異世界
青い空。
アイス・ブルーに輝く海。
「すごぉ〜い」
青すぎる世界に目を見張り、真っ白なものに目を光らせた。
まるで、初めて空を見上げたように…。
初めて海を眺めたように…。
「美雨ちゃん…ここがどこか、もうわかるはずでしょう?」
信じたくはないけれど、美雨はちゃんと理解していた。
何にも触れることの出来ない手。
鏡に映らない美雨の姿。
暖かさも感じられない体。
何も言わなくてもわかっている。
わたし自身が幽霊というものになってしまったことを…。
「信じたくないの…。もう、陸に会えなくなってしまったこと。ずっと好きだったのに、なんで…?なんで凛ちゃんはわたし達を助けようとしたの?あたしは……」
霊界で初めて流れた涙は、冷たさも感じられない寂しいものだった。
「あたしは……凛ちゃんを巻き込みたくなかった。陸と……どうせここに来るのなら、陸と一緒が良かった。わたし達はいつでも、どんな時でも一緒だったから……これからもって思ってたのに…」
涙を流している感覚が無い。
自分で自分に触れた感覚が無い。
美雨は自分の頬に手を添えた。
そんな美雨を見ていた凛は、美雨の手を強く握ることしか出来なかった。
「ご…めんなさい……美雨ちゃんも助けてあげたかったの……」
「誤らないで頂戴…。凛ちゃん…誤られたら、余計辛いんだもの」
天国の青。
それは、深く濃い色に染められた死者の世界。
天寿を迎えれば再び戻れる現実世界に、今は夢を持ちたい。
「神様は残酷で冷酷ね……だって、あたしはあたしが死んだ日に本当は…陸に思いを伝えようとしていたのに……。重要なことを、生きている間に出来なかった。それは、あたしの心残り…」
「ここはどこなんだろう…?」
追いかけるように陸斗は扉の中に一歩足を踏み出していた。
青い世界。
「天国の青……」
本で読んだことのある、天国の表現。
本当にそのとうりだと思った。
「みぃはどこ…?」
陸斗は過ぎる景色を目で追った。
どこも、俺の知っている街の風景だった。
「みぃの家…俺の家だ」
隣り合った二つの家を見下ろしながら、ひっそりと願った。
「みぃがここにいますように…」
不思議なほど優しい香りが漂っていた。
天国という異世界を見下ろして、ただ白紙と変わらない空白のページのような白く青い世界に魅入られていた。




