【自称アンタレス星人】 今日は波動高めで 3
目の前に広がる宇宙にふわりと人が浮いている。白い服を纏い、丸くなった姿で組んだ足に肘を付けて頬杖をついている。宇宙船の窓からその姿を眺めながら、卓上のデスクネットのパネルに視線を戻す。
。。。地球の波動は順調に上昇か
パネルから上がるデータの報告を見て記録ファイルに処理をしていると、窓の外の人にフワフワと近づくボールくらいの光に気が付く。その光はぼんやりと人の姿になりながら、楽しそうに地球を見ている白い服の人物を驚いた顔で見た。
ハッとして、その場で光に向かって思念を送った。
。。。戻れ!
光はすぐに消えた。
あれは。。。間違いなく地球の魂。ミルの入ってる地球人。なぜ、来られた
考え込みながら、宇宙船の外で浮いているミルに目を向ける。楽しそうに口元を緩めながら地球を見ている。今しがたあったことにも気が付いていないようである。
短いため息を付きながら、ミルが入っている地球人の報告を眺める。
歳は40代。夫、子供は3人。子どものときに時置師の部屋に入る夢を見ている。時空を超えて夢を見るのか。学生のときも他の人には見えないアンタレス星人を見ているな。「ね〜、見て見てあの人、美人!」という言葉に他の人は「え〜、いないよそんな人」と答えるか。何度かあるな。子供はテレパスか。本人が見たアンタレス星人を2番目の子供が見て追いかけてるな。十分、要注意人物じゃないか。。。
ミルと行動を共にして120年が経つ。今回、地球に選ばれた魂は一握り。その一人と行動を共にできることは、とても誇らしいことだ。アンタレス星人のミルは、自分の本体と地球人の体を行き来する。これはどの星の人でもできることではない。不死のアンタレス星人だけが持つ特徴だ。
120年前ベテルギウスで、はじめてミルを見たとき、自分はこの人に着いて行かなければいけないと直感した。夕暮れのカフェで一人うたた寝をして、誰かを待っているようでもあり、時間を持て余しているようでもあった。自分以外、他の誰にも見えないそのオーラは、見たことのない虹色だった。師匠は自分の驚いている顔を見て、ミルに声を掛けたのだ。ゆっくりと持ち上げた黒髪の頭はボサボサで、しかも眠そうで目は鳥のヒナのようになっている。他の人の不自然なまでの素知らぬ素振りは、マウのことを気しない呪いをかけているからのようだ。
。。。大人なのに。全く気にしていないのか
その姿に苦笑いをした。師匠がカフェから連れ出し、自分の格闘会場へと向かうということがわかると、ミルに積極的に話しかけた。知らない子供に話しかけられ、どう見ても戸惑っているミル。けれども、幼い子供が真剣に話しているのを無下にできないという感じだ。オリオン聖域一帯で行われている格闘選手権は、格闘だけではなく、サイキックもありだ。オリオン族は、一般に角のあるものが強いが、自分は角がなくてもサイキックパワーが強く、格闘も得意だった。2年前にチャンピオンになってからは負け知らずだ。
「見ててね!絶対に勝つから!」
そう、ミルに言うと師匠が
「彼はチャンピオンですから」
誇らしげに言う。ミルは
「へぇ〜!すごいね」
と返しつつ、自分はここにいなきゃならないのか。と考えているのがわかる。願わくば、ここから離れることばかり考えているようだ。
逃しはしないよ。。。やっと見つけたのだから
チャンピオンになれば報奨がもらえる。
いつもは決まらない報奨。
今回は、もうすでに考えた。