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闇夜に輝く幻想魔術~幻術師は世界から狙われている様です~  作者: 流れる蛍
【第一章】夕闇に輝く幻想魔術
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ちょっとしたエピローグ

「君には何とお礼を言っても言いきれない。本当にありがとう」

「いいよ、皆にも散々言われたし、報酬も貰ったからね」


夜はすっかり明け、時刻は早朝。

クーデター成功後、王都で開催された祝賀会で、ゲノムはすれ違う人々からのお礼ラッシュだった。

特に最後の最後にクーデターを知らされた、とある宿屋の店主からは、土下座までされていた。

現在、王城は立ち入り禁止になっている。死体は運び終わったが、至る所に血などが飛び散っていて、人が過ごせる環境では無いからだ。今日一日かけて国民総出で掃除をするらしい。


「しかし、あんな物で良かったのかい? 私としては助かるが」

「うん。これ以上貰うとバチが当たりそうだし」


ゲノムは大きな風呂敷を背負っていた。中身は兵士が身に付けていた鎧の装飾品。それと地下牢の鉄柵一本だ。リッツは申し訳無さそうだったが、ゲノムは実に満足そうだ。


「しかし、王女殿下は何処にいるのだろう。皆に聞いても妙な視線をくれるばかりで、教えてくれないんだ」

「えっ!?」


ゲノムはずっと無言で佇んでいた、リッツの隣に立つ少女を見る。胸に詰め物はやめたらしい。

少女は俯き顔を赤くしている。

「······マジで?」


ゲノムは信じられない者を見る目をする。この男は唯の一ギルド職員が、国民を束ね、クーデターに参加させたとでも思っているらしい。

城の構造を把握し、貴族の顔を覚え、指揮をしていた彼女を何だと思っているのだろうか。現に遅れて来たはずの騎士団も彼女の命令に最敬礼で応えていた。気付いていないのは彼くらいのものだ。


彼女も彼女で、言い出す時間はいくらでもあったはずだ。

まさか。と、ゲノムは考えが浮かび、彼女に耳打ちする。


「······自分の指揮を見て、まさか貴女は! みたいな展開がしたかったとか? でも気付いてくれなくて言い出せなかったと?」

「······」

図星のようだ。彼女の赤みが更に増す。


リッツは顔を赤くする彼女に向かい、腰を折る。

「君もありがとう。私は彼を見送った後、王女殿下を探さなくてはならない。お礼は殿下を見つけたら必ずすると約束しよう。では」

そして足を進めるリッツに、少女は手を伸ばす。


「ま、待ってくださいリッツ。その、伝えるタイミングが無く言いそびれて降りましたが、私はーー」

引き止めるギルド職員改め、ティア王女に、リッツは何かを思い出したかの様に振り返った。


「ところで、君は良く胸に詰め物をするとゲノムから聞いたが、そんなことはしなくて良いと思うよ。君みたいな体型が好きって人は必ずいるから」

「············ゲノムさん」

「はいっ」

「私の幻術を解いてください」

「畏まりました!」

殺気を全身から漂わせるギルドの受付嬢改めティア王女に、ゲノムはこくこくと頷く事しか出来なかった。

何もわからず爽やかな笑顔のリッツが自身の無礼に気付くまで、あと数秒。





「まさか、王女殿下だったとは」

「あれで気づかない方がどうかと思うよ。許してくれたんだしいいじゃん」


王都と街道の境目、白く大きな城壁の前に二人はいた。

城門の前はクーデターがつい昨夜の事にも関わらず、活気立っていた。商品を運ぶ馬車の音。客を呼込む屋台の声や腹痛を訴え薬を求める声、冒険者の荒々しい足音など、騒がしい。

「この国は、変な国だね」

「はは。確かに」


城門を出て、しばらく道なりに進む。

「本当に、ここでいいのかい?」

「うん。多分、家族が迎えに来ると思うから······」


すると、遠くの森がある方角から激しい足音が聞こえ、銀色の何かがゲノムの前で止まる。そして、そのまま抱きついた。

「やっと出てきたのです。ゲノムぅ」

「おお、シロ。よしよし」

現れたのは銀色の狼の獣人、シロだ。彼女は豪快に尻尾を振りながら、彼の体を舐め回す。

「ゲノム、ここみて、ここ。ぶつけた」

「はいはい」

次いで現れたのは、単角の黒髪の少女ゲヘナ。既に痛くも何ともない頭を指さし、ぐりぐりと彼に押し付けている。


「君の家族かい?」

リッツは和やかな笑みを浮かべ、ゲノムに問う。

「うん。あと二人いるけどね」

ゲノムは初めて見せる笑顔で答える。


「いい家族だ」

「うん」

「大切にね」

「そっちも」


そうして二人は別々に歩き出す。

きっと、また会えるのだから。





帰り道、リッツは一人考える。


「······そういえば、彼の魔術は必ず触媒を使用していた。ならば、王女殿下に見せていた幻術には何が······」


そんな考えが頭を過ぎるが、急な頭痛に考えるのを止める。


今思い出すのはあれだけで十分だ。クーデターを成功させた時、窓辺から見えた美しい光。


月下に輝く幻想魔術を。

グランリノ編一時終了です。

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