【閑話】賞金稼ぎと幻術師
割り込み二話目です。
「ザイルさん。やはり奴はここを通りましたね」
「ああ。奴が住んでいると思われる幻惑の森はこの道を通らなくては進めんからな」
名も無き村の代表ザイルは、ゲノム達を馬小屋に送り届けた後、自身の家で仲間たちと打ち合わせをしていた。
急ごしらえで出来た荒屋には数十人の賞金稼ぎがひしめき合っている。
入り切らなかった者は村で村人役を演じていたり、ゲノム達を監視したりしている。
「しかし、こんな人数集める必要があったのですか? 目的はたった一人でしょう?」
賞金稼ぎの一人がザイルに意見する。
「最初に言っただろ。奴は世界中の賞金稼ぎから狙われて尚捕まらずにいる。さらにダストダスのストラスを打ち倒したとの噂まであるしな」
ザイルの言葉に賞金稼ぎはざわめき出す。
それ程魔槍を操る最強の槍使いストラスの名前は響き渡っていた。噂との事で半信半疑の様だが。
「な、ならば幻惑の森へ向かう方が確実だったのでは? こんな村まで作らなくとも······」
「幻惑の森は攻略不可能だ。とっくに大国の軍隊が試している。百人を超えた兵士が行方不明だとよ」
「そ、それは············。し、しかし、それが奴の仕業とは」
「ああ。そうとは限らねえ。だが、それだけ奴の幻術って魔術は未知数なんだよ。かの魔導国だって未だ解析出来てないんだ。この人数と村は保険さ。油断させて寝込みを襲う、な」
「ところで、一緒にいる二人の女はどうするんで?」
「そっちは知らん、お前らの好きにしろ。報酬は幻術師だけで充分どころか人生にお釣りが出る。この人数で分けようともな」
ザイルの言葉に賞金稼ぎが歓声を上げる。
「決行は今夜、奴らが寝静まったらだ。気を張れよ」
「「「はいっ」」」
☆
「ふう。さっぱり」
ゲノムは水浴びを終え、馬小屋に戻ってきた。
ボサボサだった髪は綺麗に整えられ、シロの涎だらけだった体は綺麗に磨かれた。
「誰も来なかった?」
「うん。見張りに結構な人数潜んでるけど、見てるだけ」
「あ、それ私が言ったことなのです! ゲノム、私が調べたのですよ!」
「よしよし、シロ。よく頑張った。ゲヘナ、人の手柄を奪うんじゃないよ」
撫でられ褒められるシロを見てゲヘナは口をとがらせる。
「むう」
「ならきっと動くのは夜だね。僕らが寝るのを待ってから奇襲をかけるつもりだと思う」
「なら、寝ないで待つ?」
ゲヘナの提案にゲノムは首を振る。
「いや、大丈夫でしょ。二人は寝てて。特にゲヘナは明日僕たちを村に帰さないといけないんだから」
「確かに三人の転移は辛い。実はもう限界。おやすみ」
「うん。おやすみ」
ゲヘナは積み上げられた藁の上に寝転ぶと、次第に静かな寝息が聞こえてきた。
「ゲヘナはしっかり休んでください。ゲノムの護衛は私がするのです」
「シロも休んでいいよ。いつになく口数が少なかったし、実はもう限界なんでしょ?」
「む。シロを見くびらないで下さい······っ」
「ほら、船こき始めたし。ゆっくりお休み」
「む、私は、まだ、、、」
「もう······」
ゲノムは寄りかかって眠る白を抱き抱え、ゲヘナの隣に寝かせた。
「······もうすぐ日が暮れるな。僕も寝るか」
そう声を出すと、ゲノムは魔術を発動させて眠りに付いた。
「ーーザイルさん。眠った様です」
「少し想定より早いが、まあいい。拉致るぞ。奴は生け捕りじゃないと報酬が発生しねえ」
「「「はいっ」」」
☆
賞金稼ぎはいとも簡単に馬小屋へ侵入を果たした。
藁の上には三人の男女。確かに今日見た顔と一致している。
彼らはプロである。足音を立てずに歩くなんて息をするほど簡単なスキルだ。
準備も万全にした。武器の手入れも万全。人数だっている。油断もしていない。
警戒は十二分にした。村にはネズミ一匹だって入れていない。
だからこそ彼らは今目の前に広がる光景が信じられなかった。
(ーー我の眠りを妨げるのは誰だ)
「な、何だ、どこから声が······っ」
頭の中に響き渡る声に賞金稼ぎは狼狽える。
(ーー我の深淵たる安らぎを邪魔する者には)
「う、後ろっ!?」
振り向くが、そこには誰もいない。
(ーー天地を脅かす災害に見舞われるだろう)
「············」
ギョロりと男が目を覚ます。
「ひ············っ」
男たちは悲鳴を上げる。
その体はふたつに裂け、みっつ、よっつに分裂する。
分裂したその断面には肉が、内蔵が見え、おぞましい虫の四肢がいくつも生えている。
カサカサと音を立てながら、無数に別れた肉片が馬小屋中を這いずり回る。
「な、なんだこれは······っ!?」
男たちが耐えられず馬小屋を出る。
するとそこに広がるのはこの世の物とは思えない光景。
かつて村があった場所に広がるのは、焼けた大地とドロドロに溶けたマグマ。
そこら中に巨大な虫の魔物が這い周り、仲間の賞金稼ぎを貪り食っている。
バリ、ボリと不快な音が聞こえ、頭上をみると。
人の頭に触手が生えた生き物が、人の腕を噛みながらこちらを見ていた。
ボタっと食いちぎられた腕が頭の上に落ちる。
男たちは、意識を失った。
☆
翌朝、ゲノムが目を覚ますと、開放された入口から漂う異臭に顔を顰めた。
二人を起こし外に出ると、そこには地獄絵図が広がっていた。
物陰で震える者はまだいい方だ。他には気絶し糞尿を垂れ流す者、空を仰ぎ独り言を呟く者、正気を失い二人で追いかけっこする者など様々だった。
「············ゲヘナ、転移」
「······うん。ゲノム、やり過ぎ」
「私も早くここから出たいのです」
自分のせいにも関わらず見なかった事にするゲノム。
呆れるゲヘナ。
鼻をつまむシロ。
三人は自分の家へ逃げるように転移した。