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闇夜に輝く幻想魔術~幻術師は世界から狙われている様です~  作者: 流れる蛍
【第一章】夕闇に輝く幻想魔術
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ユウの日常

1話目の前にダストダス編を差込み投稿しました。

ダストダスでゲノムが好き勝手する単話です。

読んでいただければ、よりこの作品が分かるようになっています。


「ふん。奴らが居ないと静かでいい」


その日は珍しく、ユウは研究を止めて教会内でお茶をしていた。

さすがに白衣は来ておらず、普段下に着ている神父服が見えている。

向かいに座るのは教会唯一のシスター、マキナである。

大きな胸に、修道服を着た女性だ。

現在普段頭に付けたウィンプルを外している。


「マス、神父様は賑やかな方が好きなのでは?」

「馬鹿を言うな。それとマキナ、我の事をマスターと呼びそうになるその癖はどうにもならんのか?」

「それは目が覚めた私に、マスターと呼べと言った神父様が悪いのでしょう?」


少女の様にぷくっと頬を膨らますマキナに、ユウは破顔する。


「はっ。君はもう二十をとっくに過ぎているのに、その態度はどうかと思うぞ」

「もう、いつもそう言って。知りませんよ? 夕飯の食事にこっそり人参が紛れても」

「それでもマキナは美味しく作るのだろう?」

「あら? なら今日の夕飯は人参尽くしにしましょう」

「む。それは困る」

「ふふっ。知りません」

仏頂面で困り顔のユウに、朗らかに笑うマキナ。

この姿が普段の二人だった。


「時に、地下の娘たちの様子はどうだ?」

「············あまり芳しく無いですね。元々あった体の傷は完治に近いのですが、次々と自分で新しい傷をつけてしまって······。やはり、心の傷は時間がかかります。······ゲノムさんの魔道具で、回復はしているみたいですが」


教会の地下には、大勢の子供達が暮らしている。

その子供達は、とある国で奴隷だった者が多く、心に大きな傷を抱えていた。

地下にはゲノムの刻印が壁一面に刻まれていて、地下であるにも関わらず一つの楽園の様な光景になっている。彼らは潜在的に見たい光景を見ていた。


マキナはそんな子供達を甲斐甲斐しく世話をしていた。

傷の手当をしたり、食事の世話をしたり、糞尿の片付けまで、全て一人で。


時には襲いかかってくる者もいるが、塞ぎ込み動かない者が殆どである。


ユウがいつも作っている機器や薬品は、子供達の安全を守るもの、子供達の体を癒す物、そして、彼女の身を守る物、彼女を治すものが全てである。

偶にケータイの様な副産物が出来ることもあるが。


「君の存在もあの子達の癒しだ。それにゲノムが無理なら、世界中の魔術師でも無理だ。神聖国の治癒魔術師でもな」

「そうですか。ふふ」

「なんだ?」

急に笑いだしたマキナに、ユウは訝しげな目を向ける。


「いいえ。随分とゲノムさんを信頼していると思いまして」

「まあな。長い付き合いだからな。······奴は性格こそ破綻しているが、魔術の腕だけは確かだ。だからこそ我は奴を呼ぶ時、敬意を込め貴殿と呼んでいる」

「性格ですか?······言うほどゲノムさんは性格が悪いでしょうか? 確かに色々と容赦がない所はありますが」


マキナから見るゲノムの姿は、偶に幻術で無茶をする、家族思いの年下の男性だ。どちらかと言うなら、性格がいい。


「············奴は、奴の性格は、心は、壊れている」

「いえ、でも私は」

「君がそれを分からないなら、君はまだこの世界を知らないと言うことだ。それは、とてもいい事だ」

「······そう言えば、昔ゲノムさんと神父様は一緒に旅をしていたんでしたっけ?」

「············珍しいな。君は昔の事を聞きたがらないのに」

ユウが言う通り、彼女が昔の事を聞くのは初めての事。ユウもそれを感じ、あえて話を降らなかった。


「············ええ。私も少しづつ進まなくては、と。ゲノムさんと出会った、ゲヘナちゃんやシロちゃんの様に」

「ふん。ゴル姉の事を忘れているぞ」

「あら、忘れてませんよ。彼女は強いですから。······ところで、何故神父様はゴル姉様の事をあだ名で呼ぶんですか? 普段ならゴルゴンディアと呼びそうなのに」

「いや、大したことは無い。前にゴルゴンディアと呼んだ時酷い目に合っただけだ············脱線してしまったな。ゲノムとの旅の話だったか」

「あら、誤魔化しましたね?」

見破られたユウは鼻で笑う。


「ふん。············そうだな。我とゲノム、そして」

「マキナ、ですよね? 私と同じ名前の」

「ああ。我達が出会ったのは北の大国のーー」

そしてユウは語る。

黒雷の英雄と呼ばれる一人の神官、ユーカリスの物語を。そして彼と共に居た少女と、幻術師の少年の物語を。





「へくしっ」

ゲノムは街中で大きなクシャミをした。


「ふふ。皆僕の噂ばかりの様だ······」


彼は今日も街中をふらついていた。

それもそうである。彼はこの国で特にすることが無いのだ。

有り体に言えば無職である。


この国では子供と主婦以外に無職というのは有り得ない。

勤勉な国民性もあるが、生きるのには当然お金がいるし、お金を稼ぐには働かなくてはならない。


もしこの国に産まれたならば、商人の息子は商人に。農家の息子は農家に。兄弟がいれば騎士団に、女性は十四で成人し結婚する。女性はこの国では少ないので嫁ぎ先には困らない。騎士団に落ちたもの、結婚したくない者は冒険者になる。


その為、日中何もしない彼の姿は、かなり浮いていた。

この国の住民では無いことや、クーデターでの評判もあり、冷めた視線は向けられないが、興味の視線は向けられる。

「働けよ」では無く、「何してるんだろう?」といった感じで。とある屋台の店主に限っては「来ないでくれ」だが。


「そう言えば、ここって観光名所とかないよね。なんで?」

願いが通じず、屋台の店主はゲノムに捕まってしまった。


「いや、観光する場所があったら、この国はもっと大きくなってますよ」

「え? じゃあなんでこの国に住んでるの?」

自分は辺境の森に住んでいるにも関わらず、酷い言い草だ。

「なんと言っても安全性でしょう。大国から守護の魔道具を借り受けてますからね。それに、辺りには魔物が少なく、大自然が広がってます。その資源を旅の商人に売ってこの国は潤っているんですよ。逆を言えば、行商人と冒険者くらいしか外の人間は来ないわけで······」

「へぇー······」

「あれ、興味あります?」

「いや、別に」

「ところで、何か買われますか?」

「タダ?」

「いやあ、タダと言う訳には」

「じゃ、いらない」

「あ、そうですか······」


「あ、あ、あ、貴方は!?」

「ん?」


突如背後からかかるスタッカート。

そこには一人の少年が立っていた。

気弱そうな顔立ちに、興奮の表情を浮かべた、耳のとがった男の子である。


「間違っていたらすいません。幻術師、ゲノムさんでは!?」

「あ、人違いです」


ゲノムは瞬時に幻術で姿を変えた。

ローブの魔道具を使っての方法ではなく、彼自身の魔術で。

彼は黒いローブを好んで使っているが、ほとんどの場合使わない。彼は何となく家族とのお揃いが好きで着ているだけなのだ。


急に現れた少年に、屋台の店主も驚いて見ている。


「······あれ? あ、本当だ。おかしいな、確かにそうだと思ったんだけど······」

「まあ、よくある事だよ。それで、君は?」

「あ、すいません。僕は少し、ある人を探して旅をしてまして。············あれ? そのローブ、魔道具では?」

「え? 良く分かったね」

「はい。解析には自信があるんですよ。······でも、それは······理論が分からないな······。なんて複雑で緻密な刻印。しかも破綻してない。······まさかっ! 噂の宝具と言う物では!?」

「··················そうだよ」

嘘である。


「やっぱり! ああ、すいません! 人の物をジロジロ見るなんて、失礼でしたよね。では、また」

「あ、ちょっと待って」

踵を返しかけた少年を、ゲノムは引き止める。


「はい?」

「一応聞くけどさ、魔連って知ってる?」

「··················なぜそんな事を?」


胡乱な目を向けた少年に、ゲノムは情報を聞くことを諦めた。

きっとこの少年は魔連が追っているという、解析班の少年だろう。ならばナンバーズが迫って来ている今、特に急いで聞く必要は無いと判断したのだ。


だが、聞いてしまった事は翻えらない。ゲノムは彼の首に掛けてある石を指さし、取り繕う。


「いや、君も魔道具を持ってるからさ。一応伝えておいた方がいいと思って」

「え、よく気が付きましたね。これ、刻印はもう機能してないのに············ああ、この国はゲノムさんに。なるほど。御慧眼です」

「うん。彼らがこの国に向かってるみたいなんだ。多分、今日にでも」

「············あの年寄り共。············忠告ありがとうございます。では直ぐにこの国を発ちます。あ············では僕からも一つ」

「なに?」

少年はゲノムに近ずき、小さな声で耳打ちをする。


「貴方は違うので伝えますが、この国、洗脳されています。国民の額に刻印が刻まれていました。············この国の新王は中々非道な真似をしています。お気をつけください」

「··················分かった。ありがとう」


少年はぺこりと一礼すると、城門の方角へ去って行った。

「見える人から見ればそうなるのか············早く解いておかないと」


少年を見送ったあと、ゲノムは屋台の店主に振り返る


「ところでさあ」

「な、何ですかゲノムさん。まだ、何か?」

「君、邪神教徒だよね?」





「······ーーそんな事があったんですか」

「ああ。奴と会った時はまだ小さくてな。事あれば馬鹿にする憎たらしい奴だった。魔術は便利だったから重宝していたが」

「ふふ。それは今も変わらないですね」

「奴は事もあろうか幻術で姿を変え、女湯に侵入したのだ。直ぐにバレて牢獄入りされたがな」

「あら、彼にも思春期があったのね。今はシロちゃんやゲヘナちゃんからあんなにアピールされても気にしないのに」

「やつにとっては家族だからだろう。それに、鈍いのはここにもいるからな······」

「神父様の事ですね」

「······それで、我とマキナは牢獄に捕まっている奴を救ったのだがーー」

「あ、すいません。いい所ですけど、あの子達の食事を支度しないと······」

「む? もうそんな時間か。君と話していると時間の進みが早い」

「私ではなくて、ゲノムさんの話をしていると、ですよね?」

「············ふん」

「あの、ちゃんと、ちゃんとしたら、その······」

「············なんだ?」

「············い、いえ、何でもありません。では、行ってきます」

「ああ。頑張れ」

「はい! ふふっ」

次話は17時過ぎに投稿します。

少々更新頻度が多目ですが、連休中に物語を動かしたかったので······。

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