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白き願い

 たくさんの花束(はなたば)


 そこに飾られた写真。


 コップにある差し水。


 見ていて、何か痛々しかった。

 「凛ちゃん…」

 美雨は、そんな道路の横を見ながら凛の返事を待った。

 「うん…何か嫌だなぁ〜、一応うちらここにいるからね……」

 「同感だよぉ〜…」

 血に塗れていた道路は、普段道理に人々が行き交う。

 会社へ向かう人や、デートの待ち合わせに向かう人。

 いろんな人が、冬の寒い中コートを着込んで騒がしく歩いている。


 ・・・ドクンッ・・・


 心臓が跳ねる。

 黄色い光に包まれていく。

 「ねぇ、凛ちゃん…うちらこれで終わりなのかなぁ〜…」

 消えかかる体を見つめながら、質問の答えを待った。

 「天国で幸せを追って暮らすんだよ?それに天寿が来れば、またこっちの世界に生まれることが出来るから…」

 美雨はコクンと頷き、ゆっくりと目を閉じた。


 もうこの場所で事故が起きませんように…。

 あたしたちみたいに、幸せな時間を無くす人がいませんように。

 

 美雨はそう願いながら、ゆっくりと青い世界に戻った。

 中学2年、14歳の『綾瀬美雨』。

 天寿が来るのは86年後。

 本当に短い命。

 儚くもろく哀れな魂。

 唯一の幸せを奪われた。

 でも、美雨はそう思っていない。

 美雨の生きがいが、現世で生きる陸斗だから…。



 長く、長く。

 あたしの命の代わりに、100年の時を過ごして……。



 2月に降る雪。

 それは美雨の涙の代わりに降った、幸せの初潮。

 病院で眠る陸斗には、美雨の声が聞こえていた。

 わずかな意識の隙間から、美雨の旅立ちの声が……。


 美雨…俺、聞こえてるよ。

 美雨の声……。

 俺は長く生き続ける。

 美雨に言われた通り、100歳になっても元気でいるようにすっから。



 雪は真っ白のまま…。

 汚れずに舞い落ちる。

 白く、輝いて水になる…。



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