思い
まだ泣いてる。
あたしの魂の無い体の前で、あたしに触れて誤って。
魂の無い体に誤るぐらいなら、ここにいるあたしを見て欲しい。
「何で見えないの…」
美雨は、お葬式という行事を見ていた。
凛と美雨の写真が二つ。
楽しそうに笑った、最高の笑顔。
真っ黒な服なんか着ちゃって、あたしにすがるように声かけて。
母さんやみんなが声をかけてるのはあたしじゃないのに。
美雨は思いっきり泣いた。
自分の体の前で泣いてることが不思議でたまらない。
幽霊になったあたしを誰も見ることが出来ないのが許せない。
「許せない…っ」
「駄目美雨ちゃんっ!抑えて、心を沈めて」
美雨の強い言葉は、ただの人間には凶器になる。
急に咳き込み始めた友達を見て、自分の存在が逆につらくなる。
「みぃ…大丈夫か?」
「あたしが…大丈夫…?大丈夫じゃないよ、陸。辛い、辛すぎるよ?陸も戻ったらあたしが見えなくなるでしょう?嫌だ、怖いのッ!あたし怖いよ…」
陸斗は内心、すごく驚いていた。
ここまで混乱した美雨を見るのは初めてだったから。
違う、美雨から見ても、ここまで混乱したのは初めてだったのだ。
「綾瀬…いるんだろ?」
男子が一人、咳き込みながら美雨に近づいて来た。
「俺、見えるから…」
そう言って来たのは、クラスメイトの藤岡敦だった。
美雨はそんな敦の言葉に、スッと落ち着きを取り戻した。
それと同時に敦の咳き込みがなくなった。
「あたしが見えてる…?本当に…?」
「おうっ!っと、神野もいるし、って!なんで陸斗までいるんだ?」
だんだん大きくなっていく敦の声に、美雨は『駄目ぇ〜』と大きな声で叫んでしまった。
・・・パリンッ・・・
美雨の叫び声は、お葬式に飾られた美雨と凛の写真にひびを入れた。
「えっ…?やだ、何で写真にひびが…?」
美雨のお母さんは、写真に手をかけた。
・・・ガシャンッ・・・
「キャー…!痛い…何で……?」
美雨は乱れた心のまま、力を思いっきり振った。
美雨のお母さんは写真の割れたガラスで手を切り、上から降ってきた花瓶で頭から水をかぶった。
美雨は自分を抑えきれないままだった。




