誇りある銀狼族シロ
今回はシロ視点です。
「あらシロ昼寝? いいですわね。のんびり過ごすのは、とてもいい事ですよ」
「シロ、俺達銀狼族は誇りある種族。数多の獣人の中で最速の種族。決して誇りに背く真似はするな」
頭の中でずっと声がする。優しい声と力強い声。
きっとこの声が私の両親なのだろう。
この声がすると、私は眠りにつく。何かに抱きしめられる様な、そんな心地で。
でも夢はいつも同じだ。
追われ、逃げて、隠れる。
昼間は隠れて、夜は潜んで、朝は目が覚めるのが怖い。
森の外は怖い。闇は怖い。人は怖い。生きるのは怖い。
怖い、恐ろしい、耐えられない。
いつもそこで目が覚める。
目が覚めると私は向かう。
あの人の傍に向かってしまう。
夢のせいで汗だくで、毛が多い私。
きっと寝苦しいだろう。
だけど私はあの人の元へ向かってしまう。
ごめんなさい、と呟きながら。
彼の近くで目を瞑ると、光景が変わる。
いつもと変わらない怒りの声から始まるが、私は耐えられる。
だって直ぐに大好きなあの人と出会うのだから。
「おいおい、銀狼族か? エルフの子供を人質にとっておいて負けた、クズで卑怯者の種族」
「こいつは奴隷にもならない。殺そうぜ」
「······お前ら人間族が、卑怯者だと······っ。よりにもよってお前らが······私達銀狼族をっ!」
その日、私は人間に見つかってしまった。
住んでいた少ない一族が集まった集落は、直ぐに見つかり滅ぼされた。
見つけるのはいつも人間族。
彼らは私たちを殺し、犯す。
集落で一番幼かった私は皆に匿われて無事だった。
仲間たちが嬲られ殺される光景を、私は何もすることなくただ物陰から見ているだけだった。
私達は彼らに何もしてないのに、何故か奴らは私を見つけると罵声を浴びせる。
私は銀狼族。速さなら誰にも負けない。
でもその日見た人間族は、妙な物を持っていた。
鉄の筒。
後で知ったのだが、銃と言う武器らしい。
東の帝国で発明された、魔力が無くても使える武器。
怒りのまま駆け出しそうになったが、その武器に嫌な予感を感じ、咄嗟に逃げ出した。
彼らは笑いながら私を追ってこない。
突如響く轟音。
足に焼け付く様な痛みが走る。
それからは必死で、足の様子も見ずに走った。
耳に残るのは人間達の笑い声。
彼らは命をなんだと思っているのだろうか。
走る足に力が入らなくて、その場に倒れる私。
見ると夥しい血が流れていた。
追ってこない人間たちは仕留めたと思ったのだろう。
ゆっくりと近づく足音。
足を引きずり逃げる私。
すると、いきなり頭上から声がした。
「君は?」
「に、人間族っ」
私は驚き、牙を剥き出しにして威嚇する。
気配がしなかった。音もしなかった。匂いもしなかった。今も。
声がするまで気が付かなかった。獣人族の私が。
だけど男は確かにそこにいた。自分と似た、灰色の髪をした男。
「待って。僕は君に危害を加えないよ。僕はただの······人だ」
「人間族? ······でも匂いが」
「君、名前は?」
「······ないのです。殺すなら殺してください。もう私は動けません。疲れました······殺してください」
「いや、殺さないよ。だってグロいし」
「追っ手が来ています。奴らに殺される位なら」
「あ、大丈夫だと思うよ。彼らは魔物に襲われてる」
「······え?」
彼の言葉に鼻を鳴らす。
確かに背後からは魔物の匂いと彼らの血の匂いがした。
「君、一人?」
「はい。村を人間族に襲われました」
「頑張ったんだ」
「でも······っ! 無駄でしたっ!」
「じゃあ、頑張ったご褒美に、君の傷を治してあげよう」
「······え」
「痛くないー、痛くないー。いいこー、いいこー。はい。どう?」
そうして彼は私の頭を撫でる。優しい、何だか懐かしい手だった。
いつの間にか私の痛みは消えていた。
「ま、傷が消えたわけじゃないからね。村で治療をしないと。······マキナに頼めばいいか。とりあえず、応急処置と。あ、噛まないでね」
そうやって彼は私の足に、包帯を巻いた。
触れる手に、鼓動が早くなるのを感じた。
「後は名前か。んー、白詰草からとって、シロはどう?」
「······シロ?」
その言葉は何だが聞いたことがあった気がした。
「白詰草の中には四葉のものがあってね。見つければ願いが叶うそうだよ。······君は見つけられる?」
「頑張るのです······あの··················私からも一ついいですか?」
「なに?」
「私を貴方の家族にしてくださいっ」
生まれて初めて、好意を伝えた。それも、人間族の男性に。
銀狼族は最速の種族。先手必勝と思ったのだ。
「あ、丁度良かった。僕も家族を集めていてね。じゃあ、一緒にいようか」
私はその声で顔が熱くなるのを感じた。
涙が出る。
表情が勝手に笑顔を作る。
私は彼の後に付いて行った。
「あ、ゲヘナ。今日から家のベットになるシロ。仲良くしてね」
「「············え?」」
そして私は何故か女の子にペットとして紹介された。
女の子はしばらく呆然としていたが、私の表情と彼の顔を見て納得したのか、私に哀れみの視線を向けた。
なぜだか私はそれがとても嫌だった。
「あ、ゲヘナ。転移で教会からマキナを連れて来て。急患だって」
「······分かった」
女の子は魔術でどこかに消えていった。。
「後はやっぱりお母さんが欲しいよね。優しくて、頼りがいのある······」
彼はそんな私に気づかず、一人で話している。
でもいいのだ。私は彼に拾われた。
時間なら沢山ある。
彼が作ってくれた。
仮に恋人として見られなくても彼と一緒に生きていきたい。そう心から思えたのだ。
でももちろん目標は高く、盛大に。
成り上がるのだ。
ペットから生涯の番へ。
下克上なのです。
「だって私は誇りある獣、銀狼族のシロなのですからっ!」
私は目を覚ます。
もう怖くはない。
だって、この夢を見る時はいつもーー。
次話からエピローグになります。
一章完結前に投稿済みの話を微調整します。




