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闇夜に輝く幻想魔術~幻術師は世界から狙われている様です~  作者: 流れる蛍
【第二章】愛と泪の都
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旅、疲れました。

その後もゲノムの寝苦しい日々は続いた。


ゲノムが一緒に寝てくれると考えたゲヘナが、頑なにテントを一つしか出さなかったのだ。


旅が進むにつれて肌に艶が出るゲヘナとシロだが、ゲノムは目に隈が出来ている。


ゲノムかて過去に旅をしていた経験がある。一日二日程度の徹夜なら問題がないのだが、それが一週間以上も続くとなると精神的にキツいものがある。


だがゲノムは外では眠りたくない。

体が土で汚れるのも嫌だし、虫もやってくる。

虫は幻術が効かない数少ない生物なのだ。ゲノムは虫が苦手だった。


「ねえ、そろそろ転移使えるんじゃない?」

テントを出して欲しいとの要望はもう何度も却下されている。

ゲノムは少し切り口を変えた交渉に出ることにした。


「まだなんか違う気がする。多分」

ゲノムの方を見ずに答え、歩き進めるゲヘナ。

「ゲヘナって僕より体力無いよね? なんでそんなに元気なのさ······」

「毎晩元気を補充している。これなら永遠に歩き続けられる」

鼻息荒く言うゲヘナに、ゲノムは諦めシロの方を向く。


「シロも、毎日同じ光景じゃ飽きるでしょ。そろそろ街に入って観光したいよね?」

「私は毎日狩りができて、ゲノムと一緒に寝られて幸せなのです! 街に入るとあまり寛げないので、こっちの方がいいのですよ!」

「シロはそういうタイプだった······」


とにかく、ゲノムは限界に近かった。

キャンプにも飽き、歩くのにも飽き、同じようなご飯を作るのにも飽きていた。

二人が毎日美味しいと言ってくれるのは嬉しかったが、それとこれとは別の話。


「馬車でも通れば早く着けるのに······」

「グランリノではダストダス行きの馬車はない。誰も行きたがらないから」

「買うほどお金ないもんね······」

「お金なら私が魔物を討伐したのがあるのですよ?」


シロが腰に巻き付けてある財布を開くと、金貨や銀貨が沢山入っていた。

現状この三人で一番お金持ちはシロだった。最下位は言わずもがなゲノムである。


「······いや、それに手を付けたら人として駄目になる気がする」

逡巡するが、あくまでペットとして思っているシロのお金に手を出すのは躊躇われた。


「私の日記を読むため、国を巻き込んだくせに」

「それはごめんって。沢山謝ったじゃん」

「私は別に使って貰っていいのですが······」


シロは財布を差し出すが、ゲノムはそれを優しく押し返す。

「いや、いいよ。それはシロが美味しいものを食べるのに使って」

「何で食べ物限定なのです!? 私だって冒険者として活動するのに使ったりするのです!!」

気を使って言ったつもりが、逆に怒らせてしまうゲノム。

しかしそんな事よりゲノムは気になることを聞いた。


「あれ? シロ冒険者を続けるの?」

「はい? もちろん続けるのですよ?」

何を聞いているのか分からないと言わんばかりに首を傾げるシロ。


「折角銀ランクになったのです! このまま辞めたら勿体無いのですよ!」

「そうだけどさ······」

「私は賛成。グランリノで冒険者だけはシロを庇ってた。それに、ギルドカードは身分証にもなる」

「まあ、二人がそう言うなら。······程々にね」


ゲノムが心配しているのは、二人の過去の再来。

名前が売れると詮索する者や邪推する者、僻みも受けることになる。




「あ、馬車だ」

そうこう話している途中、一台の馬車が背後から迫って来た。

「初めて通るのです······」

「ゲノム、シロにローブ!」

「あ、そうでした!」

「シロ、はい!」


シロのローブはグランリノで穴が開き、魔術が発動しなくなっていた。

あのローブはゲノムが精密な刻印を刻む必要がある為と、特別な素材を使っているので量産は出来ない。

ゲヘナの声でゲノムはローブを脱ぎ、シロに被せる。

二人はローブに魔力を流し、魔術を起動する。

シロの毛髪は黒く染まり、ゲヘナの角は消える。


「あ、危なかったのです。ゲヘナ、ありがとうなのです」

「周囲の探索はシロの仕事。油断しない。ゲノムも」

「はい、すいません」

「ごめんなのです」

謝る二人に、ゲヘナは溜息を吐く。

「とりあえず、乗せてもらえる様に交渉してきていい?」

「ゲノム、本当に反省してる?」





執事服の男が行者をする馬車に乗っていたのは、豪華な衣装を着た二人の女性だった。

歳は二十代後半くらいで、濃い化粧と良く手入れをされた綺麗な金髪をしている。


「まさか貴方方も、最近噂の愛の都へ行かれるだなんて、嗚呼、なんて運命かしら」

「そうですわね。まさか徒歩で行かれるとは、何が何でも行きたいという情熱を感じるわ」


身振り手振り激しく、演劇をするかの様に言う二人の女性に三人は引き気味だ。


「え、ええと。貴女方は貴族ですか?」

「ええ、ええそうよ。バイトダインと言う国の貴族よ。美しい水と美しい花々が咲き乱れる国。勿論ご存知よね?」

「え、ええと」

言い淀むゲノムに、ゲヘナが助け舟を出す。


「色々な色の薔薇が咲く国。歌劇が有名。西の貴族はバイトダインの薔薇を贈り物に良く使う」

「あら、貴女詳しいわね。その通りよ。旅人にするには勿体無いわ。貴女、私の国の識学者にならない?」


「いい。バイトダインの薔薇は有名なブランド。偶然知っていただけ」

「いいえ、それだけ知っていれば十分だわ。まあ、私達の国がそれだけ有名って事ね。嗚呼、私達は何でいい国に産まれたのかしら······」

「その通りだわ。なんて幸運な私達······」


頬に手を当ててうっとりと溜息を吐く二人に聞こえないように、こっそりとゲノムが耳打ちする。

「平民は有名にならないと、生活すら出来ない国。とても貧富の差が激しい」


ゲヘナの話によると、その国は観光地ではあるが、その国に産まれたならば芸人になるのを強制されると言う。

その為、人気の出ない平民は録な稼ぎを得る事が出来ず、餓死者や鬱病からの自殺者が続出している様だ。だからと言って別な仕事をすると重罪扱いで罰せられる。

しかし、日に日に夢を見る為集まる移民に人口は減らず、貴族は私腹を肥やしているらしい。


「ロクな国ないね······」

とゲノムの談。

グランリノだってクーデターに成功しなければ滅びの道を辿っていたのだ。

「マシな方」

「僕も昔旅をしていた時があるから知ってるけどさ······」

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