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闇夜に輝く幻想魔術~幻術師は世界から狙われている様です~  作者: 流れる蛍
【第一章】夕闇に輝く幻想魔術
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宵闇に怒る幻術師

ゲノムが魔力を放出すると、野次馬達はそれぞれ首を傾げながら散っていった。

ゲノムは魔術の刻印を施し、彼らは今別々の光景を見ている。言うならば白昼夢を見た様な現象に襲われていた。

······最も、現実の方が夢だが。

それを確認すると、ゲノムは足を踏み入れる。手には転移の魔道具が握られていた。


「ゲノム」

「ゲノム」

ゲノムは心配の声を掛けるゲヘナとリッツを無視し、彼らの元へ転移する。


急に現れたゲノムに、ナンバーズの一人が声を上げる。


「なんだ貴様はっ! 貴様は我々のする事に文句があるのか!」

怒鳴り叫ぶ男に、ゲノムは笑顔で返事をする。


「······いや、名乗ろうと思って。僕が君達の探してい幻術師ゲノムだよ。よろしく」

「貴様が、ゲノム、だと?」


その言葉に、シロを攻撃していた手を止めるナンバーズ。


炎で、蹴りで、水で、拳で、雷で、何度も何度も暴力を受けたシロは傷だらけで意識を失っている。

対して、彼らの服は汚れているが、体に傷一つ無い。シロは抵抗すらしなかったのだろう。


それは、シロは瓦礫の下敷きになっていた男を助けようとしていたからだ。


移動の時に魔術を使いすぎて魔力が足らず、自分を守る魔道具を使えなかった男。


馬車を追うシロに、物を投げた男。


彼はとてつもない衝撃で城壁に衝突した。

城門が崩れた時に落ちた瓦礫から、力なく手だけが生えている。

地面には大量の血が流れ、誰が見てももう助からない。

それでも彼女は必死に瓦礫を退けようとしていた。

自分もかなりの衝撃を受けたと言うのに。

小さな手で、背後から攻撃されても、必死に。


「は、はは。この様な目になってしまったが、運は我々の味方のようだ! 探す手間が省けた!」


「良かった良かった。で、なに?」

ゲノムは笑顔のまま、首を傾げる。


「貴様の幻術を手に入れれば、逃げたガキなど不要。さあ、我らの軍門に下れ」

「一人失ったが、貴様が我らの仲間になれば、相応の利益が上がる。こやつも本望だ」

「幻術さえ手に入れれば、この世界を操ることが可能。貴様には選択肢など無い」


口々に言う彼らをゲノムは見ているが、見ていない。

人として、命として、魂として。

彼が見ているのは愛すべき家族と、それを穢す魑魅魍魎。人の世に存在してはいけない怪物だ。

貼り付けた笑顔からは静かな燃え盛る怒りが見える。


「··················で、なに?」

「? 我々の言う言葉が理解出来ないのか?」


ゲノムは動く。

微かにその姿がブレる。


「ーー僕はさ、家族と楽しく過ごせれば、それでいいんだ。まあ、日記の事は悪ノリしちゃったし、今でも少し見たいけど。でもさ、本当は僕はただ、皆に自由に過ごして欲しかっただけなんだ。だってさ、日記なんて僕が本気を出せばすぐに手に入る。君達が持つ試作品に頼らなくてもさ」

「貴様、何を言って······?」


ゲノムは彼らの横に現れ、一人懺悔する様に言う。


「今回の事はただのイベントのつもりだったんだよ。じゃないと二人は森の外にすら出ないからね。予定では君達がこの国に来たあと、僕は二人を眺めながらゆっくりと探すつもりだった。でもさ························なにこれ?」


背後から聞こえる声に振り向くも、そこには誰もいない。


「魔物を暴走させて、城壁を壊して、仲間を一人殺して、助けようとした僕の家族を傷つける。それって人のする事?」


振り向くとゲノムは元いた場所にいた。

そして、一歩、足を進める。


「······僕の家族に、シロに、君達、何してるの?」

男は目を見開き、ただ笑う。


「銀狼族が家族だと? 何を言っている。銀狼族は世界を蝕む害虫だぞ!」


「だから何をしてもいい? なんで? この子が君達に何かした? 銀狼族が人間達に何かした? ············ごめんね。僕には君達が何を言っているのか分からない」


「分からないか? 銀狼族は歴史的弱者だ。力の強いものが弱いものを虐げて何が悪い。歴史はそうやって動いてきた。それが悪いと言うものは偽善者だ」


「そう。じゃあ、僕は何も言わないよ」

ゲノムはいつの間にかシロの元へ転移していた。

そして膝まづくと優しげな手で少女を撫でる。

ゆっくりと、ゆっくりと。


「······そう。駄目だな。君達。もう、駄目だ」


「人は生まれ変わらない。精神は生物だ。腐った物はもう、死んでも腐り続ける」

「く、くそ、なんださっきからーー························っ」


ナンバーズの男が手に持っていた銃でゲノムを打つ。しかし、ゲノムにもシロにも弾は当たらず、遠い所から硬い音がした。


「な、なぜ当たらない。幻術か!」

「そうだね、これは幻術だ。でも、だからどうした? 君達にそれを防げるの? ··················ああ、君達は魔術を研究する組織なんだってね。良かったじゃん。さあ、解析してみなよ。ほら」


「······見ただけで出来るわけがないだろうが!!」

男の挑発に、ナンバーズが叫ぶ。


「何を言ってるの? 君達が捨てた少年。名前は知らないけど。彼は僕の魔道具を見るだけで解析したんだよ? なんで君達が出来ないの?」

「············あんなガキが、だと······っ!?」


「··················ああ、なるほど。これじゃ規模が小さいんだ。わかった、これならどう?」


男は手を翳す。

まるで打ってくださいと言わんばかりの光景だか、誰も動けない。

彼の出す強大な、幻想的な輝きを持つ魔力によって。


その様子に、冷たい眼差しの男、ゲノムは呟く。

酷く、冷たく、冷徹に。


「ーー『幻獣』」


膨れ上がる魔力。

空気中に飽和できない魔素が渦巻き、姿を形作る。


「······なんだ、その化け物は······っ!?」


現れたのは巨大な狼。白銀の毛並みに鋭い眼孔、剥き出された鋭い牙。

体毛を逆立てながら佇むその姿は恐怖を超越し、畏怖を感じる。


「孤高の獣神、ーー銀狼フェンリル」


獣は怒る。唸り声を上げて。

鼻に皺を寄せ、牙を剥き出しに。

その怒りは誰のものか。冷ややかな目で笑みを浮かべる男か、それともーー。


「し、所詮幻術、まやかしだ」

「分かってるね。これは幻術だ。ただし」


ゲノムが腕を振るうと、フェンリルも腕を振るう。

その爪が当たった男の体が腹が引き裂かれる。

切り裂かれた腹から多くの血が臓物が流れ、男は痛みに蹲る。


「ぐ、き、傷が······」

「当然だよ。そう感じさせているからね。安心しなよ、全て幻術。死にはしない」


ただし、とゲノムは口を開く。銀狼も同じく口を開ける。


「痛みもある。感覚もある。傷もある。匂いもある。音もある。恐怖もある。さあ、目の前の現実は、どっちかな?」


「············ひっ」


蹂躙が始まる。

次々と体から血が、臓物が、意識が飛ぶ。


男は笑う。

獣は牙を剥く。

対する者は、震える事しか出来なかった。

ゲノムの怒り!

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