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闇夜に輝く幻想魔術~幻術師は世界から狙われている様です~  作者: 流れる蛍
【第二章】愛と泪の都
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乙女会議~後編~

乙女会議後半戦スタートです。

「ところで、お二人はゲノムさんのどこに惚れましたの? 私が言うことではありませんが、あまり好きになる要素が見当たらないのですわ。強そうにも、頼り甲斐がある様にも見えません。好みが違うと言ってしまえばそれまでですが、私、気になりますわ」


「あ、それはお姉様同様、私も気になっておりましたわ。確かに伝え聞く幻術は稀な魔術で、凄い才能と思いますが。それ以外には好感を持てる性格をしているとは思えません」


乙女四人の会議は続き、ラピスとミザリーの二人はシロとゲヘナの心中を探る。

ジークは変わらず扉の外で見張りをしている。


出会ってまだ二日した経っていないお嬢様方からすればかなり失礼な質問ではあるが、二人はそれを承知で尋ねる。


そもそもこの会議は、友情の名のもとにシロとゲヘナの恋路を応援する会なのである。


シロの馴れ初めを知っている二人ではあるが、肝心のゲノムの好みが分からない。


彼女達からすれば、得体の知れない魔術を操る、ヘラヘラした気味の悪い笑みを浮かべた、冴えない男でしかないのだ。


そんな彼は今、開店したてのホスト街で愛すべき家族の悪意のない辱めを受けているのだが。


「ゲノムの魔術は、あまり強くない」


更に彼は他でもない妹から、自身のアイデンティティを否定されていた。


「え、そうですか? かなり強力な魔術だと思いますが」


てっきりフォローの言葉を受け付ける事になると思っていたラピスは、逆に彼を擁護する発言をしてしまった。

ミザリーも同じ事を考えていた様で目を丸くしている。


「確か、人の五感を操る魔術ですわよね? 最強とは言いませんが、かなり有用な魔術ですわよ?」

「それは否定しない。有用は事実。でも、それまで」

「と、言いますと?」

「ちょ、ゲヘナ。何を言うつもりですか!?」


ラピスが聞くとシロは慌ててゲヘナを止める。

だがそれを構わないと言わんばかりに彼女は話を続ける。


「ゲノムの魔術はとても致命的な欠点がある。それは、ゲノムの性格にも起因する事」

「ゲヘナっ!?」


彼女が何を言おうとしているのか分かったシロが絶叫するが、ゲヘナは止まらない。


「それは与えるしか出来ないと言うこと」


それを聞いた二人は困惑する。


「······与える、ですか?」

「意味が良く······」

「ゲヘナぁ」


言ってしまったゲヘナにシロが泣きつくが、ラピスとミザリーは意味を理解していないようで眉をひそめている。


「大丈夫。二人は信用出来る。それに、私達がゲノムを魔術だけで好きになったと思って欲しくない」

「でも、でも······っ」

「いい。張り紙は私達で怒られる。でもこの件は私だけ怒られる」

「そんな話じゃないのですよぅ」


シロが悲しそうに顔を伏せるが、ゲヘナはシロをそっと引き剥がすと、お嬢様方に背中を向ける。


そして浴衣の帯をゆっくりと解き、背中を二人に見せる。


「ゲヘナさん、何を······?」

「お姉様、羽が······」


露になったゲヘナの白い背中には、蝙蝠の様な黒く小さな翼が覗く。

彼女の手のひら程しかない小さな翼は、片方が引きちぎられた様に途切れていた。

更に所々火でも押し付けられたのか、辺りには火傷の後が見える。

魔力の灯った体には軽い火傷くらいは痕も残らない。

それだけで、彼女がどれだけ過酷な人生を歩んでいたのかが解る。


「「············っ」」


あまりの痛々しさに二人は顔を背ける。


「あと、これも」


次に彼女は浴衣の魔術を解除する。

すると彼女の片方の耳の上から角が現れる。

額に向かって捻れる角は、空に向かって突き出している。


黒い翼、角と見たら二人はゲヘナの正体が分かる。


「······捻れ角の悪魔、それも、片角」

「ゲヘナさんは、罪人だったのですか?」


演劇や史実に聡いお嬢様方は、それがどんな意味をもたらしているか、瞬時に理解する。


悪魔族には、罪人の角を折るといった風習がある。

それ故に悪魔族にとって角は翼と同様に種族の誇りを示す象徴であった。

故に悪魔族は背中が開いた服を着て、帽子を被ることは無い。


「罪人ではない。私は生まれつき角を片方欠損して産まれた。折られたのでは無く、最初から無い。翼は、産まれた時両親が引きちぎった、らしい」

「ご両親が······」


ラピスが悲しそうに呟く。

ミザリーは見てられないのか、目を閉じてこぶしを握りしめている。


「自分の子供が欠陥を持っていることが許せなかったみたい。私は孤児院の前に捨てられた」

「············差別」


ラピスはゲノムの言葉を思い出した。

彼は立ち去る直前、彼女に差別を知っているかと聞いたのだ。

それに答えることは出来なかったが、それが彼女の境遇の事を示しているのであれば、色々と察することが出来る。


ラピスは俯くシロを見る。

獣人族で差別の対象となっている種族は一つだけだ。


「悪魔族が預けられる孤児院。片角の私に居場所は無い。どれだけ説明しても、孤児達には理解して貰えなかった。私を見つけた院長だけ知っていたはずだけど、何もしなかった」

「······ゲヘナ」


シロがゲヘナの手を握しめる。


「私とシロ、そしてゲノムは似たもの同士。ゲノムの過去は知らないけど、境遇は似ている。私がゲノムに会った時、とても悲しそうな顔をしていた」


「で、ですがそれが恋慕を抱く原因にはなれませんわよ。それに、ゲノムさんが本当に貴女方に同情していたかどうかなんて分からないではないですか! ただ利用しようとしているだけかも知れませんわよ!」

「お、お姉様っ!」


侮蔑ともとれるラピスの言い分に、流石のミザリーも見逃す事が出来ず姉を叱る。

「いいえ、ミザリー。これは言うべきですわ。友人として、絶対に」


怒りと悲しみを含んだ目を浮かべながら、ラピスはゲヘナを睨む。

ゲヘナは浴衣を戻しながら、その視線を受け止める。


「······理解はしてくれない。それは分かっていた」


でも、とゲヘナは続ける。


「魔術はイメージが大切。ゲノムはどんな幻術をも操る。それがどんな意味を持つか、分からない?」

「「······」」


ラピスもミザリーも魔術は使えない。

その質問の意味が分からず口を開こうとも言葉が出ない。

シロは唇を噛みながら静かにゲヘナの言葉を聞いている。


「······さっきも言ったけど、幻術は与えることしか出来ない。幻術って言うのは使う人によって、効果を変える。常に幸せを感じている人なら、幸せを与える幻を見せて、効果は美しいものになる。でも、ゲノムはそう使わない。使えない」


幻術は相手に感覚を与える魔術である。奪うことは出来ない。

ゲヘナは睡眠時の日課でゲノムから話を聞き、その効果を深く理解していた。

例えば、彼が良く使う姿をくらます幻術は背後の風景を見せているだけに過ぎない。だから触れていれば効果が無くなってしまう。本当に姿を消している訳では無いからだ。


知覚を操ると言えば便利な魔術に思えるが、弱点は多い。

むしろ使う人によっては、かなり使えない部類の魔術になるだろう。


ゲヘナは話を続ける。


「それは、ゲノムが幸せを知らないから。幻術は本来なら美しい魔術。人を傷つけない、優しい魔術。でもゲノムはそう使えない」


「············ゲノムは人を傷つけたり、騙したりにしか使わないのです」


シロが耳を伏せながら呟く。


「······だから私達は、ゲノムに幸せを感じさせてあげたい。助けて貰った私達に出来るのはそれだけだから」


話は終わりとばかりに口を閉じたゲヘナ。

しかしラピスとミザリーの胸にしこりが残る。


「············それで終わりですか?」


ラピスが尋ねる。


確かにゲノムという男が何か暗い過去を持っているらしい事は話の流れで何とか理解した。ゲヘナも同様。

だがこの話は元々、ゲヘナとシロが何故彼を好きなのかを問いただす話だったのだ。

未だ結論は出ていない。


「で、でも結局、それがただの傷の舐め合いである事に変わりは無いではないですか!」


ラピスは結論に辿り着かない苛立ちから声が大きくなってしまう。

しかし、ゲヘナは何を言っているのか分からないと言わんばかりに首を傾げる。シロも同様だ。


「······? お互いの幸福を望んで一緒にいる。これが好き以外の感情なら何を言うの?」

「一緒に居られて幸せなのです。私もゲノムが幸せになって欲しいのです」


「お、お姉様······」

「ええ、ミザリー。これは」


そして二人は遅れて理解する。

この二人が持つ彼への感情は決して恋慕ではないと。


「······やっと分かってくれた」

「ゲヘナは話が回りくどすぎるのです」


長く話しすぎたからか、手を床につき息を吐くゲヘナと、呆れてため息を吐くシロ。


「頑張って話した。二人は私を見ても悪い事はしないって思った。私、人を見る目には自信がある」

「だからといって、ゲノムの幻術を解くのはやり過ぎなのですよ! 前にとんでもない事になったの忘れてないのですか!」


言い合う二人を見るラピスとミザリーは、頬が引き攣るのを止められない。

胸から激しい動悸が聞こえる。

体の奥から熱が込み上げる。


決してゲヘナの正体や過去に同様した訳では無い。

ゲノムの魔術が想像と違ったからでは無い。


この気持ちは他でもない羨望だ。


自分の過去をさらけ出してでも彼女は訴えたかったのだ、

自身が愛するゲノムと言う男についてを。


あの二人の感情は、恋慕や好きと言ったものではない。

そんな軽い言葉で表してはいけない。


真実の愛に気づける場所。

この都に来て本当に良かったと思えた。


それは、抜け出すことの出来ない依存に似た、

深く身を焼け付す程の愛情だ。


彼女達が見たいと心から思った姿だった。

これまでゲノムの心境について極力語らずに来ましたが、これから先はオープンになっていきます。


幻術にはイメージが大切。


ならば彼が過去にストラスや、魔連に与えた痛みは何をイメージしたのか。


ゲノムの過去を早く伝えてあげたいです。

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