サエコ
「先生じゃ無理だと思います」
サエコと霊媒師はしばらく会話を交わしながら
街の中へと消えた
最強の霊媒師② (完)