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闇夜に輝く幻想魔術~幻術師は世界から狙われている様です~  作者: 流れる蛍
【第一章】夕闇に輝く幻想魔術
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【序章】闇夜に輝く幻術魔術①

1章はキャラ紹介と、伏線回です。

コメディ要素は2章からになります。

「ゲノムさん、そろそろ宿代払ってくれやせんかねぇ!!」


王都グランリノの宿屋リッツガーデン。上手い飯と清潔なベッドが売りの、店主が強面な以外文句の付けようの無い冒険者御用達の宿屋である。


そんな宿屋の看板娘ならぬ看板店主は、額に青筋を浮かべてゲノムと呼ばれる一人の男を睨んでる。何故かカウンターの上には小さな石が置かれていた。


時刻は早朝。


周りには多くの野次馬が二人のやり取りを遠目で眺めている。彼らの視線は同情を帯び、その全てが店主に注がれていたが。


「宿代って、こないだ払ったじゃん」


男が声を出す。黒色のローブを見に纏った灰色の髪の、成人間もないだろう細身の男性。

髪はボサボサなうえ肌も若干薄汚れているが、身につけるものはどれも綺麗に整っているので妙に違和感を覚える。


「払ってねぇだろうが!!」


店主が拳を振り下げる。

木製のカウンターから小さな木片が飛び、野次馬から小さな悲鳴が上がる。しかし肝心のゲノムはヤレヤレと首を振り口元に笑みを浮かべた。


「全く、たった先週の事なのにもう忘れるなんて」

「渡された金貨が本物ならなんも言わねえよ! だがありゃなんだ!? 朝見たらこいつになってたぞ!?」

店主はカウンターに置かれた石を指差す。

「···知らないよ。仮にその金貨が偽物でも、その場で気付かなかったのはそっちの非じゃない。今更気づいて怒鳴って、そうやって他人に責任を擦り付けるのって、僕良くないと思うな」

「てめぇ···! 言っておくが、お前の正体は知ってんだよ、幻術師!!」

「え? 幻術師?」

何それ、と小首を傾げるゲノムに店主は青筋を浮かべる。


幻術とはここ数年の間に発見された魔術の一つで、発見されたのが最近であることから、使える者はほとんどいない魔術である。その存在が公になってからは、犯罪に多様される恐れから世界中の人々から恐れられている。

そして現在、その魔術が使えるのはただ一人とされていて、灰色の髪のゲノムと言う男らしい。宿屋に貼り付けられた人相書きは目の前の男と酷似していた。


「い、いや違うって。僕そんなの知らないよ!」

人相書きに気付き、先程までの余裕は何処へ行ったのか急に慌て出すゲノム。

「お前、ここら一帯の店でも同じ事やってんだろう。最近金貨が石ころになったって奴が大勢いるんだ。全部てめえの仕業だろうがよ!」

「ま、待ってくれ! 言いがかりだよ。大体······証拠、証拠はどこにあるのさ。まさかとは思うけど、その石ころがそうとでも言うつもり?」

「っ!?」

「やめてくれ、そんな薄っぺらい根拠で犯罪者にしないでよ。僕だって暇じゃないんだ」

「てめえ、ペラペラと······」

怒りのあまり店主は手に持つ石を握り潰すが、彼は怯むことなく笑顔を取り繕い、振り返る。

「そうだ、皆に聞こうよ。僕は記憶力がいいんだ。支払いをした時にいた人は覚えてるんだ。ね?」

数人目が合うが、直ぐに逸らす。誰だって巻き込まれたくない。

「······あれ?」

暫し沈黙が続くが、店主の盛大な舌打ちにその場の全員が姿勢を正す。

「······お前みてぇなのを泊めちまったのが運の尽きか」

「だから言いがかりだって。とりあえず謝ってくれれば今はそれで許してあげるから、ね?」

「てめぇ」

再び訪れる沈黙。埒が明かないと感じたのか、今度はゲノムが大きなため息を吐いた。

「じゃあまた払えばいいんでしょ」

そう言って彼は懐の麻袋から硬貨を二枚取り出し、丁寧にカウンターに置く。

「はい、金貨二枚。お釣りは取っておいて」

「何が釣りだ! 丁度じゃねえか!」

そう言って金貨に手を伸ばすも、何かに気づいてかピタリと止まる。

「···いや待てよ、また偽物じゃねえのか?」

じろり、と金貨から彼に向けられた視線にゲノムは顔ごと逸らす。

「···本物だって」

「はん。こいつを用意しておいて良かったぜ」

そう言って店主はカウンターの中から鈍色の鉱石に見える何かを取り出した。微かに紋様が浮き出ている。

「え、何それ。魔道具?」

「しらねえか? 魔力感知器だ」

「ぇ······」

冷や汗を流しながら蒼白になるゲノムを見て、店主はニヤリと笑う。

「どうした、顔色悪いじゃねえか」

「······そんなことないよ」

「こいつは旅の行商人から買ったものでな。魔術が掛かった物に翳すと光るって魔道具よ。このようになーー」

が、鉱石は光を放つ事無く沈黙したまま。

愕然とした店主が顔を上げる頃にはゲノムは入口を飛び出していた。


「はは。だから本物だって言ったじゃん。じゃ、またね!」

「ああ、クソっアイツめ!!」





少女は駆けていた。

襲い来る魔物をなぎ倒し、木々を切り裂き、草花を掻き分けながら。


銀色の少女が想うは一人の青年。灰色の髪に和やかな笑みを貼り付けた、とても家族思いな人。


そして、ひとりぼっちだった私を助けてくれた人。


「ゲノム、私が一番に迎えに行くのですっ」


手足を使い、少女は掛ける。鼻をヒクつかせながら。


「でも、遠すぎなのです。ゲノムぅ」


だが彼女の足は止まらない。


小さな銀の光が草原を駆ける。

ゲノムが薄汚れているのは、決して彼が不潔だからではありません。

鼻がいい家族が見つけやすいようにあえてそうしているのです。

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