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闇夜に輝く幻想魔術~幻術師は世界から狙われている様です~  作者: 流れる蛍
【第一章】夕闇に輝く幻想魔術
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誇りある銀狼族シロ

今回はシロ視点です。

「あらシロ昼寝? いいですわね。のんびり過ごすのは、とてもいい事ですよ」

「シロ、俺達銀狼族は誇りある種族。数多の獣人の中で最速の種族。決して誇りに背く真似はするな」

頭の中でずっと声がする。優しい声と力強い声。

きっとこの声が私の両親なのだろう。

この声がすると、私は眠りにつく。何かに抱きしめられる様な、そんな心地で。




でも夢はいつも同じだ。

追われ、逃げて、隠れる。

昼間は隠れて、夜は潜んで、朝は目が覚めるのが怖い。

森の外は怖い。闇は怖い。人は怖い。生きるのは怖い。

怖い、恐ろしい、耐えられない。


いつもそこで目が覚める。

目が覚めると私は向かう。

あの人の傍に向かってしまう。

夢のせいで汗だくで、毛が多い私。

きっと寝苦しいだろう。

だけど私はあの人の元へ向かってしまう。

ごめんなさい、と呟きながら。


彼の近くで目を瞑ると、光景が変わる。

いつもと変わらない怒りの声から始まるが、私は耐えられる。

だって直ぐに大好きなあの人と出会うのだから。


「おいおい、銀狼族か? エルフの子供を人質にとっておいて負けた、クズで卑怯者の種族」

「こいつは奴隷にもならない。殺そうぜ」

「······お前ら人間族が、卑怯者だと······っ。よりにもよってお前らが······私達銀狼族をっ!」


その日、私は人間に見つかってしまった。

住んでいた少ない一族が集まった集落は、直ぐに見つかり滅ぼされた。

見つけるのはいつも人間族。

彼らは私たちを殺し、犯す。

集落で一番幼かった私は皆に匿われて無事だった。

仲間たちが嬲られ殺される光景を、私は何もすることなくただ物陰から見ているだけだった。


私達は彼らに何もしてないのに、何故か奴らは私を見つけると罵声を浴びせる。


私は銀狼族。速さなら誰にも負けない。

でもその日見た人間族は、妙な物を持っていた。

鉄の筒。

後で知ったのだが、銃と言う武器らしい。

東の帝国で発明された、魔力が無くても使える武器。


怒りのまま駆け出しそうになったが、その武器に嫌な予感を感じ、咄嗟に逃げ出した。


彼らは笑いながら私を追ってこない。


突如響く轟音。

足に焼け付く様な痛みが走る。


それからは必死で、足の様子も見ずに走った。

耳に残るのは人間達の笑い声。


彼らは命をなんだと思っているのだろうか。


走る足に力が入らなくて、その場に倒れる私。

見ると夥しい血が流れていた。


追ってこない人間たちは仕留めたと思ったのだろう。


ゆっくりと近づく足音。

足を引きずり逃げる私。


すると、いきなり頭上から声がした。


「君は?」

「に、人間族っ」


私は驚き、牙を剥き出しにして威嚇する。


気配がしなかった。音もしなかった。匂いもしなかった。今も。


声がするまで気が付かなかった。獣人族の私が。


だけど男は確かにそこにいた。自分と似た、灰色の髪をした男。


「待って。僕は君に危害を加えないよ。僕はただの······人だ」


「人間族? ······でも匂いが」


「君、名前は?」

「······ないのです。殺すなら殺してください。もう私は動けません。疲れました······殺してください」


「いや、殺さないよ。だってグロいし」


「追っ手が来ています。奴らに殺される位なら」

「あ、大丈夫だと思うよ。彼らは魔物に襲われてる」

「······え?」

彼の言葉に鼻を鳴らす。

確かに背後からは魔物の匂いと彼らの血の匂いがした。


「君、一人?」

「はい。村を人間族に襲われました」

「頑張ったんだ」

「でも······っ! 無駄でしたっ!」

「じゃあ、頑張ったご褒美に、君の傷を治してあげよう」

「······え」

「痛くないー、痛くないー。いいこー、いいこー。はい。どう?」


そうして彼は私の頭を撫でる。優しい、何だか懐かしい手だった。

いつの間にか私の痛みは消えていた。


「ま、傷が消えたわけじゃないからね。村で治療をしないと。······マキナに頼めばいいか。とりあえず、応急処置と。あ、噛まないでね」


そうやって彼は私の足に、包帯を巻いた。

触れる手に、鼓動が早くなるのを感じた。


「後は名前か。んー、白詰草からとって、シロはどう?」

「······シロ?」

その言葉は何だが聞いたことがあった気がした。


「白詰草の中には四葉のものがあってね。見つければ願いが叶うそうだよ。······君は見つけられる?」

「頑張るのです······あの··················私からも一ついいですか?」

「なに?」


「私を貴方の家族にしてくださいっ」


生まれて初めて、好意を伝えた。それも、人間族の男性に。

銀狼族は最速の種族。先手必勝と思ったのだ。


「あ、丁度良かった。僕も家族を集めていてね。じゃあ、一緒にいようか」


私はその声で顔が熱くなるのを感じた。

涙が出る。

表情が勝手に笑顔を作る。

私は彼の後に付いて行った。





「あ、ゲヘナ。今日から家のベットになるシロ。仲良くしてね」

「「············え?」」


そして私は何故か女の子にペットとして紹介された。

女の子はしばらく呆然としていたが、私の表情と彼の顔を見て納得したのか、私に哀れみの視線を向けた。


なぜだか私はそれがとても嫌だった。


「あ、ゲヘナ。転移で教会からマキナを連れて来て。急患だって」

「······分かった」

女の子は魔術でどこかに消えていった。。


「後はやっぱりお母さんが欲しいよね。優しくて、頼りがいのある······」


彼はそんな私に気づかず、一人で話している。

でもいいのだ。私は彼に拾われた。

時間なら沢山ある。

彼が作ってくれた。


仮に恋人として見られなくても彼と一緒に生きていきたい。そう心から思えたのだ。


でももちろん目標は高く、盛大に。

成り上がるのだ。

ペットから生涯の番へ。

下克上なのです。


「だって私は誇りある獣、銀狼族のシロなのですからっ!」





私は目を覚ます。

もう怖くはない。

だって、この夢を見る時はいつもーー。

次話からエピローグになります。

一章完結前に投稿済みの話を微調整します。

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