扉
気持ちがコントロール出来ない。
揺れたまま…。
ずっと、ずっと。
「怖い…」
美雨はそう言って怯えることしか出来なかった。
怯えるたびに、美雨の心は乱れ災害を生み出す。
「やだ、死にたくなかった…」
ガラスが割れ、写真が落ちる。
美雨は浮遊し続けた。
そのたびに割れるもの、咳き込む人。
泣き出す子供。
「みぃ…落ち着けっ!」
陸斗にそう言われて、美雨はやっと我に返った。
「り…陸ぅ〜っ!!怖いよあたし、怖いの…陸が現世に戻ったら、あたしのこと見えなくなっちゃうでしょ?声だって聞こえなくなっちゃう。あたしの好きな人って話したの覚えてる…?あたしの好きな人、陸なんだもんっ!離れちゃうなんてやだっ!!陸ぅ…あたし、みんなの前に立っても、誰にも気づかれないんだよ?」
陸斗はそっと頷きながら、美雨の話を聞いていた。
「寂しいよぉ…陸……それでも美雨は…ずっと陸のこと好きだからぁ〜ッ!」
美雨の願いが叶うものならいいと思う。
でもその願いは陸斗や凛でも叶えてあげることは出来ない。
美雨の祈りは誰にも届かない。
神様にも叶えることは出来ない…。
「陸…神様っているのかなぁ〜?あたし、命が欲しいよぉ〜。それでもう一度現世に戻って、陸と一緒に学校行って、公園行って。それで一年たった2月14日には二人でまた……また、お祝いしよ?陸ぅ、お誕生日おめでとぉって、またお祝いしたいよぉ〜」
泣いて泣いて泣いて、それでも枯れない涙が驚くほど静かに流れる。
陸斗は話し続ける美雨をギュッと抱きしめて、頬にキスをした。
「陸…あたしがこんなこといっちゃったから、あの…あれだけど……。陸はちゃんと戻らないと駄目だよ…?」
真っ赤に頬を火照らせて、美雨は照れながら言った。
「なんで…?」
「だって、陸斗は美雨が生きれなかったぶんまで、長生きしなきゃいけないんだよぉ〜っ!美雨はもう心残りは無いんだもん。陸斗に好きっていったから…あたしはもう戻らなきゃいけない…」
また一粒の雫が落ちた。
「何でそんな心残り残してたんだよ……もっと難しいのにしろよ…俺がもっとみぃのそばにいたのに」
陸斗は、無理に精一杯笑って見せた。
「陸…そんなに笑わないでよぉ〜…あっ、陸。もう戻る時間だよ?病院に行く?」
美雨も精一杯笑った。
涙をぬぐって、笑って笑って…本当に最後の最高の笑顔を贈ろうとした。
「美雨ちゃん…病院の後、あたしたちは事故現場に行こうね?」
「……うんっ……」
その後は無言で歩いた。
本当に明るい笑顔を絶やさずに。
願いと祈りはそのまま、誰にも届かずに胸の中にある。
しまったまま、鍵をかけて誰にも触らせない。
心の奥にある、開かない門のさらに奥。
大きな扉が、願いと祈りの鍵。




