「異世界って200個あんねん」
※この話の登場人物、団体や番組などはフィクションです
現実に存在している物に類似している部分がある可能性がありますが
同一の物ではありません
思いついたので作ってみました
少しでも笑って頂ければ幸い
とあるモデルが行方不明になったとのニュースが流れた。
モデル界では勿論、テレビでのバラエティ番組や通販番組で多くの人の目に触れ、その美貌と軽快なトークセンスは人々の心を捉えていた。
そんなモデルの突然テレビから姿を消し、誰も彼女の姿を見ることはないまま時は過ぎ、今では他の多くのニュースによって流されてしまった。
彼女は別の世界にいた。
「あれ? 何なんココ……うわぁキレイな娘やねぇ! その金髪も光が反射しててもうお人形さんみたいや! 隣のおじ様も髭が綺麗に整えられて煌びやかな衣装と合わさって荘厳さが増してもう最高やね!」
「……やった! やりましたわお父様! 異世界から勇者様を召喚することができました!」
「おお……よくやったぞ姫よ! 来て早々よく喋る勇者だが、これで我が国もアルディカ国との戦争を終わらせられる……!」
金髪の少女とその父親らしき男の言葉に続き、周囲では歓喜の声が沸く。ただ一人、その中心にいる彼女はただ「色んなカッコして賑やかやねぇ。パーティでもするんかな」とつぶやいた。
「――えーっと、とゆうことはそのアルディカ国ゆうんとこの国は戦争してて、本に書いてあった異世界召喚をして、ウチが呼ばれたわけやね?」
彼女は応接間の椅子に座り、状況の確認をした。歩く姿や座る所作に、見惚れる使用人のため息が聞こえる。
「ええ……もう三か月も戦争が続いていて……。こちらの兵士も疲弊している有様です。もうこれ以上民に辛い思いをさせたくなくて、あなた様をお呼びしました」
彼女を召喚したという国の姫が話に補足をする。その様子は自分たちの都合で呼び出してしまって申し訳ないという思いが伝わってくる。
「勇者殿。こちらの都合で呼び出してしまって申し訳ないのは承知している。だが、どうか手を貸してはもらえないだろうか」
姫の父である国王が顔をくしゃりとして懇願している。その顔には肉体的以上に精神的な疲労が伺える。
「大変なんやねぇ。でもウチ何すればええんやろ、特に戦うとかそんなことできんよ?」
「そんな! ではどうすれば……」
彼女の返答にショックを露わにする姫や国王の下に、ガシャガシャと重苦しい金属音を鳴らして兵士がやってくる。
「失礼します! 申し上げます! 遠方からアルディカ国の軍隊らしきものが見えますが……白旗を上げております!」
「何、白旗だと!? どういうことだ?」
「とりあえず、見に行きましょう!」
国王と姫が戸惑いの中に確認に行こうと応接間を出る。姫に促される形で、彼女も後を追った。立ち上がって応接間を去るしぐさに、今一度使用人たちからため息が漏れた。
遠くまで見張りを行うための見張り塔に、姫、国王、応接間に来た兵士、そして彼女の四人が登っていた。最低限の人数で見張りを行う場所のため、四人では少々狭い。
国王が兵士から渡された折り畳み式の単眼鏡を覗く。その先には、確かに白旗をあげてこちら側へとやってくる一団が見える。アルディカ国で間違いないらしい。
「今まで膠着状態だったにも関わらず唐突に白旗を上げてきているので、兵たちも戸惑ってしまいまして……どうすればよいのか……」
「ウーム……確かに白旗を上げているな。降伏を決めたのか?」
「何故そうしたのか分かりませんが、民草も兵も疲れ切っている状況では願ってもない状況ですわ」
国王から受け取った単眼鏡を覗きながら、姫も心なしか安堵の声をあげる。
そんな三人に対し、眉をひそめて一団の方を直視している彼女がいた。
「……ちょっとええ? それ」
「え? ええ、どうぞ」
単眼鏡を受け取り、二人と同じように一団を見る。そして遠くにある白旗をじっと見つめると、一言ぴしゃりと
「アイボリー(#fffff0)やね」
そこからが早かった。
国王は即座に兵士に伝えると、城壁に備えてあった砲台を一団に向けて一斉に撃ち出した。
白旗のつもりでアイボリー旗を掲げていたアルディカ国の一団は、まさか無抵抗で白旗を上げている自分たちを砲撃すると予想だにしていなかったため、あっけなく壊滅した。
後々調べてみた所によると、どうやら白旗を掲げ降伏すると見せかけて奇襲をかける手はずだったらしい。砲撃をしていなければどうなっていたか、考えるだけでも恐ろしいと国王は言う。
こうして戦争は終結し、後々この国は「白旗を上げている敵に嬉々として砲撃を行う容赦ない国」として恐れられることとなった。
「勇者様、ありがとうございました! 勇者様がいなければ私たちは完全に騙されるところでした」
「そんな大したことしてへんて。ただあれ白やのうてアイボリーやったから「ああ、あれ白ちゃうわ、嘘やん」思ただけやて」
綺麗な歯を見せて笑う彼女に対して、姫や王は最大の賛辞を伝える。
その時、彼女の周りが青白く光り出した。
「ん? 何やろコレ」
「あ! それは召喚の光!」
「勇者殿、行かれてしまうのか! まだ宴もまだだというのに!」
「あれま! またどっか行ってまうんかいな。宴見てみたかったわぁ」
悲しそうな笑顔で言う彼女を囲う光が段々強くなる。もう間もなく、彼女はここから消えてしまうだろう。
「勇者様、本当に、本当にありがとうございました! このことは王国の歴史として語り継いで行きます!」
「そぉ? ありがとうね。ああ、あとこれも伝えといて」
思い出したかのように彼女は言葉を続ける。
「宴で思い出したけどな、もし赤ワイン服にこぼしたらな、白ワインかけてトントンすんねん。それでも染みが残ったら塩! 塩使て洗てみて! 綺麗になるで」
その言葉を最後に、彼女は光に包まれ光もろとも消えていった。
かくしてこの国では、偽りの白旗を見抜き戦争を勝利に導いた勇者の存在と、赤ワインを服にこぼした時の対処法が受け継がれることとなった。
それから彼女は他の世界に召喚されては活躍し、その場所で起きていた問題を治めていった。
「あれ白やない、アズール(#f0ffff)や」
「惜しいなぁそれ、スノウホワイト(#fffafa)や」
「全然ちゃうやないの、それ白やのうてリネン(#faf0e6)や」
「大丈夫やて! この娘の服は白やないから! ゴーストホワイト(#f8f8ff)やから!」
そうして多くの世界で、問題を解決しては赤ワインを服にこぼした時の対処法を伝える綺麗で賑やかな勇者の話が語り継がれていった。
ある日、数年前に行方不明となっていたモデルが発見されたというニュースが流れた。
数年経ってもその美しさとトークスキルは衰えることなく、今まで何をしていたのか、何があったのかを数多くの番組で聞かれることとなった。
だが本当のことを話しても信用されないだろうと、真実を口にすることなく適当にごまかしていたが、とある酒を飲みながら楽しくトークをするバラエティ番組に招かれた。
収録を始めてから30分。共演者全員にもある程度酒が入り、笑いがより起こりやすい場になる。
「実際しばらくどこ行ってたんスか?」
ハイボールを飲みながら聞いてくる芸人の質問に、酒の力もあってつい口が滑ってしまった。
「信用されんやろうけど、実はウチ異世界行っててん」
「異世界!!」
「ハッハッハッハッハッハッハ!」
「濃いわぁぁ、久々なのにこの人濃いわぁぁぁ」
「でもなんか行ってそうですよね! 異世界」
「ハハハハハ、納得すなや」
同席していた他の芸人やアイドル、俳優も酒が入って面白がっている。
「それでどうだったんですか? 異世界」
皆この話を楽しもうと乗っかってくる。もう流れに乗ってしまえと、彼女も楽しくしゃべり出した。
「異世界って200個あんねん」
「200ゥ!!!」
「スッゴーイ!」
「アハハハハハハハハ! お腹痛い! アハハハハハ!」
「フフフフフフフ、ホタテの目か」
共演者たちは揃って、身をよじって爆笑する。
「みんな「白ぉ!」ゆうて出してん、でもみぃんな白ちゃうねん、アンタらの白てなんやねんみたいな」
立ち上がって笑う者や転げまわる者まで現れ、その日の収録は番組で過去一番の盛り上がりを見せたという。
-終-
【参照】
各カラーコード
https://www.colordic.org/
ホタテの目の数
https://nazology.net/archives/38177




