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闇夜に輝く幻想魔術~幻術師は世界から狙われている様です~  作者: 流れる蛍
【第二章】愛と泪の都
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ストラスの罰

評価頂きました!ありがとうございます!

とても励みになります!

「はっ! クソっ何故俺はこんな事を!」

「いいから、早くやりなよ」

「はい! 畏まりましたぁ!」


すっかり毒気が抜かれたジークとゲノムは、ストラスが居なくなり空いたベンチで誤解を解消し、今やすっかり仲良くなっていた。


ストラスは這いつくばり、せっせと土をかき集める。

途中途中我が返る場面があったが、その都度ゲノムが命令を出し再開する。


ゲノムは彼に生半可には消えない魔術を施してある。

彼がした無法統治は多くの被害者がいて、彼自身も非道な行いを数え切れない程行っている。


奴隷商売から初め、数々の非力な者への暴力、殺害まで。数えたらキリがない。

ゲノム達が村で保護している子供達は殆どが彼の被害者だ。


時折見せる素は彼の持つ強靭な精神力故のものだが、それが彼への罰なのだろう。

元々自信過剰の自己顕示力の塊な男だ。今自分が行っている事は耐え難い苦痛でしかない。


今の姿からは当時の威厳は微塵も感じられないが、彼の因果応報はある意味適切とも言える。


しかし、そんな事はゲノムは知らないし、興味が無い。

なぜなら彼にとっては家族が一番であるからだ。




今も彼はジークと自分の家族の話題で盛り上がっていた。


「そうなんだよ。ゲヘナったら僕が居ないと中々眠ることすらしないんだ。シロはいつの間にか僕のベッドに入ってるし」

「ははは、それはゲノムさんが信頼されている証拠でしょう。本当、羨ましい限りです。お嬢様方は婚期を焦るばかりでして、挙句の果てにこんな所に連れてかれてしまいました。·····もう少し身近に目を向けては如何と思っておりますよ」


「ジークはあの二人の事が大切なんだ。僕と一緒だね」

「ええ、それはもう。身分の差はありますが、我が国ではむしろ推奨されていますから。ゲノムさんも色々前途多難な境遇かと存じますが、応援しております」


「僕もジークを応援しているよ。ゲヘナもシロも可愛いからさ、相応しくない男が現れたら僕は全力で妨害しちゃうね。ジークも同じでしょ? 馬車で僕は確信したんだ」


二人は尚もどこか噛み合わない会話をしていた。


自由奔放なゲノムと真面目なジーク。

実態の無いものを操る幻術師と、物理的能力最強ランクの執事。

その会話は相反するその二人を表しているかの様だ。


「ええ、この度はご迷惑をお掛けしてしまいましたが、あの一件では確固たる繋がりを感じました」

「うんうん。僕らはとても似ていると思ったんだ」


「ゲノムさんもそうお思いでしたか。なので、先の戦いでは少し手心を入れてしまいそうでしたよ」

「またまた、全力だったくせに」


「いえいえ、私の本気はあんな物ではありませんよ」

「僕だって寝不足で本気じゃなかったし? 隠し球だってあるからね?」


「············」

「··················」




「はっ! こんな魔術に負けていられるかっ!」

「ついでにそこで腕立てな。片手で修復は忘れるなよ」

「ぬほぉ! キッつい!」




だが二人には共通点が多い。

ゲノムは自分の魔術に、ジークは自分の力に、絶対の自信を持っている点。

互いに負けず嫌いな点。

そして、方向性は違うが、命より大切な人がいる点だ。


若干ピリつく空気を発する二人だが、ジークは一つ腑に落ちない事があり、ゲノムに尋ねる。


「ゲノムさん、先の小競り合いで貴方の幻術をお目にしましたが、そもそも何故世界から指名手配なんてされているので? 貴方の魔術なら、幾らでも出来たでしょう」

「あー······そこ引っかかっちゃったか」


その質問にゲノムはバツが悪そうにする。


「昔、シロとゲヘナが同時に攫われた時があってね······そのときに中央の魔導国に目を付けらたんだよ」

「なんと······!」


「ジークなら分かると思うけど、少し派手に魔術を使っちゃって。誤魔化しが効かなくなったんだよね」

「······私も、お嬢様方がそんな目に合えば、手段など選ばないでしょう!」


「だよね! たかが国を一つ二つ滅ぼしたくらいで大袈裟なんだよ、全く」

「本当です。二人の命と比べれ塵芥と同じ価値しかありません。ゲノムさんの判断は正しいと私は支持致しますよ!」



物騒な話の後、おもむろに二人は立ち上がり、再び硬い握手をする。

二人の間には嘗てのわだかまりは無く、正真正銘の心の友としての握手だった。


「あ、そうです、ゲノムさん。機会があれば、私達の国にいらっしゃってはどうですか? その時には丁重なおもてなしを致します」

「え、いいの!? 是非行ってみたいよ」

「ええ、首を長くしてお待ちしております」


画してゲノムに生まれて初めての心からの親友が出来たのだった。





「は! 俺はこんな事をしている場合ではっ!?」

「無駄口叩いてないでやれよ」

「仰せのままにぃ!」


背景は汚いが。






その後もジークとゲノムはお互いの大切な人の思い出話に花を咲かせていた。


やれラピスとミザリーが化粧の仕方を教わりに来て、知識が無いので適当に話を誤魔化して教授したとか。

シロが起きるのを眺めていたらいつの間にかいつもより起きる時間を過ぎていて、腹の上に転移したゲヘナにシロが潰されたとか。

お見合い相手が金目当てと確信して家ごと潰しに行ったとか。


二人の話題は尽きない。


「ゲノムちゃん!」

「あ、ゴル姉」


そうしている内にかなりの時間が経っていたのだろう。

食事の時間になり、ゴル姉が二人を呼びに来た。

空を見ると、太陽はとっくに真上を過ぎていた。

数時間はずっと二人で会話していたらしい。


「あ、申し訳ございません!」


慌てて立ち上がるジークをゴル姉は手で制する。


「いいのよ。貴方の主人から許可は貰ってるから。そろそろ皆食事が終わった頃かしらね」

「し、しかし」

「うふふ。凄く嬉しそうにしてたわよ。ゲノムちゃんと貴方がベンチで座って楽しそうに話しているのを、二階の窓から見てたみたい」


ゲノムが迎賓館を見上げる。

今いる庭は廊下側に面している様だ。


「いつから見てたんだろう」

「最初からでしたら止めに来るでしょうし、最後の一部分だけでしょう」


ゲノムとジークは見られていた事に冷や汗を流す。

流石に会話が聞かれていたとは思えないが。


「私も仕事が終わって様子を見に来たら、庭がこんなになっているんだもの。ビックリしちゃった」


ゴル姉はそう言うと、未だ庭の修復を続けるストラスの元へ歩み寄り、その背中に座った。


「グペっ」

「あら、少し高さが足りないわね」

「止めてくれ、ゴルゴンディア。愛しの君よ。これでは嬉しさが勝ってしまう······」

「なら指で支えなさい。仕事をサボっていた罰よ」

「ふっ。承知。俺の愛が決して折れぬことを証明してやる」

「はいはい。頑張って」


「······ゴル姉?」


突然見せつけられた母親の特殊なプレイに、ゲノムは空いた口が塞がらない。


「あら、いつもの癖で座っちゃったわ」

「いつものって」

「気にしないで。こうした方がこの人効率がいいの」

「そ、そうなんだ······」


そう言いつつ立ち上がろうとしないゴル姉。

ゲノムは何も見なかった事にした。

門で見た仕事のできる女の印象は、どこへ行ったのか。



「············ゲノムさん。私達も食事に行きませんか?」

「うん。そうしようか。僕は何も見なかった」

「あ、食堂は一階よ。入口入って右の一番奥ね」

「分かった。じゃあゴル姉も仕事頑張ってね」


ゲノムとジークは食堂へ向かう。

ゲノムは決して振り返ろうとしなかった。





「ストラスちゃん。私の家族に手出ししてないわよね?」

「無論だ。むしろ俺は守ってやった」

「そう。なら後でご褒美をあげるわ。何がいい?」

「鞭だ」

「馬用ね?」

「ああ」

「あの事は話してないわね?」

「俺はお前との約束は違えない」

「············私は絶対に、私の家族を傷つけた貴方の事を許さない。これは、魔術が解けた時の貴方への罰。それまでは友達でいてあげるわ」

「······知っている」

「じゃあさっさと庭を直しなさい」

「喜んで」

いやー、悪いことは駄目ですね。

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