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闇夜に輝く幻想魔術~幻術師は世界から狙われている様です~  作者: 流れる蛍
【第二章】愛と泪の都
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街道の三角形

2章開始です

シロの怪我も治り、三人はグランリノから東へ向かって歩いていた。


マキナはシロの回復を確認すると、タイミングを見計らったかの様に現れたユウと共に転移の魔道具で消えていった。


三人も転移で村へ戻ろうかと考えたが、どうもゲヘナの転移魔術が不調で、今使うのは何処へ飛んでもおかしくはないと言う。


ゲノムが持っていた魔道具も、ナンバーズとの諍いの際にゲノムの膨大な魔力によって壊れてしまっていた。


「多分、グランリノで無理に使った弊害。マキナを呼ぶ時だって少しズレた」


シロの治療にマキナを呼びに行く時、時間がかかったのはそのせいだ。

普段タイムラグが殆どなく転移する魔術なのに、シロとゲノムは一通り会話をするまでかかっていた。

グランリノから数日たった今でも回復はしていないらしい。


「とりあえず、ゆっくり休める場所に行こうよ。僕、グランリノは当分行きたくないしさ」

「それは同感。シロに石を投げたのは許せない」

「私は気にしてないのですが······」


憤慨する二人に、当人であるシロが控えめに答える。


「ゲノム、グランリノの幻術は解いたの? 確か『幻想』って言う」

「解いたよ。······本当は解きたくなかったけど、シロが······」

「洗脳は良くないのです!」

「······って言うから」


「うん、それがいい。何かの魔術が掛かっている事は、見る人が見れば分かる。別の国の魔術師が来たら、警戒する。下手をすれば、拐われて実験させられる」


ゲヘナの言葉にゲノムは、そういえばエルフの少年も気づいていたな。と考える。


「ゲノムはあまり警戒してないけど、ゲノムの魔術が世界に広まると、大変なことになる」

「ゲヘナが世界を気にするの?」

「別にどうでもいいけど、幻惑の森が破られるのは大変。最悪······」

急に押し黙るゲヘナにゲノム達は息を飲む。


「ゲノムが村に居られなくなる」


「そ、それは大変なのです!」

「大変だ! 僕毎日野宿とか無理。久しぶりなら楽しいけど、毎日は無理!」


青ざめる二人にゲヘナは尚も続ける。

「だから、気をつけて。私もゲノムと別れたくない」

「シロはゲノムについて行くのです! 野宿なら昔沢山やりましたから!」

「ありがとう、シロ。それと、ゲヘナは僕に着いてこない事が分かった」

「冗談。······私は転移でいつでも会えるし」




「それで、私達はどこへ向かって歩いているのです?」

「私も知らない」

シロの質問に、ゲヘナは首を振る。


「ダストダスだよ。ゴル姉が言うには、かなり治安が良くなったんだって。温泉も発掘したらしくて、休むには丁度いいかなって」

「ダストダス、ですか······」

「う、私も少し行きたくない」


嫌そうに顔を顰める二人。

ゲノムもそうだが、三人は世紀末の様なダストダスしか知らない。

法律がなく、犯罪の温床だった国。

教会の地下にいる、かつて奴隷だった子供達を保護した国である。


その惨状を理解しての二人の反応だった。

当時の国主、魔槍のストラスがゲノムによって打ち倒され、あれ程度治安が回復したとしても、たかが知れている。


「前にダストダスに行ったのって、いつ?」

ゲヘナが問う。

「半年くらい前じゃなかったかな」

「なら、大した変化はない。行くだけ無駄」

「でも、ゴル姉が大丈夫だって言ってたし」


「ゴル姉が言っているなら安心なのです」

「うん。ゴル姉が言うなら安心」

「それって僕の言う事は信じられないってこと?」

ジト目になるゲノムに「違うのです。そんなつもりじゃないのです」と慌ててシロが慰める。

「シロはいい子だね」

「それは、私がいい子じゃないって事?」


「いや、違う。言い方が悪かった!」

「撫でる」

「はい」

足を止め、仏頂面で頭を突き出すゲヘナを、シロに撫でられながら撫で回すゲノム。

しばらく撫でられていたゲヘナだが、手持ちぶたさにシロの頭を撫で回した。

「······なにこれ?」

そこには三角形になり頭を撫で回し合う妙な集団がいた。





ダストダスへの道のりは長い。

グランリノから1000kmは優に超える距離だ。徒歩では数週間はかかる。

まだ出発して一日。三人は野宿の準備をしていた。


「ゲヘナ、水出して」

「分かった」

荷物は全てゲヘナの魔術によって収納されている。

時空を歪めて持ち歩いているだけなので腐りはするが、食料や食器類、テントや簡単な魔道具など、必要な物は全て持ち歩いている。


シロは薪拾いと、ついでに何か狩ってくると森の中へ駆け出している。


料理担当はゲノム。


シロは外での生活が長かった影響で、基本丸ごと焼くしかしない。

ゲヘナに至っては料理を作れない、ではなく、食べ物を作ることが出来ない。何をどうしたか分からないほど、恐ろしい出来栄えになるのだ。


ゲノムは日持ちしない野菜から先に使うべく、食材を切っている。ゲヘナは鍋に水を入れ、魔道具で起こした火の番をしている。


パチパチと弾ける火をぼうっと眺めるゲヘナ。

偶にその辺で拾った木の枝を焚べている。

近くではゲノムがリズミカルに包丁を叩く音。


「······暇」

「火の番だって立派な仕事だよ」

「何か話して」

「そうは言ってもな······」

「じゃあ、いつもの話。ゲノムの魔術について」

「············もう話尽くした気がするけど、っと。後は煮込むだけだよ」


ゲノムは食材を鍋に入れて蓋をする。

作ったのは野営の定番メニュー、野菜と干し肉のスープである。シロがもし獲物を撮ってきた場合は加えて煮込むか、焼いてゲヘナに収納して貰い、明日の食事にするのだ。


「ナンバーズとの戦いで見せた幻術。あれ、見たことない」

「あー······『幻獣』ね」

「あの白い狼、シロをモデルにした?」


「ん? 私の話ですか?」


そこへ、薪を大量に抱えたシロが戻ってきた。

腰には皮を剥ぎ内蔵が処理された兎が数羽括りつけてある。

「丁度いいから、見せた方が早いな」

ゲノムはシロを視界に収めると、魔術を発動した。

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