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闇夜に輝く幻想魔術~幻術師は世界から狙われている様です~  作者: 流れる蛍
【第二章】愛と泪の都
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バイトダインの貴族

馬車は走り続ける。

この二人は貴族では珍しく獣人族に偏見が無いらしく、シロを見ても気にする事はなかった。

席順はゲノム達三人が並んで座り、その対面に貴族の二人だ。


目的地のダストダスは、今や愛の都と呼ばれているらしい。

話を聞くところ、耳の早い貴族の間で「真実の愛に目覚める場所」として噂されている様だ。

だが詳細は誰も語らない上、一度行ってしまったら何度も通ってしまう程だそうだ。


二人はその話を聞き、遥々遠いバイトダインから足を運んで着たらしい。

この馬車は貴族が良く使う足の早い馬で、目的地には明日か明後日には着く様だ。


「しかし、どこで貴女方は愛の都の話を聞いたのかしら? この話は私達貴族の間に小さく噂になっていただけなのに」

「それは先程証明されたではないですか。この少女は博識よ。嗚呼、可愛らしくて知識もあるなんて、なんて神様は残酷なのかしら」

「そうよね。神様は美しいものを愛されるのですわ。だけどお連れの貴方は······あまりパッとしませんわね」


「······ゲノムは私の旦那」

「妹です」

ゲノムを貶されムッとしたゲヘナが口を挟むが、ゲノムが突っ込みを入れる。


「まあ、なんて事! 聞きましたかお姉様! この少女は禁断の愛に足を踏み入れようとしているわ!」

「嗚呼、嗚呼、素晴らしい、素晴らしいわ! 私達は貴女方二人を応援するわ! そこの獣人族の女の子は······護衛の冒険者かしら?」

「違うのです! ゲノムは私の番なのです!」

「ペットです」

「っ!? ゲノムぅ」

間髪入れずに答えたゲノムに、シロが悲痛な声を上げる。


「まあ、まあ、まあ、まあまあまあ! お姉様! この男パッとしない平凡な男と思っておりましたが、とても罪深い男の様ですわよ!」

「そうね、そうね! 私は今とても興奮しているわ! 妹とペットが織り成す禁断の三角関係······あ、鼻血が」

急所に入ったらしく、興奮して早口で捲し立てる貴族の二人。どうやら二人は姉妹らしい。


「国に帰ったら専属の脚本家に舞台を作らせましょう! もう、今すぐ国に帰ってもいいくらいよ!」

「いいえ、ダメよ。かの愛の都に行くまでは帰れないわ! ジーク! 今の話を覚えておいて!」

「は。畏まりました」

そこで初めて行者の男が声を出す。

ジークと呼ばれた男は、行者をしながらも話は聞いていたようだ。


「······そう言えば、名乗ってませんでしたね。僕の名前はゲノムです」

「ゲノム、簡単に名乗らない」

「え? 二人とも普通に僕の名前言ってたじゃん」

名乗り忘れていた事に気づいたゲノムが、二人に名前を名乗る。だが何故か先にゲノムの名前を出したゲヘナに注意されてしまった。


ゲノムの名前は色々な国に周知され狙われている。

それ故下手に名前を名乗ると要らぬ争いを招く事になる。


だが、その心配は杞憂だった様だ。


「ゲノム······? 何だか聞いた事ありますね」

「何かの舞台に似た様な名前あったかしら? あ、黒雷の英雄譚にゲムと言う魔術師が出てきますから、それではないかしら?」

「嗚呼、黒雷の英雄譚。あれは良い舞台です······。私はもう百回は御覧になりましたよ」

「聖女マキと少年ゲム、そして黒雷の英雄ユーカリスの物語。最後にマキが死んでしまう所なんて私何度涙したことか······」

「好き勝手して争いを招くゲムは、憎らしい性格ながらコミカルな笑いを誘ったものですわ。女湯に忍び込んで捕まった時は、笑ってしまいましたが······まさか最後にそれが大きな伏線になるなんて······」


「あ、あの。すいません、そのくらいで······」

自分の恥ずかしい過去話をする二人をむず痒い気持ちで聞いていたゲノムだが、女湯の下りで左右から突き刺さる視線を感じたゲノムは話を遮った。


その物語はゲノムとマキナ、そしてユウが旅をしていた時の話だ。

ユウの名前だけは正確に伝わっているので、無駄な諍いを避けるために、ユウはユーカリスでは無くユウと名乗っている。


「あら、ごめんなさいね」

「私達、演劇の話になると夢中になってしまいますの」


楽しげな話を遮られたにも関わらず、二人は素直に謝った。


「い、いえ。えっと、名乗りの途中でしたね。こちらの黒髪の子がゲヘナ。同じく黒髪の獣人族がシロです」


「······ゲヘナ、と言うんですの?」

「うん。私、ゲヘナ」

ゲヘナの名乗りを聞くと、楽しげだった貴族の二人は、顔を見合わせて神妙な顔をする。


「······貴女、悪魔族に知り合いはいるかしら?」

「っ!?」


今ゲヘナは角を隠し、人間族に見える様に魔術を発動している。

ゲヘナが悪魔族と繋がる要素は無いと思われるが、二人は名前から何かを察したようだ。


「どうしてゲヘナが悪魔族と関係があると?」

顔を伏せ俯いてしまったゲヘナの代わりにゲノムが聞く。


「······悪魔族に伝わる物語に、ゲヘナの谷と言う場所が出てくる話があるんですの」

「そこは、その、死体を投げ捨てる、怨霊が住まう不吉の谷と呼ばれていて。その、気に触ったのならごめんなさい」

「まあ、貴女は悪魔族ではありませんし、偶然かしらね。でも、悪魔族に名乗る時は気を付けた方が宜しくてよ。あまりいい印象を持たれませんから······」


「うん。注意する」

ゲヘナが暗い表情で返事をする。

「ま、まあ! 名前なんて特に気にする事じゃありませんのよ!」

「そうですわ! あ、申し訳ございません。私達の名前ですわね! 私はミザリー=ラブリーフィンと申します」

「私はミザリーの姉のラピス=ラブリーフィンと申します。以後お見知り置きを」

暗くなった馬車の雰囲気を振り払うように、努めて明るく名乗るミザリーとラピス。

そんな二人にゲノム達三人は笑顔で返事をする。


「そう言えば、貴女は黒髪なのにシロって名前なのね?」

「お姉様、また地雷だったらどうするのですか!?」

「あ、それもそうね。失礼を」

と、言いつつ聞きたそうにチラチラとシロを見る二人。


「あ、大丈夫なのです! シロの名前はーー」


シロは二人にゲノムとの出会いを話す。

銀狼族の件は隠し、奴隷商人に追われた話として。


明るく楽しそうに話すシロだが、ミザリーとラピスは話が進むにつれ、静かに涙を流す。

行者側からも鼻を啜るがする。


「わ、私、国に帰ったら奴隷商人の罪を重くしますわ······」

「ゲノムさん。私、貴方をパッとしないと言ってしまった事を謝るわ。貴方、素晴らしい男よ······」

「え、ええと······」

ゲノムは本日二度目のむず痒い気分を味わった。

私、この三人好きですわ(`•ω•′)✧︎

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