はないちもんめ
『勝~って嬉しいはないちもんめ』
『負~けて悔しいはないちもんめ』
駅の中で変なものを見た。数人の子どもたちが、駅のホームの真ん中で「はないちもんめ」を遊んでいる。時間は夜の10時を少し回ったところ。
『どの子がほしい?』
こんな夜遅くに子どもが駅で遊ぶなんて、普通では考えられないことだ。
「注意する人いないのかなぁ…」
子どもたちは、小学校の低学年くらい。周りに保護者のような人は見当たらず、子どもたちだけで遊んでいるようだった。
『相談しましょ』
夜なので人は少ないが、電車が出入りするホームの中で遊ぶのは危険すぎる。
「う~ん、駅員さんに言って注意してもらおう」
私はホームの椅子から立ち上がると、駅員さんを探すことにした。
『そうしましょ』
駅員さんを探しにいこうとしたその時…
「お姉ちゃん、あんた見えんの?」
近くにいた掃除のおばさんが、私に向かって声をかけてきた。
「えっ?は、はい…」
おばさんは重たそうな掃除道具を床に置くと、小走りで私に近づいてきた。
「言わなくても大丈夫よ。駅員さん、わからんから…」
「はぁ…」
おばさんはホームで遊ぶ子どもたちを静かに見つめながら、私に向かって小さく囁いた。
「あの子らが出ると、誰か死ぬんや…見なかったことにしてもう帰りぃ…」
『き~まった!』
駅のホームに電車が入ってきた。それと同時に、乗客の悲鳴とホームを走る駅員さんたちの姿が見えた。飛び込み自殺だった。
この事件以降、私はあの駅に近づいていない。