虎は翼を得て高みへと翔ぶ
ありま氷炎様主催『春節企画2022』参加作品です。
今日活動報告を拝見するまで忘れていました……!
滑り込みで申し訳ありません!
お読みいただけましたら幸いです。
「なぁ、俺不思議に思うんだけど、何で『演じる』って漢字は、氵に寅なんだろうな?」
「は?」
また始まった……!
俺は怒りを抑え込もうと必死に声を絞る。
「……俺は今、お前の高校入試のために、同級生で同じ受験生であるにも関わらず、お前の苦手教科の、数!学!を! 教えに来ているんだが……?」
「うん、ありがとな」
「だから今は数学だろ現代文じゃないだろしかもその漢字の疑問は試験に出るのかよお前俺と同じ高校に行く気なんだよな……!」
「うん、行くよ? 一緒に願書出したじゃん」
「……」
怒りを込めて言ったつもりだが、駄目だ、全く伝わってない……!
「行くけどさ、気になるもんは気になるんだよ。だって今年寅年だぜ?」
「……ちょっと待ってろ……!」
俺は急いで携帯で検索する。
こいつは小学校の時からそうだ。
何か気になりだすと、一定の答えを知るまで他の事が手に付かなくなる。
こいつがこだわり出すたびに、幼馴染のよしみで何度辞典を調べたり大人に聞いたりした事か……!
そのせいで俺は『ガリ勉メガネ』とかあだ名をつけられて、女子からはオタクだと思われ避けられてる。
なのにこいつは人懐っこい性格で、女子から大人気。
また今年のバレンタインは山ほどもらうんだろうな……!
「あった、これか……」
「お、わかった?」
「ちょっと待て」
成程、氵は水に関する事だけでなく、『水のような』という意味も持つのか。
演奏は『流れる』と表現するし、演劇も舞台を起点に広がっていくものだから、確かに水と親和性はあるな。
寅の字の由来は……、『矢を真っ直ぐに伸ばす』……?
あぁ、そういう象形から生まれたのか。
そこから『引っ張る』『伸ばす』『真っ直ぐにする』という意味がある、と……。
つまり……。
「いいか、よく聞けよ」
「うん!」
ワクワクした顔しやがって……!
「氵には、水のように流れたり広がったりする性質を表す意味がある。そして寅には文字の由来が『矢を真っ直ぐにする』という意味がある」
「うんうん!」
「それが合わさる『演』を使う演奏や演劇には、多くの人に広がりながらも真っ直ぐに指向性を持って、観客の心に働きかけるという意味があるわけだ」
「おお! わかった! 成程な〜!」
「納得したなら数学やるぞ! お前本当に間に合うと思ってるのか!?」
「大丈夫だって」
その自信はどこから湧いてくるんだ……!
「お前が教えてくれる事って覚えやすいし忘れないから、高校くらい楽勝だよ!」
「あーあー、お世辞はいいからきちんと試験通れよ」
「お世辞じゃないって!」
「お世辞じゃないなら点取れ! 確率の問題やるぞ!」
「おー!」
返事だけはいいんだからこいつ……。
「なぁ、高校卒業したら、お前と組んで何かでっかい事したいな!」
「入学してから言えよ!」
「いいじゃん! お前がサポートしてくれたら、俺何でもできる気がするし!」
「俺のサポートありきかよ! ……とにかく高校に受かってからだ!」
「おっけー! よろしく頼むぜ翼!」
「……おい、また資料なしで答弁するのか?」
「いいだろう? 翼の作った資料だから全部頭に入ってるし、その方がプレッシャーをかけられるしな」
「あぁそうかよ。野党に足すくわれるなよ? 竹林虎太朗総理大臣」
読了ありがとうございます。
本文中に『寅』の字を入れようと思い、そういえばこの字の成り立ちって?と調べていたら、何でも気になる男の子と、それに手を焼くメガネ男子が思い浮かびました。
まさか総理大臣とその秘書になるとは思いませんでしたけど……。
ちなみに翼の説明はネットでちょちょいと調べた程度の話なので、よそで話して恥をかかれても『僕は悪くない』。
……ちなみにこの作品には、ボーイズラブのチェックは入っていない。
BLではない……! ないが……! 今回まだ読者の捉え方の指定まではしていない……!
その事をどうか諸君らも思い出していただきたい……!
つまり……、読者がその気になれば、脳内で二人の関係性の妄想は幾らでも可能だろう、という事……!
楽しんでいただけましたら幸いです。
ありま氷炎様、飛び入りでの参加、失礼いたしました!
企画の末席に加えていただけましたら嬉しいです!