シロの苦戦
魔物の気配を察知し、匂いを頼りに辿り着いたシロは、暴走する馬車を見つけた。
このままではグランリノにぶつかると思った彼女は、暴走する魔物を止めようとし、馬の手綱を引っ張る。
しかし馬は想像以上に強く、軽いシロでは引きずられてしまった。
「や、ヤバいのです! ぶつかるのです」
引きずられながら四苦八苦するシロ。
すると彼女目掛けて攻撃魔術が放たれ、シロは体を捻って回避した。
「な、なんだ貴様は! 我々をどうするつもりだ!」
「獣人族だと! 人擬きの分際で我らが高尚な馬車にふれるな!」
「わ、私はこの馬車を止めに来ただけなのですよ! 信じて欲しいのです!」
「は、獣の分際で人の言葉を話すな!」
「この手網を切れば、なんとかっ」
シロは足に取り付けてあるナイフを取り出すと、馬と馬車を切り離しにかかる。
しかし何らかの魔術が付与されてあるようで、全く刃が通らない、
「おい、何をしている! 穢らわしい! この馬は我らの馬だぞ!」
「見ろ、心無しか速度が増している気がするぞ。貴様が触れているからだ!」
「ち、違うのです! そんな事言ってる場合ではないのです! この馬車がぶつかったらあなた達も危ないのですよ!」
「は、我々を侮辱するかこの獣め! 我らと他の無能どもを一緒にするな!」
「貴方達が無事でも、凄い被害が出るのですよ!」
「そんなの知ったことでは無い! いいから離れろ!」
「痛いのです! なんで攻撃するのですか! 私はただ、皆を助けたいだけなのです!」
「それが不要と言っているのだ! いいから我らの馬から手を離せ! この馬は我らの仲間になったのだ! 見ろ! この素晴らしい鞍を!」
「全然喜んでないのですよ! 何ですかその変な布! 痛い、痛いのです。物を投げないで欲しいのです!」
「ええい! 離れろ! 」
「駄目なのです。これじゃ間に合わないのです! ごめんなさい」
徐々に迫り来る城壁。
シロは手綱を切る事を諦め、馬の方を止めようとナイフをその首筋に当てる。
しかし、それを見たナンバーズにより本格的な攻撃が始まる。
「貴様、我らの馬に何をする! 止めろ!!」
そのせいで手元が狂い、ナイフが当たらない。
やっとの思いで馬を絶命させたシロだが、その時城壁は目前だった。
「あ、ぶつかるのです······」
☆
ナンバーズとシロは、凄まじい勢いのまま、城壁に衝突した。
衝撃で城壁の一部が崩れ、馬車を下敷きにする。
一部始終を見ていた野次馬がそれを見て悲鳴を上げた。
地面に血が流れる。
しばらく無言の中、状況を見守る野次馬達。
そして、瓦礫の中から四人の男たちが這い出てくる。
ナンバーズだ。
出て来ないナンバーズの一人は馬車に皆が飛ばされない様に魔術を使っていた為、魔道具を使えなかったのだ。
「はあ。えらい目に会いましたな。念の為防御の魔道具を持っていて正解でしたな」
「ふむ。一人足りませんが、まあいいでしょう」
「しかし、あの獣人族は何だったのでしょうか?」
「ふん。大方我らを狙う刺客か何かでしょう」
「あぅ。痛いのです」
シロは目を覚ました。
痛む足を見ると、曲がっては行けない方向に曲がっていた。
全身からは小さな切り傷が広がっている。
何とか立ち上がろうと、地面に手を着くと血溜まりに手が触れる。
匂いから自分の血ではないと感じたシロは、瓦礫の下に人が埋まっているのを発見した。
「た、大変なのです!」
彼女は足を引きずりながら、埋まる人を助けるために進んだ。
「おや、生きている様ですぞ」
「ふむ? 何やら姿が妙ではありませんか? 二つの姿が重なっているような······」
「·········っ!? あのローブ、魔道具ですぞ!!」
「ならば手に入れなくてはならない。丁度足が折れている様ですしね」
男たちはシロに向かって歩き出す。
「ふむ。獣人族に触れるのは嫌ですな」
「ならば、殺してから剥ぎとれば良いのでは?」
「確かに。死ねばモノだ。それに、我々にはこの銃がある」
「あの怪我では動けまい。外さないで下さいよ」
辺りに銃声が響き渡る。
だが、男たちの目論見は叶わなかった。
シロは銃を知っていた。
以前嗅いだことのある特徴的な匂いに体が反応したのだ。
咄嗟に横に避けるシロ。
体に弾は当たらなかったが、代わりにローブに穴が空いてしまった。
ローブは魔道具だ。
緻密な刻印によって魔術の発動を実現するもの。
込められた魔力は刻印を回路の様に巡回する。
大抵の傷では回路が狂うことはないが、穴が空いてしまった今、彼女に施されていた魔術が解ける。
ーー幻術が解かれてしまう。
黒く見えていた彼女の色は灰色、白色と代わり、銀色に輝く体毛となる。
それは、傍から見れば美しく、夕日に照らされ白金色に光る。
だが、その姿は過去の戦争で卑怯な手段を用いて国を手に入れようとした逆賊の姿。
見とれるものなど、誰一人いなかった。
男達も、野次馬も、誰一人。
我に返ったナンバーズの一人が叫ぶ。
「何故銀狼族がここにいる······っ!!!!」
切りが悪いのでここ数話は短めにしています。




