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旅立ち

 『陸ぅ〜っ!』

 どこからか、美雨の声が響いた。

 「み…ぃ」

 体は重く、目が開かない。

 呼吸が荒く、白いベットの上に横になったまま。

 「みぃ…」

 陸斗は懸命に美雨を呼んでいた。

 でも聞こえたのは、機械の音と誰かのすすり泣く声だけ。

 「陸…斗…?」

 「母さん……?」

 やっと目が開き、見えたものは…陸斗の親と、美雨の親。

 何人かの友達だけだった。

 「何が…あったんだ…よ…」

 友達が何人か、声をそろえて答えようとしていた。

 「事故……」

 悲しそうな顔をして、泣きながら陸斗の横を指で示した。

 けれどそこにいたのは美雨ではない…。

 美雨な分けがない。

 信じたくない。

 変わり果てた姿。

 血まみれで、ぐったりとしている。

 「みぃ…死んでないよな……死ぬわけないよなぁっ!」

 美雨の横には、さらに誰かが寝ていた。

 「何で…神野(かみの)までいるんだ…」



 ・・・数時間前・・・


 陸斗と美雨は楽しそうに話していた。

 歩きながら、笑顔で溢れていた。

 『あッ、美雨ちゃんと陸斗くん』

 (りん)は、美雨と陸斗を見つけて声をかけた。

 『あっ、待って…美雨ちゃん後ろっ!』

 凛は叫んでいたけれど、遠くにいる美雨たちにその声は聞こえていなかった。

 凛は歯を食いしばって駆け出した。

 『あっ!ねぇ陸斗くん、美雨ちゃんっ!』

 凛は足が速く、美雨と陸斗が車に跳ねられる直前に、車の前で美雨たちの肩を押した。

 『キャーッ!!』

 三人の悲鳴が響いた時、凛は間に合わず事故に巻き込まれていた。

 


 「神野さん…陸斗くんたちを助けようとしたみたいなの。でも、神野さんって声が小さいから…届かなかったと思う……」

 病院に響く機械の音は、次第にピーと鳴り続けた。

 その音は死のサイン。

 「ちょっとっ!神野さんがぁ〜…うっ、やだぁ〜!戻って来てよぉ」

 涙すら流れなくなるほどの衝撃。

 言葉を失うほど悲しい悲劇。

 「うっ…う…やっ…神野さぁん」

 そしてもうヒトツ。

 ・・・・ピーー・・・・

 機械は凛の後を追うように鳴った。

 美雨はもう呼吸すらしていなかった。

 「み…ぃ…?」

 寂しく病室に響く音はもう鳴り止まない。

 「2月14日11時59分…神野様と綾瀬様が天国へ行かれました」

 美雨は、この日が何の日なのかわかって旅立ったのか…。

 誕生日の夜。

 日付の変わる寸前の59分に、美雨は届かない所まで飛び立った。

 儚く優しい命の灯火が消えた。

 「み…ぃ……」

 陸斗の目には、透明な雫が光った。

 美雨のために流した涙なのか…?

 戸惑いと困惑。

 陸斗はもう一度眠りについた。

 何も言わずに、ただ美雨と凛の傍にという思いだけで。



 {あッ陸ぅ♪}


 まだ生きてるじゃないか…。


 {みぃ、速く行こう…?みんなが待ってる}

 陸斗は、目の前にいる美雨に手を差し伸べていた。

 {駄目だよ、陸斗くん…。あたしも美雨ちゃんも、もう戻れない。ほら、泣いてるでしょ…?あたしはあそこにいる…でも、あたしの魂はここにある。美雨ちゃんとあたしは死んじゃったから…}

 凛は自分の体を見つめていた。

 静かに苦笑いをしながら、何にも触れることが出来ない手を見つめて。

 頬を伝う涙を、ただ静かに待った。

 {陸斗くん…助けようとしたのに、美雨ちゃんを連れてきちゃってごめんなさい……陸斗くんだけでも助かって……よかった。元気でね…}

 凛はそういいながら、何も状況をつかめていない美雨の手を引っ張った。

 旅立ちの色が、美雨と凛を包んでいる。

 美雨と凛の進む先にある扉を見つめながら、陸斗はもう一度泣いていた。



 ・・・・ピーー・・・・

 陸斗の命も、儚く消えようとしていた。

 美雨を失い、クラスメイトも失った悲しみが強すぎて、陸斗の体が生きることを拒否していたのだ。

 (美雨…もう少しでそっちにいくから……)

 陸斗の死にかけた体には、ゆっくりと涙が伝っていった。

 「先生ッ!陸斗がぁ…」

 病院にいたクラスメイトも親も学校の先生も。

 ただ泣くことしか出来なかった。

 信じて、祈るだけ。

 なんて安っぽい行為なんだろうか。

 そんなことで命がひとつ助かれば、誰だって同じことをするのに…。

 でも、それでも助かって欲しいから…。



 

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