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闇夜に輝く幻想魔術~幻術師は世界から狙われている様です~  作者: 流れる蛍
【第二章】愛と泪の都
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依存と遺存、そして異存。

マキナとユウの話です。

少々忙しい話になっております。

ユウは今日もいつもの様に、礼拝堂の奥にある研究所にいた。


作業台には幾つもの小さな鉄の部品が散らばり、端には火にかけられたフラスコの中の液体が、ポコポコと音を立てている。


彼は手に持っている先の尖ったアイスピックの様な機器で、紙のように薄い鉄の板に溝を掘っていた。


その表情は正に真剣そのもので、いかに精密な作業かよく分かる。




そこに、扉を開ける音がする。

ユウを気遣ってか、ドアノブを開く音は控えめだ。


「······神父様、今日は何を作っているのですか?」


静かに音を立てずに入って来た修道服を着た女性が、驚かせない様に小さな声で尋ねる。


ユウは入って来た女性、マキナに驚くこと無く答える。


「······奴が我のケータイを改造したのは知っているだろう?」


「はい。幾つもの機能が追加されたとか」

「ああ。だが、何度試しても奴のような刻印は再現出来ない。物を大きくすれば可能だが、辞書程の大きさになってしまう」


憎々しげに機器を放り出し、ユウが言う。

話しながらでは無理だと判断したのだ。しかし彼がマキナを邪険に扱う事はしない。


マキナはそんなユウの様子を見て微笑む。


「ふふ。つまり、悔しいんですね?」

「······ああ、癪だがな。刻印の腕は奴の方が上だ」

「ゲノムさんは何でそんなに刻印が上手なんでしょう?」

「············知らないか」

「ええ。私は」


ユウは一瞬悲しそうな表情をするが、作業台に体を向けているのでマキナには見えなかった。

ユウも彼女の表情は見ていない。


「奴の魔力は特殊だからな······奴の魔力を見たことはあるか?」

「はい。虹色······と言うには違う色ですよね。美しい、この世の物とは言えない色でした」


魔力を見るためには、余程濃い魔力でない限り、魔力の有無と、魔力を操る一定の熟練度が必要だ。


ゲノムは普段自分の魔力を隠している。


近くに魔術を使える者がいた場合、知覚を操作し見えなくしているのだ。


グランリノでリッツに不覚を取ってしまったのは、元々捕まる計画だったと言うものはあるが、リッツが魔術を使うと見抜けなかったからである。


「あれはオーロラと言う、北で稀に見られる現象とよく似ている。お前は見たことが無いか······?」

「そうですね。······機会があったら見てみたいものです」


「そうか············」


ユウはマキナの言葉に、再び苦しそうな顔をする。

だがそんなユウの表情に気づかず、見たことの無い光景に目を細める。


「それで、そのゲノムさんのオーロラ色の魔力がどうしたのですか?」

「······ああ。あの魔力は様々な色の、細い魔力の糸が集まった物だ。奴はその糸一つ一つを操れる」

「それは、凄いですね············」


マキナが扱う治癒魔術も、細い魔力を欠損した部位に結合させ使用する。


体を透過する魔力で血管等を縫ったり結合する魔術なのだ。

なので、失った血液は戻らないし致命傷は治らない。


それでもかなり精密な操作が必要なのだ。

故に彼女は、ゲノムが普段からしている魔術か如何に規格外な操作によるものだと分かる。


さらにその操作は幻術の発動段階に過ぎない。

そこから彼は幻術を操る為に、魔術の効果を想像し、発揮しなくてはならないのだ。

むしろそちらの方がメインで、魔力の操作による刻印の腕は副次的なものに過ぎない。


「まあ、他の魔術への興味も適性が無いからな。今回は我とゲヘナの刻印を見ながら刻んだとはいえ、こうも差があるとは。これは素手で刻むのは無理だ」


ユウは目の前にある、途中まで刻んだ作りかけの魔道具を睨む。


「なら、ゲノムさんに同じものを作って貰うようにお願いすればいいんじゃないんですか?」

「······勘違いするな。我は奴のケータイを量産したい訳では無い。そもそも、あんな機能付けても我らが同士邪神教徒には魔力が足らず扱えん。大方我の仕事が増えるだけだ。ただでさえやる事が多く研究が遅れていると言うのに」

「············そうですか」





ユウはマキナの口調が、少し寂しげなものに変わった事を訝しみ、マキナの方を見て尋ねる。

「何だ······?」


「······いいえ」

マキナはユウの座る椅子に無理やり座り、頭を彼の胸に預けた。


「狭い」

「············変わらないんですね。鼓動」


ユウの胸に、服越しで暖かいものが、徐々に滲む。


「······邪神教徒には、何でなったんですか?」

「愚問だな。我らが邪神、アビス様の偉大さ故だ」

「············違います」


ユウはじろりとマキナの頭を睨む。


「何が違う······?」

「邪神教徒は、神を信じてはいません」

「なん······だと?」


ユウは目を見開き驚愕する。


「邪神教徒は、響きがカッコイイから邪神教徒と名乗っています。そもそも宗教じゃありません! 中央に本拠地を置く、ただの諜報部隊です!」


マキナの叫びに、ユウも同じように声を張る。


「何故お前がそれを知っている!」

「私も邪神教徒だからです!」

「くっ······」


ユウは閉口する。

マキナを邪神教徒に誘ったのは自分だからだ。


「それに神父様、今まで一度も祈ったりしてないじゃないですか!」

「··················っ!」


ユウは立ち上がろうとするが、胸に抱きつくマキナによって動けない。


邪神教徒は、彼らが定める教典により、例え同じ邪神教徒だろうと秘密がバレた時には格好良く口上を述べなくてはならないという規則がある。


一連の流れも、ユウの頭が悪い訳ではなく、教典に則っての答えだ。


しかし、動けないユウはそれが出来ず、椅子の上で藻掻くしか出来ない。

やがて諦めたユウは、そのまま最後の口上を口にする。


「ふっ······よくぞ見抜いた。そう、我こそーー」




「私じゃ、駄目ですか?」




「············」

ポツリと漏らしたマキナの言葉に、ユウの力が抜ける。


「神父様が私の記憶を取り戻したいのは知ってます。昔の私が原因で邪神教徒に入った事も。それでも············今の私じゃ、駄目なんですか?」


「························」


ユウは何も言わない。

言えなかった。



少しの間、無言の時間が過ぎる。



マキナはユウが何も答えてくれないと分かると、立ち上がりいつもの花が咲く様な笑顔を向ける。


「ーーすいません。我儘でしたね」

「··················」


ユウは何も答えられない。

答える訳にはいかなかった。

彼が自分を曝け出せるのは今や一人しかいない。


嘗ての自分を知る、幻術師だけなのだから。







マキナはユウから一歩離れると、努めて明るい口調で話す。


「あ! そう言えば! ゴル姉様からの頼まれごとは終わったのですか? 随分苦戦してましたけど」

「ああ。とっくの昔にな」


話が逸れた事に息を吐き、ユウは答える。


「あれって、ダストダスの人々に使うんですよね?」

「そうだ。奴隷用の拘束魔術が刻印された首輪を改良し、より強力且つ小型化した」


「えっと、確か普通の首輪は、逃げるや反抗といった決まった動作をすると首輪が締まるんでしたっけ?」

「任意でも発動出来るがな。······改造した首輪はゲノムの幻術を組み込みさらに行動を制限。拘束魔術は外せないだけの効果に留め、罰則は我の雷ーー」

「あ、あはは。つまり、より強くなったって事ですね」


マキナはユウの解説を遮り、雑に纏める。

ユウは普段こそ口数は少ないが、こと自分の成果に関しては饒舌になる。

マキナはこのままでは長くなると察知したのだ。



「ゴル姉から、あの子供達がされた事と同じ目に合わせてやりたいと要望があってな。我はそれに同意したという訳だ」

「ええ、それに関しては同意します。あれは······余りに酷すぎました」


「だな。············時に、まだ回復の兆しは見えないのか?」

「あ、そうでした!」


ユウの質問に、思い出したかの様に手を叩くマキナ。

その顔はとても嬉しそうなものだった。


「一人、正気に戻った子がいます。ついさっきまで一緒に掃除していたんですよ!」

「ほう············しかし、大丈夫なのか? 目が覚めたばかりだろう?」

「ええ。彼女はダストダスに来てあまり日が経っていない子だったみたいでして」

「彼女? 女か」

「はい。とても元気な女の子です。······って、これじゃ産まれたばかりみたいですね。歳はゲノムさんとシロちゃん達の間位です」


自分で自分の言葉に苦笑しつつ、マキナは言う。


「あ、手を出しちゃ駄目ですよ?」

「出さん。······全く」


人差し指をユウに向けつつ、冗談混じりで揶揄うマキナに、彼は安堵と同時に苦笑する。


そこに、マキナを呼ぶ大きな声が聞こえてきた。

少し怒っている様に感じる、甲高い声だ。

扉が閉まっているにも関わらず、はっきりと二人の耳に響いてきた。


「あら、呼ばれちゃいました。行ってきますね」

「ああ。··················その、マキナ」


扉に向かうマキナをユウは呼び止める。

マキナは振り向き、笑顔を見せる。


「何ですか? ()()()?」

「············いや」


だが、ユウは何も言わず口を閉じる。


「······もう。何かあるなら言ってください。じゃないと············どっか行っちゃいますからね?」

「それは困るな」

「でしょう? 私がいないと神父様は食事すら取らないんですから。············ずっと待ってますので」


そう言い残し、マキナは研究所を出る。




誰も居なくなった部屋でユウは作業を続けようとするが、思考が邪魔をして手に付かない。


やがて机に機器を放り投げると、天井を仰ぐ。




「それは、()もだよ。マキナ」

マキナは邪神教徒の中でも今まで一度も口上を口にしていない異端者です。

それは単純に機会が無いのもありますが、秘密が少ない素直な性格だからです。

しかし規則があるので、運命が巡り合えば名乗りを上げるでしょう。


例えば、ある幻術師がカードのスタンプを集めた時とか。

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