追い掛ける銀狼族
パタパタと三角耳をはためかせ、ザク切りの髪をなびかせながら、少女は丘の上に立っていた。
尻尾がフリフリと緩やかに振られている。
「むむ。何やらお城と街が見えます。······ふむ、あそこにゲノムがいるようですね。しかし私は街に入る訳には行かないのです」
彼女はどうしても街には入ることが出来ない事情があった。無理矢理にも入ることは出来るが、もしかしたら彼に迷惑がかかってしまう事があるかもしれない。そう考え、彼女は彼が街の外に出るのを待つことにした。
「私は賢い獣の王っ! 待てなんて朝飯前なのですっ。そうすればきっとゲノムも沢山ペロペロさせてくれるのですよ!」
緩んだ口元に涎が溢れる。同時に小さなお腹から大きな音が鳴った。
「そう言えば、ご飯がまだでした」
キョロキョロと周りを見渡し、丁度森から出てきた巨大な猪型の魔物と目が合った。
「······じゅるり」
憐れな獣は死を覚悟した。
☆
「るーるる、るるる、るーるーるー、るーー······」
銀色の獣人は巨大な猪を焼いていた。
内蔵を取った巨大な猪の手足を棒に縛り、下から焚き火で焼くと言ったワイルドなものだ。高さは岩で調節している。
猪を結んでいる棒は車輪の軸。森の中で壊れた馬車の部品を見つけ、持ってきた様だ。その証拠に辺りに使われなかった残骸が散らばっている。
両側に付いている車輪を彼女は楽しそうに回していた。手の動きと一緒にしっぽも揺られている
因みに車輪を回しても肉が回る訳では無い。
「そろそろですか? まだですか?」
焼かれた猪に尋ねるも、返事がない。
「まだですか? いいですか?」
当然、返事がない。
「よし。じゃあ、いただきーー」
「ーーおい、狼煙が見える。救護対象かもしれん」
「はっ!?」
肉に噛み付こうとする寸前、近くから人の声が聞こえてきた。
普段なら匂いと音で気づけるが、目の前の食事に夢中になって気づかなかったようだ。
足音は五人。全て男。
すぐ様その場を離れる少女。
その後直ぐに五人の冒険者がやって来た。
「ここだ。って、なんじゃこりゃ!!」
「猪の魔獣か。だがこのデカさは······」
「焼いて食おうとしていたのか」
「うわ、毛皮がボロボロ。これじゃ売れないや」
「っていうかこの馬車の部品、救護対象のじゃねえか!」
彼らは口々にそう言い、辺りを警戒しながら散らばった馬車の部品から何かを探す。
だが見つからなかったのか肩を落とすと、その場を離れた。
肩に焼かれた猪を担ぎながら。
「······?」
冒険者達はは遠くから「おにくぅ」と悲痛な声を聞いた気がした。
彼女が口ずさむ音楽に他意はありません。